少数株主問題とは?少数株主問題への対処方法

【目次】
1 少数株主問題とは?
2 少数株主が生じるパターンとは?
3 少数株主問題が生じる場面とは?
4 少数株主問題への対処方法
5 お困りの企業・経営者は吉田総合法律事務所へご相談ください

1 少数株主問題とは?

「少数株主」という用語は、会社法などの法律で定義されている用語ではありませんが、実務ではよく使用されます。

実務では一般的に、議決権割合が少ないために会社の経営に影響力を持たない株主のことを、「少数株主」と呼んでいますので、本記事でもこの意味で使用します。

株主総会の普通決議は、株主総会に出席した株主の議決権の過半数により成立しますので(会社法第309条1項)、議決権の過半数に満たない株主は、少数株主に該当することになります。

他方で、過半数以上の議決権を保有している株主は、「支配株主」または「大株主」と呼ばれ、その名のとおり、会社の支配権・経営権を握っています。

このように、株式会社の最終意思決定機関である株主総会では原則として議決権の過半数により決議を行うことができますので、支配株主の意向に従って経営が行われることになります。

しかし、少数株主も株式会社の所有者であることは支配株主と同じであり、会社法により株主としての権利が認められています。この株主として認められた権利があることから、支配株主も少数株主の意向を無視した経営が行いにくくなります。

このこと自体は、少数株主も支配株主と同様に出資している立場であり、支配株主による独善的な経営を防止することができますので、有益ともいえます。

もっとも、少数株主に権利行使され、または権利行使されるおそれがあることから、会社に重大な影響が生じてしまい、紛争となってしまうこともあります。

本記事では、このことを指して、「少数株主問題」と呼ぶこととします。この少数株主問題は、非上場同族会社であり、かつ利益を上げている会社で生じることが多いため、本記事はこのような会社を念頭にしております。

そして、会社法上の詳細な権利や手続きなどは別記事で解説することとし、本記事では「少数株主問題」の概要や具体的に問題が生じるパターンなどをご紹介することとします。

2 少数株主が生じるパターンとは?

会社の経営を安定させたり、経営者の自由に経営を行ったりするためには、株式をできる限り集約させ、極論をいえば経営者個人が株式の100%を保有することが理想です。

しかし、様々な理由から、他の人や会社が株式を保有することがあります。

ここでは、典型的な4つのパターンをご紹介します。

⑴ 経営者の親族が株式を保有するパターン

家族で経営している会社では、経営者だけでなく親族が株式を保有していることも少なくありません。

経営者としては、子供たちに仲良く経営してもらおうと考えたり、子供たちの生活を守りたいという親心から、子供たちに株式を持たせることがあります。

しかし、兄弟姉妹の間で後継者を誰にするかでもめてしまい、少数株主問題に発展してしまうことがあります。

⑵ 役員が株式を保有するパターン

経営者個人が株式の100%又はその大半を保有していると、経営者が亡くなったときに相続人が負担する相続税が高額となってしまう可能性があります。

これを避けるために、経営を一緒に行う役員に株式を持ってもらうことがあります。

しかし、経営をしていく中で、方針にずれが生じてしまったり、経営が上手くいかなくなってしまったりして、役員との関係が悪くなってしまうことがあります。

役員の地位は、株主総会の決議により比較的簡単に辞めさせる(交渉による辞任、任期満了による退任、解任)ことができますが、株式を取り上げることは簡単ではありません。

役員は辞めさせられたけれども、株式は保有したままとなってしまい、少数株主問題に発展してしまったということも珍しくありません。

⑶ 従業員が株式を保有するパターン

上記⑵と同様の理由により、従業員に株式を持ってもらうことがあります。

もっとも、従業員の場合には、従業員個人に株式を持ってもらうのではなく、従業員持株会を設立して、その組合員になってもらう方法により、株式の持分を持ってもらうことが多いように思います。

従業員持株会を利用する場合には、退職したときに自動的に従業員持株会も退会するように制度設計するなど、規程を作り込む必要があります。

なお、従業員持株会については、こちらの記事もご覧ください。

⑷ 取引先が株式を保有するパターン

取引を行う会社と、単なる取引関係を超えた資本提携を行うことがあります。

中には、将来的なM&A(子会社化)や事業承継を見据えて行われるものがあり、これにより会社の発展が望める場合もあります。

他方で、このようなことは想定せずに、単に株式の相互持合いをしているだけのものも存在します。

後者の場合は、無意味であるだけでなく、取引関係の終了時に株式を買い取る際に、金額でもめるなどのトラブルが生じるリスクがありますので、望ましくありません。

3 少数株主問題が生じる場面とは?

