【目次】 1 株主総会の書面決議・書面報告とは? 2 書面決議・書面報告はいつ行われたことになりますか? 3 書面決議・書面報告を使う際に計算書類はどうすればよいですか? |
1 株主総会の書面決議・書面報告とは?
株主総会は、株主に出席と準備の機会を与えるために、会社法が定める手続きに従って招集しなければなりません。
会社法が定める手続きによらずに招集した場合には、その株主総会で行われた決議が取り消されてしまう可能性があります(会社法831条1項1号)。
もっとも、株主総会の招集手続は、株主の権利利益を守るためのものですので、株主全員の同意がある場合には、招集手続を省略して株主総会を開催することができます(300条)。全員出席株主総会はこの制度により認められます。
さらに、株主全員が書面又は電磁的記録により同意した場合には、可決決議があったものとみなすことができます(319条1項)。これを、「書面決議」または「決議の省略」と呼びます。
また、事業報告や計算書類は定時株主総会で報告しなければならないとされていますが(438条3項、439条)、この報告についても、株主全員の書面又は電磁的記録による同意がある場合には、報告があったものとみなすことができます(320条)。これを「書面報告」または「報告の省略」と呼びます。
そのため、株主総会で予定している報告事項や決議事項について、株主全員から書面又は電磁的記録(電子メール等)による同意を得られれば、株主総会を開催しないでも開催して決議と報告がなされたのと同じ効果を得ることができます。
書面決議や書面報告は、株主が一人しかいなかったり、株主全員が友好的な親族であったりなど、会社と株主が友好的な緊密関係にある閉鎖型の会社のケースと、完全親子会社(子会社が100%子会社)のケースにおいて用いられることが多いです。
書面決議は、法定の要件さえ満たせば、普通決議だけでなく、特別決議や特殊決議についても、利用することができます。
定時株主総会には報告事項と決議事項がありますので、書面決議と書面報告を組み合わせることで、定時株主総会を実開催しないで済ませることも可能です。
なお、書面決議・書面報告では、会社が株主に対し書面または電子メールで、同意を得る具体的内容を記載した提案書を送付することが通例です。また、書面決議・書面報告の場合も株主総会議事録の作成と備置保管が必要です。
2 書面決議・書面報告はいつ行われたことになりますか?
書面決議や書面報告についても、株主総会議事録を作成しなければなりません(318条1項)。
書面決議や書面報告の株主総会議事録では、「株主総会の決議があったものとみなされた日」や「株主総会への報告があったものとみなされた日」を記載しなければならないとされています(会社法施行規則72条4項1号ハ、2号ロ)。
ここでいう株主総会の決議又は株主総会への報告があったものとみなされた日は、原則として、株主全員から同意の書面又は電磁的記録が会社に提出された日となります。
もっとも、株主全員から同意を得る際に、株主総会の決議又は株主総会への報告があったものとみなされた日を特定の日とすることの提案書を出して、それについての同意を得て、その特定の日までに株主全員から同意の書面又は電磁的記録が会社に到達すれば、会社が提案書に記載した特定の日に株主総会の決議または株主総会への報告があったものとみなすことができます。事前に株主総会議事録を準備しておく場合は、後者の「株主総会の決議又は株主総会への報告があったものとみなされた日を特定の日とする」方法が使われることも多いです。
3 書面決議・書面報告を使う際に計算書類はどうすればよいですか?
株式会社では、定時株主総会において、計算書類の承認を得なければならないと定められています(438条2項)。
もっとも、以下の3つの要件を満たす場合には、定時株主総会に計算書類を報告することで足りるとされています(439条、会社計算規則135条)。株式上場している会社で計算書類が報告だけで決議がなされないのは、この制度があるからです。
- ①取締役会と会計監査人を設置している会社
- ②会計監査報告で計算書類について無限定適正意見
- ③監査役等の監査報告で会計監査人の監査の方法又は結果を不相当とする意見がない
そのため、計算書類を書面で行う場合は、原則として書面決議ですが、上記3つの要件を満たすことができれば書面報告で行うことができます。
また、会社によっては連結計算書類を作成する場合がありますが、この連結計算書類については、定時株主総会の承認決議は求められておらず、定時株主総会への報告で足りるとされています(444条7項)。
そのため、定時株主総会を書面で行う場合には、連結計算書類は書面報告となります。