パワハラ防止法の改正内容とは?

1 パワハラ防止法改正の背景

厚生労働省によると、都道府県労働局に寄せられる相談のうち、職場でのいじめや嫌がらせに関する相談の件数が長年にわたって最多となっているとのことです。

パワーハラスメント(以下では略して「パワハラ」と言います。)を含めたハラスメントは、労働者が能力を十分に発揮することを阻害することとなり、企業にとっても、職場秩序の乱れや業務への支障が生じたり、社会的評価にも悪影響が及んだりすることで、大きな問題となります。

このような背景から、2019年の国会において、「労働施策総合推進法」いわゆるパワハラ防止法が改正され、パワハラ対策の強化が図られました。

2 法改正の概要

改正パワハラ防止法30条の2及び厚生労働大臣の指針では、パワハラの定義を明記するとともに、事業主にパワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じることを義務付けました。

当初、中小事業主は、パワハラ防止のための雇用管理上の措置を義務付けの対象から外され、努力義務とされていましたが、令和4年4月1日からは、中小事業主も対象となりました。

そのため、現時点では、すべての事業主が、パワハラ防止のために雇用管理上の措置を講じなければならないことになっています。

そして、事業主に義務付けられている雇用管理上の措置の具体的な内容は、厚生労働大臣の指針で定められています。

なお、パワハラ防止のための雇用管理上の措置をとっていない場合、刑事罰が科されることはありませんが、行政による助言や指導、勧告、公表がなされることとなります。

行政による指導等を受ければ、会社の評判が下がってしまうことになりますので、企業経営者の皆様には、適切な対応が必須となります。

3 職場におけるパワーハラスメントとは

⑴ パワハラの定義

パワハラ防止法30条の2及び指針は、パワハラの定義を、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境を害すること」としています。

この定義は、以下の3つに分解することができます。

優越的な関係を背景とした言動であって
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
その雇用する労働者の就業環境を害すること

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

⑵ 「職場」とは?

上記のパワハラの定義では、それが「職場」で行われることを前提としています。

ここでの「職場」とは、事業者が雇用する労働者が業務を遂行する場所のことを言います。

労働者が通常就業している場所以外の場所や、勤務時間外であっても、実質上職務の延長であれば、「職場」に該当します。

そのため、例えば、出張先や業務で使用する車内、取引先との接待会場も「職場」に該当します。

⑶ 「優越的な関係」を背景とした言動とは?

ここでの「優越的な関係」とは、業務を遂行するにあたって、言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を言います。

例えば、

 ① 職務上の地位が上位

 ② 同僚又は部下ではあるが、業務上必要な知識や豊富な経験を有していて、協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難

 ③ 同僚又は部下の集団で、抵抗又は拒絶することが困難

という場合が、「優越的な関係」となります。

なお、パワハラ事案の相談をご希望される企業から話を伺ってみると、この「優越的な関係」を背景とした言動ではない場合が多い印象を受けます。

このように「優越的な関係」を背景としていないけれども、パワハラの他の要件に該当するような言動は、いわゆる「問題行動を起こす社員」の問題ということになります。

問題行動を起こす社員についても、パワハラに該当しないから放置しても良いというわけではなく、企業として別途対応が必要となります。

弊所では、問題行動を起こす社員への対応についても、企業経営者の皆様からご相談やご依頼をいただき、解決しておりますので、お気軽にご相談ください。

⑷ 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを言います。

これは、概括的な内容となっておりますので、様々な考慮要素を総合的に判断することとなりますが、以下のようなものが例として挙げられます。

 ・業務上明らかに必要性のない言動

 ・業務の目的を大きく逸脱した言動

 ・業務を遂行するための手段として不適切な言動

 ・行為の回数や行為者の数など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

なお、言動を受ける労働者の行動が問題となる場合には、その問題となる労働者の行動の内容・程度と、それに対する指導の態様等の相対的な関係が、重要な考慮要素となります。

そして、労働者に問題行動があった場合でも、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、パワハラに該当しますので、ご注意ください。

