定年退職後の再雇用時の労働条件はどのように決めれば良いですか?


【 目 次 】
Q1 定年退職後の再雇用時に、有期雇用契約を締結して従前の労働条件を変更することに、問題ありませんか?
Q2 定年退職後に有期雇用契約で再雇用することにしました。再雇用時の労働条件はどのように決めれば良いのですか?
Q3 定年退職後の再雇用者の基本給をそれまでのものより低額とすることはできますか?
Q4 定年退職後の再雇用者には賞与を支給しないとすることはできますか?
Q5 定年退職後の再雇用者には各諸手当を支給しないとすることはできますか?
 

Q1 定年退職後の再雇用時に、有期雇用契約を締結して従前の労働条件を変更することに、問題ありませんか?

無期雇用契約の従業員が定年退職する場合、定年退職後は有期雇用契約に切り替えて、雇用関係を継続させる企業も多くみられます。

例えば、60歳定年としている企業が、定年となった社員が65歳になるまでの期間、1年間の有期雇用契約を更新していく場合がこれに該当します。

このような対応は、高年齢者雇用安定法第9条で、定年年齢を65歳未満としている事業主に対して、65歳までの継続雇用制度の導入等の措置(高年齢者雇用確保措置)を取ることが義務づけられていることによります(厚労省「高年齢者雇用安定法Q&A」を参照。)。

そして、定年退職後の労働条件については、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨に合致したものであれば、事業主と従業員との間で決めることができます。

そのため、同法の趣旨に合致していれば、定年退職の前後で労働条件を同じにする必要はなく、定年退職後の再雇用を有期雇用契約にして、定年退職前の無期雇用契約と比較して賃金を減額するなど労働条件を変更することも認められています。

もっとも、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨に反することはできませんので、この趣旨に反する労働条件は認められません。

なお、パートタイム・有期雇用労働法については、厚労省のリーフレットもご覧ください。

Q2 定年退職後に有期雇用契約で再雇用することにしました。再雇用時の労働条件はどのように決めれば良いのですか?

定年退職後に有期雇用契約で再雇用する場合、定年退職前に行わせていた業務を引き続き担当させる企業も少なくありません。

これ自体は、何ら問題はありません。

しかし、従前と全く同じ業務を行わせるにもかかわらず賃金を下げるときには、均等待遇の原則との関係で問題が生じます(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」と言います。))。    すなわち、定年退職前の無期雇用契約と、定年退職後の有期雇用契約とで、全く同じ業務を行わせている場合に、賃金に差を設けることができるのかという問題です。

パートタイム・有期雇用労働法8条は、パートタイム・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇について、不合理と認められる差異を設けてはならないと定めています。

そして、待遇の違いが不合理と認められるか否かは、個々の待遇ごとに、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して判断されます。 なお、定年退職後に再雇用された有期雇用労働者であることは、この「その他の事情」として考慮することとなります(長澤運輸事件判決(最高裁平成30年6月1日判決))。

そのため、基本給や賞与、各手当などの個々の待遇を個別に検討し、不合理と認められるか否かを判断することとなります。

以下では、良くトラブルとなる待遇を取り上げます。

Q3 定年退職後の再雇用者の基本給をそれまでのものより低額とすることはできますか?

これまでの裁判例を踏まえると、定年退職後の再雇用の際に、基本給をある程度下げることは認められるようです。

これは、定年退職後に再雇用された者は、年金が支給され、給与が下がっても生活が困窮しないことが理由であると考えられます。

もっとも、定年退職時から年金が受給できる時までのタイムラグがある場合には、調整給を支給するなどの制度設計が必要となる場合もあります。

また、待遇の違いが不合理と認められるか否かの考慮要素には、「配置の変更の範囲」や「権限の範囲」も含まれます。

そのため、定年退職の前後で業務内容が同一であったとしても、配置転換がなくなったり、権限の範囲が縮小するという労働条件の変化があれば、待遇の違いに合理性が認められやすくなり、基本給を下げることも正当化されやすくなります。

ただし前記の労働条件の変化に比べて基本給の下落幅が大きすぎる場合は、待遇の違いが不合理と認められる可能性が高くなると考えられます。

Q4 定年退職後の再雇用者には賞与を支給しないとすることはできますか?

定年退職後の再雇用者には賞与は支給しないという会社もあります。しかし、定年までは賞与を支給していたのに、定年退職後の再雇用者には賞与を全く支給しないとする場合は注意が必要です。

賞与は、労務対価の後払いや功労報酬、生活費の補助、労働者の意欲向上等様々な趣旨を含みますので、所々の事情を考慮する必要があります。

これまでの裁判例は、それぞれの事案の個別事情による判断をしており、現時点では抽象化することが難しい状況です。

その中でもいえることは、いずれの裁判例も、賞与を検討する際に、賞与も含めた給与の総額も考慮しているということです。

そのため、基本給等の給与全体の金額も下げつつ、賞与を支給しないとすることは、従業員の生活を困窮させてしまうことから、不合理と認められてしまう可能性が高くなると考えられます。

Q5 定年退職後の再雇用者には各諸手当を支給しないとすることはできますか?

各企業ごとに、設けられている諸手当は千差万別です。また、同じ名前の諸手当であっても、支給する趣旨・目的が異なることもあります。

そのため、まずは、その企業においてその手当が支給されている趣旨・目的を確認する必要があります。

そして、支給する趣旨が定年退職後の再雇用者にも当てはまるにもかかわらず、支給しない場合は、裁判になったら不合理(合理性がない)と判断されて、会社が手当分の金額の支払いを命じられる可能性があります。

例えば、正社員には転居を伴う転勤が予定されているのに対して、定年退職後の再雇用者にはそれが予定されていない企業において、家賃等が多額となる正社員に対してのみ住宅手当を支給することは、合理的と認められやすいといえます。

転勤が予定されている正社員は転勤により家賃関連の負担が増加しますので、その負担を軽減または解消するために正社員に対し住宅手当を支給することは、合理的であると認められやすくなります。

裁判例でも、「この住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。したがって、正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえない」と判示しています(ハマキョウレックス(差戻審)事件判決(最高裁平成30年6月1日判決))。

このように、各諸手当の趣旨・目的から個別に検討する必要があります。

そのため、各諸手当の趣旨・目的を規程等で明確にしておき、紛争となってしまった場合に備えることをお勧めいたします。

   

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