役員等賠償責任保険(D&O保険)とは

【目次】
1 役員等賠償責任保険(D&O保険)とは?
2 非上場会社や中小企業の役員でもD&O保険が必要ですか?
3 D&O保険に関する会社法上の規制とは?
4 D&O保険や役員責任についてお悩みの方は、吉田総合法律事務所へご相談ください

1 役員等賠償責任保険(D&O保険)とは?

役員等賠償責任保険とは、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人)が被保険者に、会社が保険契約者になり、当該役員等が行った職務を理由に損害賠償請求を受けたことによって役員等に生じる損害を担保する保険契約をいいます。実務では、「D&O保険」と呼ぶことが多いので、本記事でもD&O保険と記載することとします。

このD&O保険は、会社経営を行う際は常にリスクを伴うことから、役員等のなり手を確保したり、萎縮的な経営になってしまうことを防いだりすることを目的として用いられています。そのため、会社にとっても有益な保険であるといえます。

D&O保険は、会社が保険会社に対して保険料を支払い、取締役が役員としての業務に関して個人として損害賠償責任を負う場合に、保険会社から保険金を受け取ることにより当該役員の個人的損失を減額または回避する保険です。したがって、D&O保険は取締役と会社との関係では利益相反取引という側面があります。

そのため、後述するとおり、会社法で取締役会決議等の手続きをしなければならないと定められております(会社法第430条の3第1項)。

なお、役員等に生じる損害のうちどこまでの損害に対して保険金が支払われるのかというようなD&O保険の内容は、保険会社と保険契約者(会社)の保険契約によって定められることになります。保険会社によって、保険金に上限が定められていたり、保険金が支払われる条件として責任の原因が限定されていたりすることもありますので、各保険会社に確認していただくことをお勧めいたします。

2 非上場会社や中小企業の役員でもD&O保険が必要ですか?

上場会社の9割以上がD&O保険を締結しているといわれています(「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」平成30年2月法務省 作成)。

D&O保険と聞くと大企業が加入するものだ、というイメージが強く、非上場会社である多くの中小企業ではD&O保険に加入する必要はないと考えているかもしれません。

確かに、大企業で不祥事などが発生して役員等が責任を負うこととなった場合、賠償額が甚大な金額となることがあり、D&O保険に加入する必要性が高いといえます。

しかし、役員等の損害賠償責任が追及されるリスクは中小企業でも変わらず、むしろ損害賠償責任が生じるかもしれないというリスクの面では、法務部や顧問弁護士が備わっている大企業よりも、法務担当者も顧問弁護士もいない中小企業の方が会社法その他の法的知識が不足している場合があることから、役員個人の損害賠償責任のリスクは高いといえます。

例えば、中小企業によくある「同族会社での経営権(支配権)争い」が生じた場合には、経営権(支配権)奪取の手段として、経営陣と対立する株主から代表取締役社長個人に対し、株主代表訴訟等の責任追及がなされることがあります(その前段階として、取締役会議事録の閲覧謄写請求がなされることが多いです。)。 また、経営権への影響力を持たない、いわゆる少数株主も、保有している少数株の価値を実現化(現金化)することなどを真の目的として、株主代表訴訟を起こしてくることがあります。

この場合、株主代表訴訟の中で、少数株を買い取る内容の和解が成立して紛争が解決することが多いと思われますが、和解に至らなかった場合には株主代表訴訟の判決で役員の責任が判断されることになります(少数株主問題については、こちらの記事 もご覧ください。)。

中小企業では、法務部門や顧問弁護士が法的問題が生じないようにフォローするディフェンス体制が整っていないことも少なくなく、会社法の「手続き」をしないまま(つまり違法です。)会社経営をするという事態も起きがちです。つまり、中小企業では、会社法の手続きを軽視しがちです。

そして、財産のある非上場企業(経営陣と対立する株主にとって、経営陣を追い出しその企業の経営権を奪取する価値のある会社という意味です。)では、経営権争いの手段として株主代表訴訟が使われることがあります。

したがって、中小企業においても、D&O保険に加入する必要性は大企業と変わらないように思います。特に、株主間で経営権(支配権)争いが生じていたり、その可能性があったりする場合には、万が一に備えてD&O保険に加入することも検討した方が良いでしょう。

