株主(経営者)の相続をきっかけとする経営権争いとは?

【目次】
1 株主が亡くなったら株式はどうなる?
2 相続をきっかけとする経営権争いを防ぐための方法は?
3 相続人等に対する株式の売渡請求の注意点とは?
4 相続人等に対する株式の売渡請求によって創業者一族が追い出されてしまうかも!?
5 経営者や株主の相続でお困りの方は吉田総合法律事務所にご相談ください!

1 株主が亡くなったら株式はどうなる?

中小企業では、経営者である社長が会社の株式を多く保有していることが多いです。

その社長が亡くなってしまったら、保有していた株式はどうなるでしょうか。

株式も、現金や銀行預貯金等と同様に財産ですので、社長の相続人に相続されます。そして、相続人間の遺産分割協議により、株式を誰に取得させるか(誰が株主になるか)を決めることになります。

遺産分割協議により、後継者である相続人に株式を取得させることができれば、後継者が経営権を確保することができ、安定した会社経営を継続することができます。

しかし、誰が取得するかについて相続人間でもめてしまった場合や、相続人の中に後継者がいない場合には、後継者となるべき人が株式(経営権・支配権)を取得できず、経営が不安定になってしまう可能性があります。

2 相続をきっかけとする経営権争いを防ぐための方法は?

このような相続をきっかけとする経営権争いを防ぐためには、次のような対策があります。

  • ⑴ 生前に後継者へ株式譲渡しておく
  • ⑵ 遺言書を作成しておく
  • ⑶ 民事信託を利用する
  • ⑷ 相続人等に対する株式の売渡請求を行う

それぞれ詳しく解説いたします。

⑴ 生前に後継者へ株式譲渡

後継者が決まった時点で、経営者が保有する株式を後継者に譲渡する方法です。
後継者に株式を譲渡してしまえば、経営者の相続時に株式の問題は生じません。
しかし、後継者を探している段階で、経営者が突然亡くなってしまったような場合には、この方法は利用できません。
なお、株式譲渡については、こちらの記事を、株式譲渡と遺留分についてはこちらの記事を、それぞれご覧ください。

⑵ 遺言の作成   

亡くなった時に後継者に相続(後継者が相続人の場合)又は遺贈(後継者が相続人ではない場合)するという内容の遺言を作成する方法です。
このような遺言を作成しておけば、亡くなるまでは経営者が株式を保有して経営に関わることができます。

⑶ 民事信託

民事信託は、ある財産を信頼できる人に託して名義も移転し、信託契約で定めた目的に従って財産を管理してもらうという制度です。


株式を後継者に信託することにより、信託された株式は相続の際には遺産とは区別された信託財産になりますから、遺産分割問題(株式が誰に相続されるかという問題)は生じません。そのため、経営者が健康な間は経営者が経営して、経営者が亡くなった場合には後継者に株式を譲り渡すことができます。

⑷ 相続人等に対する株式の売渡請求

相続人等に対する株式の売渡請求は、相続その他の一般承継によって株式を取得した者(相続人等)に対して、株式を会社に売り渡すよう請求する制度です(会社法第174条)。

これは、生前に⑴~⑶といった事前の対策をしていなかった場合に利用することが考えられます。すなわち、生前の対策をしていなかったために、会社にとって好ましくない相続人が株式を取得しそうな場合に、会社が株式の相続人に対し「株式を売り渡すことを請求する」制度です。次の項目で詳しく説明します。

3 相続人等に対する株式の売渡請求の注意点とは?

