経営権に関するリスクマネジメントとは?

1 社長がうつ病などのメンタルヘルス問題を抱えてしまったら、会社はどうなる?

 ⑴ 中小・中堅企業では社長の健康=会社の経営状態

厚生労働省が公表している精神障害の労災補償状況によりますと、精神障害を理由とする労災補償の請求件数や支給決定件数が年々増加しています。

一般的に、労災保険に加入するのは労働者ですが、経営者である社長も、メンタルヘルスや健康問題と無縁ではありません。

特に、中小・中堅企業では、営業も経理も人事も全て社長が主導し、細部まで指示しながら経営することが少なくありません。中小・中堅企業の社長は、いわばオールラウンドプレーヤーと言えます。

このような特徴から、長時間の活動が必要となり、慢性的に疲労を蓄積してしまいます。これに加齢も加わることで、三大成人病やうつ病などの精神疾患を発症してしまう危険性があります。

それにもかかわらず、中小・中堅企業の社長の多くは、「オレは大丈夫だ」と過信して健康診断を長年受けていなかったりすることも多いのではないでしょうか。

その結果、経営者である社長が突然重病となり、会社経営が傾いてしまう事例も存在します。

中小・中堅企業においては、会社=社長(経営者)であることから、社長の健康問題が会社の経営に直結してしまいます。

ひとたび社長の健康問題が起こると、それまでの力強い経営ができなくなり、会社の収益力・体力・実力が急低下してしまいます。

そのため、会社経営のリスクマネジメントとして、社長の健康管理が必須となります。

⑵ 会社の意思決定にも影響がある?

社長が会社の株式を保有している場合には、会社法の観点からも問題が生じます。

例えば、社長が100%株式を保有している場合、その社長が脳梗塞等で認知機能が低下して単独で意思表示ができなくなったときは、その会社は会社法上の適法な意思決定ができなくなってしまいます。これは、うつ病などのメンタルヘルスでも同じ問題となります。

ここでは、社長以外の株主だけで、役員選任議案の定足数を満たすことができるか否かが法的なポイントになります。社長以外の株主でこの定足数を満たせば、定足数内の過半数の賛成により株主総会の決議が成立し、新たな役員を選任することができるためです。

なお、法律上は成年後見人制度・任意後見人制度という方法は存在しますが、企業経営上は非常に厳しい状況になります。仮に成年後見人が就いたとしても、成年後見人は法律的に問題ないかという視点や経営者本人の経済的利益となるかという視点からしか判断できません。また、成年後見人は、会社経営の専門家でもないため、それまでの経営者と同じように経営判断を行うことも期待できません。このような場合には、成年後見人が経営者の代理人となり、経営者が保有している株式を譲り受け、別の経営者へ移行していく必要があります。)

以前は、成年被後見人等であることは取締役の欠格事由とされていましたが、会社法改正により、成年被後見人等も取締役に就任できることとなりました(会社法331条の2参照)。もっとも、判断能力が低下していることには変わりませんので、適切に取締役としての業務執行を行うことができるかを慎重に判断しなければなりません。

2 会社の社長が亡くなってしまったら、会社はどうなる?

 ⑴ 社長の交代により会社経営に影響が生じる

社長が亡くなってしまった場合、取締役を終任することになります(会社法330条、民法653条1号)。その結果、代表取締役や取締役が欠けることになった場合には、新たに代表取締役や取締役を選出しなければなりません。

中小・中堅企業の場合、社長の能力や人柄、人脈によって会社を経営していることが多く、社長が変わってしまうと、会社の経営に大きな影響を及ぼすことになります。

特に、社長が急に亡くなってしまい、新たな経営者に引き継ぐ期間がなかったような場合には、会社の存続にもかかわることも少なくありません。

これは、まさに後継者問題であり、事業承継の問題でもあります。

万が一の場合に備えて、常日頃から後継者や事業承継のことも考えておくことが重要です。

⑵ 株式の問題も発生することも

さらに大きな問題となるのは、代表者が会社の株式を保有していた場合です。
株式を保有している社長が亡くなると、原則として、保有していた株式は相続人に相続されます。
この時に、例えば子の一人が会社の新たな社長となり、この人が株式を取得することについて他の相続人が同意すれば、紛争となることはありません。
しかし、すべてのケースで、このような解決となることは残念ながら期待できません。
株式を誰が取得するかについて、相続人間でもめてしまった場合には、交渉が難航し、最終的には遺産分割調停・審判によらなければならなくなることもあります。
その間は、相続人間で株式を共有することとなり、株主総会での議決権行使も相続人の持分の過半数が代表者を選ばなければ行使することができません(会社法106条)。そのため、場合によっては相続人による議決権行使ができず、株主総会の決議ができないこともあり得ます。
なお、株主の相続と権利行使については、こちらのページ をご参照ください。

⑶ 社長の相続問題は会社のリスクマネジメント

このようなことを避けるためには、社長があらかじめ遺言書を作成し、株式を相続する人を定めておくことが必要です。

遺言書を作成しておけば、遺留分という問題は残りますが、金銭で解決することができ、株式には影響しません。

遺言書を作成しておらず、急に大きな病気が発覚した場合に、遺言書の作成を周囲の人間から言い出すことは現実問題として難しく、社長に反発されてしまうことも考えられます。

そのため、あらかじめ遺言書を作成しておくことが重要です。これは、会社を守るために経営者に求められるリスクマネジメントです。

なお、その時の状況によって、遺言書に書きたい内容が変わることもあります。そのような場合には、新たに遺言書を作成して、前の遺言書を破棄すれば良いのです。遺言書は何度でも書き直すことができます。

また、会社関係のことに限定した内容の遺言書を作成することもできます。個人の財産についての遺言書はまだ書くことができないとしても、会社に関する財産についてのみ先に遺言書を作成することができます。

実際に、毎年1回、遺言書を作成しておられる経営者の方もおられます。

当事務所でも、経営者の方からそのようなご依頼を受けて、遺言書を作成しております。遺言書についてお悩みの経営者の方は、ぜひ当事務所へご相談ください。

   

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