遺言書は、これまでの人生で積み上げたご自身の財産について、「誰に」「どのように」受け継いでほしいかを明確に伝えることのできる最期の意思表示であり、遺言者が残された者に渡す最後の手紙でもあります。
遺言者が山あり谷あり、苦楽ありの人生で積み上げてきた財産が遺産(相続財産)です。土地や建物などの不動産、現金や預貯金、株式などの有価証券など様々なものがあるでしょう。
会社の経営者の場合には、その会社の経営権(会社支配権)を誰に承継してもらうかという、事業承継の問題にもなります。
遺言書は自分の死亡を前提にしますので、遺言書のことは意識したくない、というお気持ちもよく理解しております。
しかし、財産をお持ちの方がご逝去された後で、(口頭では財産の配分についてよく語っていたというのに)遺言書がないばかりに、会社経営を承継した方が経営権の元となる株式を保有できないとか、会社社屋や工場の土地建物を所有できず、経営危機に陥ることもあります。
また、遺言書がないために相続人間で、泥沼の紛争(相続が争族になり、さらに争続になる)という悲劇もまれではありません。
争族とは、相続人同士が争う一族になる、という意味です。
争続とは、相続人同士が互いにいがみ合う期間が長期化し、争い続ける一族になるという意味です。
争族も争続も、財産保有者が遺言書さえ作成しておけば、争いなど起きないのです。
では、遺言書はどのように作成したらいいのでしょうか。
遺言書には大きく分けて3種類の作成方法があります。
① 秘密証書遺言
② 自筆証書遺言
③ 公正証書遺言
①の秘密証書遺言は、遺言内容を誰にも知られたくない場合に使用する遺言方法ですが、せっかくご自身で作成した遺言書が法律的に有効なものであるかどうかの確認ができないなど、デメリットも多く、あまりお勧めしておりません。
遺言書としては②の自筆証書遺言が使われることが多いと思います。
自筆証書遺言は費用がかからないことがメリットです。しかし、自筆証書遺言には法定の要件があり、その要件を満たさないために無効となる場合もあります。
また、「遺言能力がないからこの遺言書は無効だ」とか、「(遺言者以外の)誰かが遺言者になりすまして作成した遺言書だから無効だ」という主張がなされて、遺言者のご逝去後に相続人間で遺言書無効確認の裁判になってしまい、激しい争族や争続になってしまう事案もあります。
そのため、当事務所では、特に、会社経営者の遺言書、多額の財産をお持ちの方の遺言書については、公正証書遺言をお勧めしています。
本稿では、③の公正証書遺言についてご説明させていただきます。
そのほか、非常に稀ではありますが、遺言作成を前に、急な病気や事故などで遺言者に死が迫っている場合などの緊急時には、「危急時遺言」という特別な方式で遺言書を作成することもできます。
当事務所では、この「危急時遺言」についても受任経験があり、かつ、裁判所に認めてもらいました。
危急時遺言についてはこちらをご確認ください。
1 公正証書遺言の作成手順とは?
公正証書遺言は、公証人が遺言者の遺言内容を聞き取り、証書に記載して作成していきます。
【公証人とは】 公証人法の規定により、判事や検事、法務事務官などを長く務めた経験のある物の中から法務大臣が任免した法律のエキスパートです。(詳しくはこちら?法務省ホームページ) |
しかしながら、その遺言内容の詳細については、遺言者ご自身において検討しなければなりません。
まずは、ご自身の財産について、どのようなものがあるのか、それはどこに、どれくらいあるのか、誰に、どれを、どれだけ相続してほしいのか、箇条書きでも良いので、ノートなどに書き出してみると良いでしょう。
また、「遺言書」というと形式的な文章になりがちですが、ご自身の亡き後、遺族へ伝えたいことや希望など、遺言者のお気持ちも「付言事項」として記載することができます。
付言事項には法律的な効力はありませんので、手紙を書くような気持ちでご自身の思いを自由に記載することが可能です。(例えば、なぜこのような内容の遺言書を書こうと思い至ったのか、遺族への感謝の気持ちや心配事、残された遺族(会社あるいは社員)に対する未来への希望など。)
付言事項を記載することで、世界に一つだけの心のこもった遺言書を作成することができます。
次に、ある程度遺言内容がまとまった時点で、公証人と事前に打ち合わせを行います。
遺言者の真意を正確に証書に記載するために、公証人による詳細の聞き取りや追加書類の依頼などがあります。(事前に準備が必要な書類については後ほどご説明いたします。)
必要書類が揃い、遺言書の内容が確定した後、実際に公証役場で公正証書遺言を作成する日時を決めます。当日の持ち物や公正証書作成に係る手数料については、この時点で確認しておきましょう。
作成日当日は、遺言者ご本人と証人2名で予約した公証役場に向かいます。
公証人が事前に作成した遺言書を読み上げますので、内容を確認し、特に問題がないようであれば、遺言者および証人2名が公正証書原本に署名・押印をします。最後に公証人が署名・押印し、公正証書遺言は完成です。
なお、遺言書を内密で作成したいので、誰に証人になってもらえばいいのか?と
お悩みの方も居るかもしれません。心配ご無用です。そのときは当事務所の弁護士が証人になります。弁護士には法令上の守秘義務があります。秘密が外部にもれることはありません。
2 遺言書を公正証書で作成するメリットとは?