会社法は、会社の所有者である株主としての権利を数多く規定しています。

株主としての権利を少数株主が会社に対して行使することにより、少数株主と会社、ひいては支配株主との対立関係が生じることがあります。

ここでは、特に重要な少数株主問題を取り上げます。

なお、少数株主問題が特に生じやすい、非上場同族会社であり、かつ利益を上げている会社を前提として解説いたします。

⑴ 挑戦的な経営がやりにくくなる

経営は、リスクを負って利益を追求していくものであり、リスクを負わなければビジネスの大きな成功はなかなか望めません。

例えば、新しい事業を開始しようとする際には、利益が得られずに撤退しなければならなくなるというリスクを負うことになります。

他方で、実際に経営を行う代表取締役等の役員は、会社に対して善管注意義務(忠実義務)を負っており(会社法第355条)、経営の失敗により会社に損害が生じた場合には、損害賠償責任を負う可能性があります(会社法第423条1項)。

この損害賠償の請求は、本来であれば会社から当該役員に対して行うものですが、役員同士で仲間意識を持っているため、損害賠償請求がなされないこともあります。

そこで、会社法は、株主の権利として、株主が役員に対して損害賠償請求の訴訟を提起することを認めています(会社法第847条)。この訴訟が、いわゆる株主代表訴訟です。

特に、中小企業の大半である非公開会社では、1株でも株式を保有していれば株主代表訴訟を提起することができ、保有期間の要件もありません(会社法第847条2項)。

そのため、支配株主の支持を受けている役員も、少数株主から株主総会訴訟を起こされてしまうリスクが常にあるということになります。

経営の場面では、経営判断原則により役員の善管注意義務の裁量が広く認められていますので、役員の善管注意義務違反が認められて損害賠償責任を負わなければならなくなる可能性は高くないといえます。

しかし、非上場の同族会社では、株主総会を実開催していないとか、取締役会決議をとらないまま代表取締役社長の判断だけで他社との大きな契約や会社財産の移転をしているなど会社法を必ずしも遵守できていないことがあります。この点について、経営側と敵対する株主から、会社法が定める手続きを守っていないとか、それにより会社に損害を与えたなどの主張をされ、会社役員の法的責任が追及されてしまうこともあります。

また、株主代表訴訟を起こされて訴訟対応に手間をとられること自体が、当該役員にとっても会社にとっても大きなマイナスです。これを避けようとして保守的な行動しかできなくなり、ビジネスチャンスをみすみす逃してしまうことも考えられます。

これは、少数株主が存在することによって、会社の成長を阻害されてしまうことがあるということです。

⑵ 少数株主の株式買取請求により経営が傾いてしまう可能性がある

これまでに見てきたとおり、少数株主は経営に参加することができません。また、非上場会社では、配当金もなかったり、少額であったりすることもあります。

このような場合、少数株主は、株式を保有し続ける意味がなく、せめて現金化したいと考えます。

また、少数株主の意思に反して事業譲渡や合併等の会社の根幹にかかわる事項について重大な変更が行われる場合にも、反対する少数株主は株式を手放して現金化したいと考えることがあります。

このような場合、多くは支配株主や経営者と少数株主が、任意での買い取り(株式譲渡又は自己株式の所得)を交渉することになります。

この交渉において、少数株主から時価純資産等を基準とした高額の買取金額を提示されてしまうことがあります。

また、(少数)株主が株式を第三者に譲渡して現金化しようとして譲渡承認請求がなされ、会社が第三者への譲渡を承認しなかった場合、(少数)株主が請求したときは当該株式を会社又は指定買取人が買い取らなければなりません(会社法第140条)。

会社又は指定買取人による買取の金額について協議が整わなかった場合、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条2項)。この 売買価格決定の申立てがなされた場合、裁判所により売買価格が判断されることになりますが、その場合の判断基準として、市場価格のない非上場会社の株価は時価純資産方式やDCF方式(Discounted Cash Flow方式。日本ではディスカウントキャッシュフロー方式と呼称されることが多い。)などが用いられることがあります(ただし、現時点で判断方法は確立されておらず、事案によって様々な算定方式を併用して算出することもあります。)。しかし、上記裁判による金額決定の場合は、買取側にとって非常に高額となるリスクがあります。

