【目次】 1 持株会に対して会社が貸し付けることに法的問題はありますか? 2 持株会は契約当事者になれないと聞きましたが本当ですか? 3 会社から貸付けを受けた金銭を返済する債務(義務)は誰が負うのですか? 4 持株会が株式を取得する際はどのようにするのが良いですか? 5 持株会の利活用でお困りの企業・経営者は吉田総合法律事務所にご相談ください |
1 持株会に対して会社が貸し付けることに法的問題はありますか?
持株会は、株式会社の株式を取得して、従業員や役員などの会員がその持分を持つ組織です。多くは、会員の属性に応じて、「従業員持株会」や「役員持株会」という名称で呼ばれています。
なお、持株会については、こちらの記事もご覧ください。
持株会では、会員や会員になろうとする者が出資金を支出して、その出資金で株式を買うのが通常です。
他方で、経営権支配権の維持などを目的として、より多くの株式を持株会に持たせたいけれども、会員から十分な出資金を得ることができないことがあります。
このような場合に、会社から持株会に対して貸付けを行い、その貸付金を元手に持株会が株式を取得することを検討することがあります。
しかし、会社が持株会に貸付けを行うことは、会員に予想外の負担を課すことになるため、注意しなければなりません。
2 持株会は契約当事者になれないと聞きましたが本当ですか?
会社が持株会に貸付けを行う場合の法律関係を考える際には、持株会の法的性格が重要なポイントになります。
持株会を一般社団法人として設立することもできますが、ほとんどの持株会では、民法上の組合として設立されています。
民法上の組合として持株会を設立するというのは、会員同士の組合契約によって持株会が成立しているということを意味しています(民法第667条1項)。
この組合としての持株会は、株式会社等と異なり、法人格がありません。
すなわち、組合としての持株会は、権利義務の主体にはなれず、契約の当事者にもなれないということです。
そのため、組合としての持株会が何らかの契約をする場合には、会員全員が契約の当事者となるのが原則であり、契約に基づく権利義務も会員全員に帰属することになります。
もっとも、組合員の数が多い場合に、組合員全員の同意を得なければ契約ができないとすると、組合として活動することが事実上できなくなってしまいます。
そこで、規約などで組合の代表者(業務執行者)を定めておけば、その代表者が組合員全員を代理して契約を行うことができます(民法第670条の2第2項、第670条2項)。そして、組合の代表者が代理して締結した契約の効果は、組合員全員に帰属することになります。
持株会では、持株会規約の中で理事長を定めることがほとんどですが、この理事長がここでいう組合の代表者に当たります。そのため、理事長が持株会の会員全員を代理して契約を締結することができます。ただし、この場合も、あくまでも会員全員が契約当事者として契約を締結するのであり、持株会自体が契約当事者になるわけではありません。
3 会社から貸付けを受けた金銭を返済する債務(義務)は誰が負うのですか?
会社が持株会に貸付けする場面を考えてみますと、会社との間で消費貸借契約を締結することになり、貸付けを受けた金銭を会社に返済する債務(義務)を負うことになります。
上記2で説明したとおり、持株会は契約の当事者になることができませんので、持株会として契約をしようとする場合には、持株会の会員全員が契約の当事者とならなければなりません。
すなわち、会社と持株会の会員全員との間で消費貸借契約を締結することになります(持株会の理事長が会員全員を代理して契約を締結することができることは、上記2に記載したとおりです。)。
そして、持株会の会員全員が、会社に対して貸付金を返済する債務(義務)を負うことになります。
この場合、約束通りに貸付金を返済しなかった場合には、会社は会員全員に対して貸付金の返済を請求することができ、会社が債務名義を取得すれば、会員個人の財産(預貯金や不動産)に強制執行することもできてしまいます。
会社から貸付けを受ける際に会員個人が債務を負うとは思っていないことがほとんどであり、知らないうちに高額の借金を負わされていたということにもなりかねません。
また、組合においては、仮に会員が組合を脱退(退会)したとしても、それまでに負っていた債務はなくならず、脱退(退会)した会員は債務を負い続けることになります(民法第680条の2第1項)。
そのため、会員が持株会を退会したとしても、会社から貸付金の返済を請求された場合には、返済しなければならないことになります。
すなわち、持株会が会社から貸付けを受けるということは、持株会を退会しても残り続ける借金を、知らず知らずのうちに会員に負わせることになってしまいます。
4 持株会が株式を取得する際はどのようにするのが良いですか?
持株会が会社から貸付けを受けることには、会員に上記のリスクを負担させることになり、会員から反発されてしまう可能性がありますので、避けるべきといえます。
特に、持株会は会社と同じであって返済の債務(義務)は持株会が負うと誤解している人が多いと思われますので、注意しなければなりません。
そうすると、持株会が株式を取得する際は、会員の出資金を原資にすることが好ましく、出資金で取得できる範囲内で株式の取得を行うべきといえます。
5 持株会の利活用でお困りの企業・経営者は吉田総合法律事務所にご相談ください
相続税の節税や事業承継対策、経営権支配権の維持などのために持株会制度を利用することが増えてきています。
しかし、持株会制度の理解が不十分だと、持株会をうまく利活用することができず、期待したほどの効果が得られない結果になってしまいます。
そのため、持株会の利用等については、弁護士のサポートが必要不可欠です。
持株会の利活用でお困りの企業・経営者の方は、ぜひ吉田総合法律事務所までご相談ください。
なお、持株会については、こちらの記事 もご覧ください。