公正証書遺言は、遺言者ご自身で記載する必要はなく、公証人が遺言者の遺言内容を聞き取り、法律で定められた方式に則って記載するため、方式や内容の不備などで無効になるリスクはほとんどありません。偽造や変造される恐れもないため、安心して確実に遺言書を残すことができます。
また、原本は公証役場で保管されるため、紛失のリスクもありません。
これに対し、自筆証書遺言では、ご逝去後に相続人間で遺言書無効確認の裁判になってしまい、結局、争族や争続になってしまう事案もあります。当事務所が公正証書遺言をお勧めする理由でもあります。
さらに、公正証書遺言では、遺言者が高齢、あるいは病気などで、公証役場に出向くことが困難な方のために、公証人が、遺言者のご自宅や病院等の施設に出張して作成することもできます。その場合、追加の費用は必要になりますが、身体に負担をかけることなく、安心・安全・確実な遺言書を作成することができます。
3 公正証書遺言作成の事前準備とは?
前述のとおり、公正証書遺言は遺言者の希望する遺言内容を、公証人により法律的に有効な方式で証書に記載されますが、大まかな遺言内容の検討・作成は遺言者自身で行う必要があります。また、そのために必要な書類等についても遺言者自身で準備しなければなりません。
相続(遺贈)させる財産等によっても多少変わりますが、主な必要書類は下記のものになります。
① 遺言者本人の印鑑登録証明書(3カ月以内に発行されたもの)
② 遺言で相続人に相続させる場合には、遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本(3カ月以内に発行されたもの)
③ 遺言で財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その方の住民票等、住所・氏名・生年月日のわかるもの
④ 遺贈または相続させる財産が不動産の場合は、土地・建物の登記簿謄本および固定資産評価証明書
⑤ 遺贈または相続させる財産が不動産以外の財産の場合は、それらを記載したもの
⑥ 証人の身分証明書(住所・氏名・生年月日・職業の記載のあるもの)
【証人について】 公正証書遺言の作成にあたっては、証人2名の立会いが必要になります。 ただし、以下に該当する方は証人になることができません。 ・未成年者 ・推定相続人及び受遺者、または推定相続人と受遺者の配偶者及び直系血族 |
⑦ 遺言執行者をあらかじめ決めておく場合は、その方の身分証明書(住所、氏名、生年月日、職業の記載のあるもの)
【遺言執行者とは】 遺言書に記載された内容のとおりに実行してくれる人のこと。 ※遺言執行者には、相続人や受遺者、証人も指定することができます。 |
⑧ 手数料
- 公正証書遺言を作成する際の手数料は、遺言により相続させ又は遺贈する財産の価額を目的価額として計算されます。
- 実際にかかる手数料につきましては、公正証書遺言の内容がある程度固まった段階で、公証人よりご連絡いただけます。
詳細につきましては、日本公証人連合会のサイトをご覧ください。
?https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
お近くの公証役場を調べる際には、日本公証人連合会の「公証役場一覧」のサイトが便利です。
?https://www.koshonin.gr.jp/list
4 当事務所にできること
当事務所では、これまでにも多くの方から遺言書に関するご相談やご依頼を受けて参りました。
「遺言書を作成したい」「すぐに作成する必要がある」「作成しておいた方が後々いいよね」など、皆様それぞれに違った状況やご事情があります。
そのため、当事務所では、1つ1つの事案ごとに丁寧な聞き取りを行い、ご依頼者様の心情に寄り添いながら、最善と思われる方法で遺言書作成のお手伝いをさせていただいております。
中でも、公正証書遺言は、2でお伝えしたとおり、安全かつ確実に遺言を残すことができるため、手数料等の作成費用を捻出できる場合には、公正証書で遺言書を作成することをお勧めしています。
公正証書遺言は、公証人によって記載されますが、最も重要な遺言内容の検討やドラフトの作成については、何から記載していいかわからず、戸惑いや不安を感じたりする方も多くいらっしゃいます。
必要書類についても全てを揃えるのに時間がかかったり、中には途中で面倒になり、遺言書の作成を諦めてしまう方もいるかもしれません。
当事務所では、ご依頼者様のご希望を伺いながら、遺言内容について一緒に検討し、ドラフトの作成、必要書類の取得、公証人との打ち合わせや日程調整を進めて参ります。
証人2名がいないというご心配についても、ご希望があれば当事務所の弁護士が証人となりご対応いたします。
遺言書の作成をお考えの方(遺言書作成の必要がある方)はぜひ当事務所にご相談ください。
一緒に納得できる公正証書遺言を作り上げて参りましょう。