1 懲戒解雇でも退職金を支払わなければならないのですか?
懲戒解雇を行う場合に、就業規則で退職金の全部又は一部を支給しないことを定めていたとしても、退職金の不支給が認められないことがあります。
この問題に関する一般論については、こちらの記事をご覧ください。
この問題に関する裁判例は数多くありますが、直近でこの問題が争点となった裁判例を参考として以下に紹介します。
なお、今回紹介する判例は、地方公務員を懲戒免職した場合の退職手当の不支給の可否が問題となった事案であり、民間企業における退職金不支給にそのまま適用されるものではありませんので、ご注意ください。
2 最高裁判所令和5年2月9日決定はどのような内容ですか?
飲酒運転により懲戒免職となった市の元職員が、退職手当全額を不支給とする市の処分の取消しを求めた裁判で、令和5年2月9日、最高裁判所第1小法廷は、元職員の請求を認めて退職手当金全額を不支給とする処分の取消しを認める決定を行いました。
この裁判では、一審も二審も退職手当金全額を不支給とする処分の取消しを認めており、最高裁判所も同様の判断をしたことになります。
最高裁判所は、この判断の理由として、飲酒運転の事故によるけが人はおらず、物的被害も極めて軽微であることを指摘して、退職手当には勤続に対する報償、賃金の後払い、生活保障といった性格があることを考慮すると、退職手当金全額を不支給としてもやむを得ないとするには均衡を欠いて重すぎると判示しました。
最高裁判所の上記決定も、退職金不支給に関する一般論を前提に判断しており、一つの事例判断として参考になります。
特に、飲酒運転に対する世間からの評価が厳しくなっている中で、上記決定がなされていることを踏まえると、民間企業においても、飲酒運転を理由とする懲戒解雇の場合に退職金全額を不支給とするか否かを検討する際の参考となります。