なお、経営権問題については、こちらの記事 もご覧ください。

3 D&O保険に関する会社法上の規制とは?

⑴ D&O保険の加入時及び更新時には取締役会等の決議が必要

上記1のとおり、D&O保険は利益相反取引の性質があり、会社(株主)と取締役と対立関係が生じるものですが、D&O保険に加入する手続きを直接的に定めた条文が会社法にはありませんでした。

そこで、令和元年改正により、D&O保険に加入するために必要な手続規定が新たに定められました。

そのため、現在は、この令和元年改正会社法の規定に従うことになります(なお、会社法の令和元年改正の詳細は、法務省のサイト 及び公表資料をご覧ください。)。

令和元年改正により新設された会社法第430条の3では、D&O保険の内容を決定するには、取締役会(取締役会を設置していない会社では株主総会)の決議によらなければならないと定められています。

なお、D&O保険を更新する場合には、契約内容に変更がないとしても、再度取締役会等の決議によって契約内容を決定する必要があると考えられております。加入時に取締役会等の決議を行っていると安心して、更新時の取締役会等の決議を忘れてしまうことがないようご注意ください。

⑵ 役員選任の議案における株主総会参考書類にD&O保険の内容の概要を記載

すでにD&O保険に加入している役員等を再任しようとするときや、新たに選任する役員等についてD&O保険に加入する予定であるときには、当該役員等の選任議案の株主総会参考書類に、D&O保険の内容の概要を記載しなければなりません(会社法施行規則第74条1項6号)。

もっとも、株主総会参考書類を交付する必要があるのは、書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合に限られております(会社法第301条及び第302条)。実務上は、ほとんどの中小企業で書面又は電磁的方法による議決権行使を認めておりませんので、株主総会参考書類を作成する必要がなく、上記の株主総会参考書類への記載も不要ということになります。

なお、公開会社(公開会社は上場会社の意味ではありません。後述します。)では、事業報告にD&O保険の内容の概要や被保険者の範囲を記載して、開示しなければなりません(会社法施行規則第119条2号の2、第121条の2)。

ちなみに、公開会社とは、「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社(会社法第2条5号)」、すなわち、譲渡制限が付いていない株式を一部でも発行している会社を意味しております。他方、非公開会社は、全ての株式について譲渡制限が付いている会社を意味します。公開会社と上場会社は別の概念ですので、ご注意ください。

⑶ 利益相反取引に関する規定の適用除外

繰り返し述べているとおり、D&O保険は利益相反取引としての性質があります。

利益相反取引については、会社法により取締役会又は株主総会の承認が必要であったり(第356条1項、第365条1項)、会社に損害が生じた場合に任務懈怠が推認されたりします(第423条3項)。

しかし、D&O保険については、このような利益相反取引に関する会社法の規定は適用しないと定められました(第430条の3第2項)。そのため、D&O保険によって会社に損害が生じた場合でも、取締役等の任務懈怠は推認されません。

4 D&O保険や役員責任についてお悩みの方は、吉田総合法律事務所へご相談ください

役員等賠償責任保険は、比較的新しい会社法上の規制があり、会社法に沿った手続きを行う必要があります。

また、会社経営への影響や、将来の経営権争いも見据えて検討すべきものでもあります。

なお、D&O保険では、保険金が支払われる条件として当該役員等に故意又は重過失がないことが定められていることが通例です。この場合、当該役員等の損害賠償責任が免れられないとしても、重過失まで認められてしまうか、軽過失に留まるかが非常に重要なポイントになります。D&O保険の被保険者である役員等が株主代表訴訟を起こされてしまった場合には、この点がポイントであることを理解した上で訴訟追行していかなければなりません。また、役員等が責任追及された場合に弁護士に依頼した場合の弁護士費用についても、保険金の対象とされているD&O保険が一般的と思われます。そのため、万が一に備えてD&O保険に入っておき、責任追及がなされてしまった際には役員責任やD&O保険を深く理解している弁護士に相談・依頼することが大切です。

吉田総合法律事務所の弁護士は、会社経営に関する経営者のお考えや経営権問題も理解した上で、より良い方策を助言・サポートさせていただきます。

D&O保険や役員責任でお悩みの企業や経営者の方は、ぜひ吉田総合法律事務所へご相談ください。

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