労働契約書(雇用条件通知書)とは?重要な理由と作成のポイントを解説

1労働契約書が重要な理由

①労働契約書と就業規則は従業員との関係性の要

従業員が会社に対してどんな権利を有し、どんな義務を負うのかを規律するのが労働契約書(及び就業規則)です。ここが曖昧であったり必要な規定が無かったりするとトラブルになりやすくなります。経営者にとって思いがけない事態を防ぐためにも、従業員を雇用する前に労働契約書を精査して作る必要があります。

②一度間違えて設定してしまうと取り返しがつきません

一度従業員に有利な契約を締結してしまうと、後から条件を変更することは困難を伴います。特に毎月の手取りが減少するような変更は法律上も困難であり(労働条件の不利益変更)、事実上も従業員の会社に対する忠誠心を低下させかねません。また、必要な支払いがされていなかった場合は過去に遡って利息をつけての支払いが必要になることがあります。

③対象者が多数となるだけに甚大な影響をもたらします

雇用契約書の雛形に不適切な点があるなど間違いに気づかないまま雇用を続けると問題がどんどん拡大していってしまいます。一人当たりの金額はそれほど大きくないとしても、全従業員に支払いが必要となると合計金額が多額になり会社の存亡にも関わる事態となることがあります。

2 労働契約書の作成のポイント

①労働条件通知書の内容は網羅する

契約を締結する場合には契約書を取り交わすのがビジネス上では当たり前です。しかし、意外にも雇用の場面では労働契約書が作成されることが必須とされているわけではなく、労働基準法や労働契約法に作成義務は規定されていません(労働契約法第6条参照)。

他方で、労働基準法第15条第1項は、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」と定めており、この内容の詳細については、労働基準法施行規則5条1項が以下のように列挙しています。

・労働契約の期間に関する事項

・期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 ※更新する場合がある場合のみ

・就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

・始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

・賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

   ※ただし、昇給に関する事項は書面等で示す必要はない(規則第5条第3項カッコ書き)。

・退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

※以下は規定しない場合は明示不要
・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
・臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
・労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
安全及び衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・休職に関する事項

これに加えて、パート・有期労働契約者に対しては、以下の事項も明示する必要があります(パート・有期雇用労働法第6条第1項・同施行規則第2条第1項各号)。

  • ・昇給の有無
  • ・退職手当の有無
  • ・賞与の有無
  • ・短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

なお、労働条件通知書は従業員が希望すれば、メール等で送ることができるようになっています(労働条件通知書の電子化 )。

これら記載すべき事項については厚生労働省が書式を作っています(厚生労働省HP

② 労働条件通知書 兼 雇用契約書というタイトルにして漏れを防ぐ

上記のように、法定の事項を網羅した労働条件通知書を交付すれば使用者としては充分ですが、法律を知らない従業員が「労働契約書をもらっていない」と不信感を抱くことを防止するため、タイトルは労働条件通知書兼雇用契約書としておくと良いと思われます。

また、書面を2部作成し、労働者の署名押印と日付の記載を得たものの1部は労働者に渡し、もう1部は雇用主側が手元に保管しておくことで、労働条件を通知したこととその内容を確実に後日立証することができます。

【コラム ―賞与を有と記載することの是非―】

例えば有期雇用の社員を採用する場合に、賞与の欄を「有」として、通常想定される賞与の額を記載する例が散見されます。その後、不況や業績悪化、当該社員のパフォーマンスが芳しくないなどの理由から賞与を不支給とした場合に、従業員側から労働条件通知書と異なると主張がされトラブルに発展することがあります。
賞与が業績等に基づき支給されない可能性がある場合は、制度としては有としつつ、賞与が業績等に基づき支給されない可能性についても明示をすることが望ましいといえます(短平31.1.30雇均発0130第1号(19頁)参照)。この点、厚労省の雛形では「有(時期、金額等)、無」としか欄がないため、注記を入れるなど工夫することが必要となります。

③ 求人票の記載と条件を変える場合は特に注意が必要

求人票よりも劣る条件を労働条件通知書に記載したとしても、雇用主から変更点について特段説明が無い場合は、労働条件通知書の条件ではなく求人票の条件で契約が成立していたと主張がされることがあります。

例えば、正社員を募集したが良い人材の応募が無かった場合、採用側が1年の有期雇用で一人雇ってみるという判断をすることがあります。その後有期雇用を期間満了で終了しようとしたときに、「自分は正社員で応募したはずだ」と主張され、トラブルになることがあります。

裁判例(京都地裁平成29年3月30日判決)では、求人票に「期間の定めなし」と記載し、契約期間1年の労働条件通知書に労働者が署名押印していた事例で、労働条件変更に必要な同意があったとは言えないとされ、求人票に記載された内容の期間の定めのない(無期雇用の)労働契約が認められたものがあります。

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