顧問弁護士が従事者として公益通報対応業務を行うことの注意点

*本設問と回答は、労働者が301人以上の事業、及び、労働者が301人未満であるが任意で公益通報対応業務従事者(従事者)を指定する事業者を対象にしております。

そのため、労働者が301人未満で、かつ、公益通報対応業務従事者(従事者)を指定しない事業者には本設問と回答は必要ありませんので、ご注意下さい。

≪参考資料≫
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を計るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)

公益津放射保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説/消費者庁作成

Q1 顧問弁護士に公益通報窓口となってもらう場合、その顧問弁護士1名だけを公益通報対応業務従事者(以下、「従事者」といいます。)に指定すれば良いのでしょうか?

労働者が301人以上の事業者が指定しなければならない従事者は、「公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者」です(指針第3-1参照)。

公益通報窓口として公益通報を受け付ける者は、公益通報者を特定させる事項を必然的に知ることになりますので、従事者に指定しなければなりません。

公益通報窓口については、組織の長その他幹部からの独立性の確保の観点から、外部に委託することが推奨されており、顧問弁護士も外部委託先の候補となります。

顧問弁護士に公益通報窓口を依頼する場合、従事者と指定した顧問弁護士のみが窓口対応を行うのであれば、従事者として指定するのはその顧問弁護士だけで足りるかもしれません。

しかし、すべての公益通報を顧問弁護士一人だけで受け付けるのは現実的ではありません。

一般的には、従事者として指定された顧問弁護士だけでなく、その法律事務所の事務職員も公益通報を受け付けることになると思われます。

このような場合には、公益通報を受け付ける事務職員も、従事者として指定しなければなりません(注記参照)。

また、受け付けた公益通報の調査や是正措置も顧問弁護士に依頼する場合、その顧問弁護士が、同じ法律事務所のアソシエイト弁護士などに協力してもらうことも一般的です。

この時に、アソシエイト弁護士に対して、公益通報者を特定させる情報を除外して情報を共有した場合には、アソシエイト弁護士を従事者として指定する必要はありません。

しかし、具体的な検討を行うためには、公益通報者を特定させる情報を共有しなければならないケースもあります。

そのような場合には、事業者は、アソシエイト弁護士も従事者として指定しなければなりません。

このように、顧問弁護士に公益通報窓口となってもらうとしても、顧問弁護士のみを従事者として指定するだけでは足りないケースがほとんどです。

顧問弁護士に公益通報窓口等を依頼する場合には、実際の業務フローを確認したうえで、必要な人を従事者として指定する必要があります。

また、事務職員は、顧問弁護士の法律事務所に勤務し続けるわけではなく、いつかは退職します。

アソシエイト弁護士も、いずれ独立や他事務所への移籍により、顧問弁護士の法律事務所からいなくなる可能性があります。

そのため、顧問弁護士にとって、事務職員やアソシエイト弁護士を従事者とすることは無期限の刑事罰としての守秘義務があることから、非常にセンシティブな問題となります。

Q2 公益通報窓口として従事者となった顧問弁護士が、法律事務所内で、従事者指定されていない弁護士や事務職員に対し、「当該業務に関して公益通報者を特定させる事項」を情報共有することは、公益通報者保護法の守秘義務に違反するでしょうか?

従事者は、正当な理由なく、公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならず、この守秘義務に違反した場合には、刑事罰があります。

従事者である顧問弁護士が、公益通報窓口で受け付けた内容のうち公益通報者を特定させる事項を、従事者ではないアソシエイト弁護士や事務職員に対し、業務のために情報共有した場合は、「公益通報対応業務に関して知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らした」ことに該当し、上記の守秘義務違反として刑事罰の対象になります。

なお、業務に必要な範囲で情報共有したのであれば、「正当な理由」に当たり守秘義務違反とならないのではないかとお考えの方もおられると思います。

しかし、消費者庁は、この「正当な理由」の例として以下の①~④を挙げております(消費者庁HPの「従事者に関するQ&A(Q9)」参照。)。

① 公益通報者本人の同意がある場合

② 法令に基づく場合

③ 調査等で必要な範囲において従事者間で情報共有する場合

④ 調査又は是正措置を実施するに当たり、従事者の指定を受けていない者(例えば、通報対象事実に係る業務執行部門の関係者等)に対し、公益通報があったことも含めて公益通報者を特定させる事項を伝えなければ調査又は是正措置を実施させることができない場合(例えば、ハラスメントが公益通報に該当する場合等において、公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進める上で、公益通報者の排他的な特定を避けることが著しく困難であり、当該調査等が法令違反の是正等に当たってやむを得ないものである場合)