経営者が突然亡くなってしまい、生前に相続対策をしていなかった場合には、経営を安定させる手段として、相続人等に対する株式の売渡請求の制度は有効となります。

もっとも、この制度を利用する際には、注意点があります。

⑴ 定款の定めが必要

まず、相続人等に対する株式の売渡請求の制度は、定款に定めていなければ使用することができません(会社法第174条)。

そのため、自社の定款で、相続人等に対する株式の売渡請求を定めているかご確認ください。

⑵ 会社が支払う金額(売買価格)には分配可能額の制限がある

会社が相続人等に対して株式の売渡請求を行う場合、会社が株式を買い取りますので、自己株式の取得と同じ構造になります。
そのため、自己株式の取得を行う際の規制(分配可能額の規制)が、この場合にもあてはまります。そのため、「相続人等への株式の売渡請求」の場合も、株式の売買価格は分配可能額を超えることができません(会社法461条1項2号、3号)。
なお、自己株式の取得については、こちらの記事もご覧ください。

⑶ 株式の売買価格が高額となる可能性

相続人等に対する株式の売渡請求を行った場合、相続人等の同意なく株式を買い取ることができます(相続人等からすれば一方的に株式を奪われる制度です。)。

もっとも、売買価格については、会社が自由に決めることはできません。
買取価格は、相続人等と会社の協議により決めますが、協議が整わなかった場合には(実際には協議で金額が決まることはないでしょう。)は、裁判所に対して売買価格の決定の申立てを行うことができ、最終的に裁判所が売買価格を決定します。

この場合の金額は、税務上の金額は無関係で(税法上の原則的評価額は売買価格にならなりません。)、時価純資産法、収益還元法、DCFなどの計算方法を比較し、または総合評価し、売却せざるを得ない相続人に経済的に不利にならない金額が算定される可能性があります。

その結果、株式の売買価格が高額となってしまう可能性があります。

⑷ 売渡請求ができるのは1年間のみ

相続人等に対する株式の売渡請求は、会社が相続その他の一般承継を知った日から1年以内に行わなければならず、1年を経過してしまった場合には、売渡請求を行うことはできなくなってしまいます。

そのため、相続等を知った時から1年以内に、売渡請求を行うか否かを判断しなければなりません。

4 相続人等に対する株式の売渡請求によって創業者一族が追い出されてしまうかも!?

これまでに述べたとおり、相続人等に対する株式の売渡請求の制度により、会社にとって好ましくない相続人等から株式を買い取ることができます。

しかし、裏を返せば、取締役会の支配者であった経営者がご逝去されることにより、相続人が取締役会の支配者を失い、取締役会の中での支配力が他の者に移動してしまい、クーデターが起きるリスクがあるのです。つまり、経営者に相続が生じたタイミングで経営者の相続人を会社から追い出す(株式を一方的に買い上げる)こともできてしまう「恐ろしい側面もある制度」なのです。

この問題をもう少し説明します。

相続人等に対する株式の売渡請求を会社が行う場合、株主総会の特別決議が必要ですが(会社法第175条1項、第309条2項3号)、相続人等はこの株主総会の決議に参加することができません(会社法第175条2項)。

そのため、相続人等以外の株主の過半数の意向により、相続人等から株式を買い取ることができてしまいます。

例えば、後継者争いをしていた取締役が株式を持っていた場合、後継者候補である経営者の息子を会社から排除することも起こり得ます。

このようなことが想定される場合には、

  1. 経営者の生前に株式を譲渡する
  2. 相続人等に対する株式の売渡請求を認める定款の規定を定款変更により削除する

などの対策も検討すると良いでしょう。

5 経営者や株主の相続でお困りの方は吉田総合法律事務所にご相談ください!

経営者や株主に相続が発生すると、経営権が不安定になり、経営権争いに発展してしまうこともあります。
その場合には、民法はもちろんですが、会社法に関する深い知識や経験が求められます。

吉田総合法律事務所の弁護士は、経営者や株主の相続問題や経営権の争いについて、日々対応しております。

なお、吉田総合法律事務所にご依頼いただいた場合に弁護士ができる主な事項は、以下のほか、こちらの記事にまとめておりますので、ご覧ください。

  • ・株式対策としての遺言書作成のアドバイス
  • ・経営者の事業承継サポート
  • ・分散株主に対する株式買取提案(株式集約活動)
  • ・対応に苦慮している株主や取締役がいる場合の経営安定化作業
  • ・各種会社非訟事件への対応 などなど

そのため、経営者や株主の相続問題でお困りの方は、吉田総合法律事務所にご相談ください。

なお、株主の相続と権利行使の問題については、こちらの記事をご覧ください。

   

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