そして、高額での株式の買い取りを余儀なくされてしまうと、会社の財務状況が悪化し経営上の危機を招く可能性もあります。

⑶ M&Aが困難となる

株式譲渡によるM&Aで第三者に会社を売却する場合、買主は株式の全てを買い取れる場合でなければ、M&Aに中々応じてくれません。

これは、買主としてはM&A後の会社経営を自由に行いたいと考えるためであり、他に株主がいると経営に支障が生じる可能性があるためです。    

そのため、M&Aをする場合には、少数株主と一緒に株式を売却する必要があり、少数株主の協力が必要となります(一緒に売却することを契約により予め合意しておく方法についてはこちらの記事をご参照下さい)。
万が一少数株主がM&Aに反対して株式の売却に応じなかった場合には、M&Aを行うことができなくなってしまうということになります。


⑷ 事業承継時にマイナス要素となる

少数株主の存在は、社長が子供に事業承継する際にも障害となってしまうことがあります。

社長が子供に事業承継してもらいたいと考え、その子供も事業承継しようと考えたとしても、少数株主がいることにより事業承継しても自由に経営することができないかもしれないとなると、事業承継に後ろ向きになってしまうこともあります。

そのため、事業承継をする際には、事前に少数株主(特に対立的な関係の少数株主)がいない状況にすることが好ましいといえます。

4 少数株主問題への対処方法

このような少数株主問題の対処方法としては、大きく分けて、①少数株主から株式を回収する方法と、②放置して少数株主がいることを前提に経営を行う方法の二つがあります。また、①の少数株主から株式を回収する方法としては、特別支配株主(総株主の議決権の10分の9以上を有する株主)による株式等売渡請求(会社法第179条以下)や株式併合(会社法第180条以下)などのいわゆるスクイーズアウト、任意での買取交渉がありえます。

ここでは、少数株主との任意での買取交渉を解説します。

単に少数株主に対して株式の買取を提案しても、少数株主から高額の買取金額を提示され、金額面でなかなか折り合えないということになってしまいます。

個々の案件ごとに、事情に応じて打開策を検討することになりますが、一つの打開策としては、相続税をフックにすることが考えられます。

上記のとおり、少数株主にとって、株式を持っていても意味がほとんどありません。特に、中小企業の大半である非公開会社では、株式を譲渡しようとしても買い手が見つからず、すぐに現金化することもできません(株式の非流動性)。

それにもかかわらず、少数株主が亡くなって相続された場合、株式も相続財産となりますので、相続税の対象となります。さらに、相続税を計算する際の株価について、同族会社では原則的評価額となり、相続税も高額となってしまうこともあります。

そうすると、相続人は、相続してもほとんど価値がなく、現金化することも困難な株式を相続してしまったがために、高額の相続税を負担しなければならなくなってしまいます。

このように相続人に高額の相続税を負担させることは、被相続人である少数株主も望まないと考えられます。

そのため、少数株主が高齢である場合には、相続が発生した際の相続税の負担を説明して、株式の買い取りの交渉を行うこともあります。

なお、少数株主から株式を買い取る方法としては、経営者が株式譲渡により買い取る方法と、会社が自己株式の取得を行う方法があります。株式譲渡についてはこちらの記事を、自己株式の取得についてはこちらの記事をご覧ください。

5 お困りの企業・経営者は吉田総合法律事務所へご相談ください

吉田総合法律事務所の弁護士は、会社の経営権・支配権に関する案件を扱っており、少数株主問題のご相談・ご依頼も受けております。

また、少数株主とは感情的な対立となってしまうことも少なくなく、ご相談・ご依頼をお受けする際には、感情的な面のフォローも求められます。

特に、親族の少数株主との争いでは、双方が感情的になってしまい、紛争が激化してしまうこともあります。また、株式を持っていることで家族の中での存在意義があると考え、経済合理性を度外視して株式の保有に固執されてしまうこともあります。このような場合には、一つ一つ絡まった糸を解きほぐして解決を目指していくことになります。

吉田総合法律事務所では、少数株主問題を単なる法律問題や金銭問題としてとらえるのではなく、感情も含めた関係性の問題としても受け止め、より良い解決をご提案しております。

少数株主問題でお困りの企業、経営者は、当事務所へお問い合わせください。

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