そして、従事者である顧問弁護士が従事者でないアソシエイト弁護士や事務職員に情報を共有することは①~④のいずれにも該当しません。

公益通報者を保護するという公益通報者保護法の目的から考えると、この守秘義務の例外である「正当な理由」は、限定的に解釈されます。

そして、例として挙げられていないものについては、原則として「正当な理由」には該当しないと考えざるを得ません。

従って、業務上の必要があるとしても、従事者でないアソシエイト弁護士や事務職員に対して、公益通報者を特定させる情報を共有する行為は、公益通報者保護法の守秘義務違反となると考えられます。

(この点について当事務所は確認のために消費者庁に電話問い合わせを行い、上記の趣旨の回答を得ております。)

守秘義務違反にならないためには、情報を共有する可能性のある者を全て従事者と指定しておくことが必要です(上記「正当な理由」の例の③に該当します。)。

事業者は、従事者に守秘義務違反を理由とする刑事罰が科されないよう、必要な範囲で従事者の指定をしなければならないことにご注意ください。

Q3 顧問弁護士に公益通報受付窓口となってもらえば、「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」はとられていると考えてよいのでしょうか?

改正公益通報者保護法では、事業者は、「公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置」をとらなければならないとされ(11条2項)、その一つとして、組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置をとることが要求されています(指針解説第3Ⅱ1⑵)。

そして、「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」の具体例として、公益通報受付窓口を外部委託先や親会社等に設置することが挙げられています。

顧問弁護士も外部委託先の候補となりますが、利益相反の観点からは注意が必要です。

すなわち、「公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置」として、独立性の確保に関する措置の他に、利益相反排除に関する措置もとらなければならないとされています。

そして、利益相反の観点から、顧問弁護士は、事業者の顧問であるために公益通報をすることを躊躇する者が存在し、このことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあるという指摘がされています(指針解説第3Ⅱ1⑷④)。

また、通報対象事実の内容によっては、顧問弁護士が公益通報を受け付けたり、調査・是正したりすることが、中立性や公正性に疑義が生じるおそれもあります。

そのため、顧問弁護士を公益通報受付窓口とすることは、独立性の確保に関する措置をとったと考えることはできそうですが、顧問弁護士と事業者(会社)との密接関係から公益通報を妨げるようなことはないか、中立性や公正性に疑義が生じるおそれがないか、といった利益相反の問題が生じるか否かも検討事項になります。

このように、顧問弁護士に公益通報受付窓口等を依頼すればすべて安心、というわけではありませんのでご注意ください。

また、公益通報の内容が、代表取締役社長やその他の取締役の違法行為であることもありえます。

上記の場合については、現時点の文献上では明確に問題設定されていないようですが、会社の経営者(経営陣)に関する通報について、顧問弁護士が公益通報者保護法の従事者として業務遂行することで、顧問弁護士にとっては公益通報対応業務の義務と弁護士倫理上の義務が衝突するというセンシティブな問題が生じないかという問題です。

この問題は会社経営者にとってみれば、重大な問題なのに、いざというときに顧問弁護士の活動を得ることができなくなる、という事態を意味します。

なお、当然のことですが、顧問弁護士に公益通報受付窓口となってもらった場合には、そのことを労働者や役員等に周知するとともに、公益通報をしようとする人が通報先を選択するにあたっての判断に資する情報を提供する必要があります(指針解説第3Ⅱ1⑷④)。

【注記】
消費者庁の指針解説では、公益通報の受付、調査、是正に必要な措置について、主体的に行っておらず、かつ重要な部分に関与していない者は、公益通報対応業務を行っているとはいえないことから、従事者と指定しなくて良いとされています(指針解説注8)。
そのため、法律事務所の事務職員やアソシエイト弁護士が、公益通報対応業務に関わったとしても、そのかかわり方次第では、従事者と指定しなくとも良い場合もありえます。
しかしその区分は明確ではありません。

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