問題行動を起こす労働者への対応は、企業として適切に行う必要があり、弁護士の助言を受けながら進めていくことが好ましいです。

⑸ 「労働者の就業環境を害する」とは

「労働者の就業環境を害する」とは、当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを言います。

なお、この判断においては、当該労働者がどのように感じたかという主観的な観点ではなく、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」という観点から判断することとなります。

⑹ パワハラの類型

パワハラに該当すると考えられる行為は多岐にわたりますが、厚生労働省は、パワハラ行為を以下の6類型に分類しています。

この6類型に該当せずともパワハラとなる行為もありますが、代表的なものは網羅されています。

① 身体的な攻撃(暴行・傷害)

  【例】

  • 殴打   
  • 足蹴り
  • 物を投げつける

② 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

  【例】

  • 人格を否定するような言動
  • 必要以上に長時間にわたる厳しい?責を繰り返す
  • 他の者の面前での大声での威圧的な叱責を繰り返す
  • 能力を否定して罵倒するような内容の電子メールを複数の労働者宛てに送信

③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

  【例】

  • 長期間にわたり別室に隔離または自宅研修
  • 集団で無視

④ 過剰な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

  【例】

  • 長期間にわたる肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命令
  • 業務と関係のない私的な雑用の処理を強制

⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

  【例】

  • 管理職者に対し退職させるために誰でも遂行可能な業務を命令

 ⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

  【例】

  • 職場外で継続的に監視・私物の写真を撮影
  • 個人情報を本人の了解を得ずに他の労働者へ暴露

4 事業主がとるべき取組みや措置

このようなパワハラを防止するために、厚生労働大臣の指針は、事業主が雇用管理上講ずべき措置を定めています。

この指針により、事業主は以下の措置を取ることが義務付けられています。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
その他の措置

⑴ 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

まず、パワハラの内容やパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化して、労働者に周知・啓発しなければなりません。

また、パワハラ行為者に対して厳罰に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等に規定して、周知・啓発することも必要です。

取組例としては、社内規定を作成してパワハラ行為者に対する懲戒規定を定めたり、労働者に対して研修・講習を実施したりすることが考えられます。

⑵ 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口を設置して、労働者に周知します。

そして、相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じて適せるに対応できるようにすることも必要です。

取組例としては、相談に対応するための制度を設けて、相談窓口担当者のためのマニュアルを作成することが考えられます。

⑶ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を迅速かつ正確に確認し、確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うとともに、行為者に対する措置を適正に行わなければなりません。

また、再発防止に向けた措置を講ずることも必要です。

取組例としては、担当者が相談者及び行為者の双方から事実関係を確認し、それだけでは事実関係の確認ができない場合には、第三者からも事実関係を確認することが考えられます。また、事実関係を確認した場合には、被害者と行為者との関係改善に向けての援助や、両者を引き離すための配置転換を行うことも必要です。

⑷ その他の措置

プライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知しなければなりません。

また、パワハラ相談をしたり、事実関係の確認に協力したりしたことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも必要です。

取組例としては、相談窓口担当者に必要な研修を行ったり、社内報やパンフレットで周知したりすることが考えられます。

5 改正パワハラ防止法やハラスメント問題への対応は弊所へご相談ください

これまでに説明したとおり、すべての事業主に対しパワハラ防止のための対応が法律で義務付けられています。

企業としてハラスメント問題に適切に対応しなければ、レピュテーションリスクが生じるだけでなく、ハラスメントを受けた労働者がメンタルヘルスの不調となり労災問題に発展してしまう可能性もあります。

さらに、パワハラ防止法の改正に伴って、社内制度を整えたとしても、その後の運用がうまくいかなければ、意味がありません。

このような改正パワハラ法やハラスメントに関する問題に適切に対応するためには、弁護士から助言を受けることが有益です。

弊所では、多くの企業や経営者の皆様からハラスメント問題についてのご相談を受け付け、日々対応しております。

センシティブな問題であるハラスメントについて、懇切丁寧に対応いたしますので、まずは吉田総合法律事務所までご相談ください。

また、ハラスメント問題に近接する問題である、問題行動を起こす社員への対処についても、弊所で対応しております。

このような問題を抱えている企業経営者の皆様のご相談をお待ちしております。

※ 以下の厚生労働省の資料も併せてご参照ください。

?「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

?パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

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