社員に身元保証人を求める際の注意点とは?

社員を採用する際に、社員に身元保証人を立てることを求めて、身元保証書を提出してもらうことがよくあります。

最近では、アルバイト社員が勤務中の不適切行動をSNSにアップして炎上し、企業に損害が生じるケースも発生しており、企業としては身元保証人を立ててもらいたいというニーズもあります。

何もトラブルがなければ身元保証書を利用することはないため、昔からある身元保証書に署名押印してもらっている企業も少なくないのではないでしょうか。

しかし、身元保証書を見直していないと、トラブルが発生していざ身元保証人に対して請求するとなったときに、署名押印してもらっている身元保証書が法律で定められた要件を満たしていないことが判明し、身元保証書が無効となってしまうリスクがあります。

そこで、企業と社員との間の身元保証について、見ていきたいと思います。

【目次】

1 身元保証契約とは?
2 身元保証契約の期間は?自動更新はできる?
3 身元保証人に通知しなければならない?
4 損害の全額を身元保証人に請求できない?
5 民法の規制は?民法改正による影響は?
6 社員採用時に身元保証人を求めるべきか?

1 身元保証契約とは?

身元保証契約とは、社員の行為により使用者が受けた損害を身元保証人が賠償することを約束する契約をいいます。

身元保証契約については、身元保証ニ関スル法律(以下「身元保証法」といいます。)が定めており、身元保証人の責任が重くなり過ぎないように制限しています。

また、身元保証契約は、保証契約の一つですので、民法の規制も受けます。

そして、身元保証法や民法の定めに違反する身元保証契約は無効となってしまいますので、これらの法律の内容を確認しましょう。

2 身元保証契約の期間は?自動更新はできる?

一般的に、契約の期間は、契約で自由に設定することができます。

しかし、身元保証契約では、契約期間は原則として3年間とし(身元保証法第1条)、特約がある場合には最大で5年間までに制限されています(身元保証法第2条1項)。

また、身元保証契約では、自動更新とすることはできません。

そのため、契約期間が満了した後にも身元保証人が必要な場合には、改めて身元保証契約を締結しなければなりません。

3 身元保証人に通知しなければならない?

身元保証法は、以下の事柄が生じたときには、使用者は遅滞なく身元保証人に通知しなければならないと定めています(第3条)。

  • ①社員に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを知ったとき(第3条1号)
  • ②社員の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し、またはその監督を困難にするとき(第3条2号)

さらに、使用者から上記の通知を受けたり、上記の事実を自ら知ったりした身元保証人は、将来に向かって身元保証契約を解除することも可能です。

4 損害の全額を身元保証人に請求できない?

身元保証契約を締結していれば、企業は、社員の行為により受けた損害について身元保証人に対して損害賠償請求することができますが、賠償請求できる損害の範囲についても、身元保証法は制限しています。

身元保証法第5条は、身元保証人の損害賠償の責任や金額を定めるにあたって、社員の監督に関する企業の過失の有無、身元保証をするに至った経緯、その際に払った注意の程度等一切の事情を考慮すると定めています。

そのため、社員の行為により発生した損害の全てについて、身元保証人に対して賠償請求できるとは限りません

実際に、以下のように身元保証人の責任を限定した裁判例があります。

  • ・342万円の損害額について身元保証人の責任額を20万円とした事例(中央企画事件、東京地裁昭和44年10月7日)
  • ・約900万円の損害額について身元保証人の責任額を180万円とした事例(嶋屋水産運輸事件、神戸地裁昭和61年9月29日判決)
  • ・約1億336万円の損害額について身元保証人の責任額を約4134万円とした事例(ワールド証券事件、東京地裁平成4年3月23日判決)

5 民法の規制は?民法改正による影響は?

身元保証契約も保証契約の一つですので、民法の保証債務に関する規定が適用されます。

まず、保証契約は書面でしなければならないと定められていますので(民法第446条2項)、身元保証契約も「身元保証契約書」などの書面を作成しなければなりません。

また、身元保証契約は、特定の債務を保証するものではなく、社員の行為により使用者が受けた損害賠償という不特定の債務を保証するものです。そして、就職の際の身元保証の場合、身元保証人は個人であることがほとんどですので、民法の個人根保証契約に当たります。そのため、身元保証契約では、身元保証人が保証する損害の限度額を身元保証契約書で定めておかなければなりません(民法465条の2)。

この限度額の定めは、令和2年4月1日施行の改正民法により新たに追加されました。そのため、令和2年4月1日よりも前に締結された身元保証契約には適用されませんが、これから身元保証契約書を作成する際は、限度額を定める必要があります。

6 社員採用時に身元保証人を求めるべきか?

最初に記載したとおり、これまでは、企業が社員を採用する際に、身元保証人を求めることが一般的であったように思います。

しかし、民法改正により身元保証契約書で極度額を定めなければならなくなったこともあり、身元保証人になることを拒否されることも多くなってくると考えられます。

また、他の企業では身元保証人が求められていないにもかかわらず、自社のみ身元保証人を求めていると、入社のハードルが高い企業として就活生に敬遠されてしまうかもしれません。他方で安い金額の極度額では採用者と身元保証人に、「なんだ、この程度のちいさな金額しか要求されないのか。」と思われてしまい、入社後の業務の価値を軽んじられるかもしれません(これでは本末転倒です)。

このようなことを踏まえると、社員を採用する際に身元保証人を求めないという選択も経営判断としてあり得ます。

もっとも、経理担当者など、日常的に企業の金銭を扱う社員については、横領などの金銭トラブルが発生しやすいですので、身元保証人を求めることも考えられます。

つまり、中途採用者が横領等の経済犯罪の経歴がある場合は、そのことを知っている親族は身元保証人になりませんから、その中途採用予定者は身元保証人を立てることができなくなります。このような観点からすると、採用する職種によってはリスクマネジメントのために、採用時に身元保証人を求めるという従来の企業慣習を継続することにも意義があるかもしれません。

しかし、時代の潮流は、新卒者には身元保証人を求めないという方向に舵取りしたように思われます。

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