社内不正が発生した!どうする?業務上横領への対応

1はじめに

企業が金銭や価値のある物を扱う以上、横領事件発生のリスクは無くなりません。

特に、売上高の増加・攻めの経営にこれまで注力してきた企業は注意が必要です。

経営が順調であると、このままの経営で大丈夫だという考えになりがちです。そのうち着手しようと思いつつも、売上増加には直接結びつかない社内体制の整備・構築は後回しになり、企業規模が小さい時の仕組みのまま扱う金額(リスク)だけが大きくなっていきます。

そしてある日、匿名での通報や、監査、税務調査、取引先からの問い合わせなどにより問題が発覚し、大変な事態になります。横領事件が起これば、資金繰りの悪化や取引先への迷惑だけでなく、内部体制が杜撰な会社であるとの風評被害(レピュテーション・リスク)も起こることがあり、最悪黒字倒産をする事態にもなりかねません。事案によっては、経済的な損害の補填よりもレピュテーション・リスクを考慮する必要も出てくることがあります。

本記事では、横領が発覚した際に企業がとるべき対処方法とその後の対応、今後横領事件を発生させないための方法について解説します。

注意点  シンプルな管理体制のまま、右肩上がりで成長してきた企業は要注意

2総論

金銭の不正については、刑事事件としては、窃盗、業務上横領、背任、詐欺などが成立する可能性があります。それぞれの境界は曖昧な部分があります。行為者の権限や社内慣行など個別の事情により適用される罪が変わってきます。

民事上は損害賠償や解任・解雇、懲戒処分などが問題となります。

以下では、刑事事件として成立しやすい業務上横領に絞り要件等を解説します。

3業務上横領罪とは?

⑴ 条文

業務上横領罪は、刑法第253条に規定がされています。

刑法第253条
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

 

⑵ 要件

上記の条文に関して、業務上横領罪の成立要件は一般に以下のように解されています。

①業務性(社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務、特に金銭や財物を委託を受けて保管する職務であること)

②委託信任関係に基づく占有(②が欠ける単なる占有物の横領は遺失物等横領罪になる)

③他人の物であること

④横領行為(自己や第三者のために不法に領得すること。講学上は「自己の専有する他人の財物を不法に領得する意思(不法領得の意思)を発現する一切の行為」)

 

⑶ 具体例

具体的としては以下のようなものが挙げられます。

・経理が帳簿を改ざんして金銭を得る行為

・現金を回収する従業員が回収金を着服する行為

・在庫商品を管理する社員が在庫商品をネット上で売る行為

4横領の兆候を掴んだらどう動くべきか

⑴ 兆候

匿名での通報、監査での帳簿・在庫数改ざん発覚、税務調査での発覚、取引先からの問い合わせによる発覚などにより、犯人と思われる人物が浮上してくることが一般です。

 

⑵ 事実関係の調査、本人からの事情聴取

業務上横領の兆候を得たら、まず、社内で証拠収集を行い、できるかぎりの証拠を集めたうえで、本人からの事情聴取を行います。

特にカリスマ性のある創業社長は発覚後すぐに本人に問いただすことで迅速に解決すべきだと考えがちであり、それで成功する場合もありますが、慎重を期すのであれば証拠をできる限り集めた上で問いただすべきです。人間は極力発覚を小出しにしたいという心理が働くため、犯行の全容を語らないことが多く、何も準備をせずに面談に望むと全容を吐かせるせっかくのチャンスを失ってしまうことがあるからです。相当詳細に調査がされているので隠しても無駄だと本人が観念するくらいに準備をして望むのが定石です。

本人が業務上横領を認めた場合は、返済を約束する「支払誓約書」などを提出させます。この際、録音・録画などで支払誓約書の作成が強制・強迫によりされたものでないことを担保することも有益です。必要性に応じて、執行認諾文言を入れた公正証書も作成します。本人が認めないときは本人の言い分を記載した「弁明書」を提出させましょう。

 

⑶ 本人に対する損害賠償請求、返済請求

本人からの事情聴取が終わったら、横領金の回収を進める必要があります。本人が財産を持っていれば仮差押えや抵当権設定などの手続きにより確保します。例えば本人名義の不動産があり住宅ローンの返済が終わっている場合や預金口座がわかっている場合は回収可能性が高いといえます。

ただ、横領金額に比べ、本人が持っている財産は微々たるものであるケースが一般です。

その際は、身元保証人への請求が可能かを検討します。あるいは刑事告訴などを行うことによって、示談のために親族などから集めてきた金銭での和解提案が本人の弁護士からされ、回収できるケースもあります。

 

⑷ 懲戒解雇

横領に対する主な処分は、懲戒解雇や諭旨解雇です。

ただ、金額や事情によっては懲戒解雇が無効となる可能性もありますので注意が必要です。例えば、従業員の中でも責任ある立場の者が、出張宿泊時にクオカード付きのプランを度々利用して領得していたこと等を理由として懲戒解雇がされた事案がありました。この懲戒解雇について、その領得した金額は訪問先の社員との懇親に充てていたことなどを重視し、懲戒解雇を無効とした例があります(札幌高判R3.11.17)。

重要なのは、事前に十分な証拠を確保し、事情聴取をすることです。解雇は会社との関係が切れることから遠慮が要らず特にトラブルになりやすいので、慎重に行う必要があります。証拠が不十分であるのに解雇した場合、裁判で敗訴し、多額の金銭を支払う羽目になるケースが少なくありません。証拠や事情に不明確な点や裁判上での立証に耐えられない事情がある場合は、普通解雇とするか、退職勧奨により退職をさせることも検討すべきです。

また、就業規則の懲戒解雇に関する規定をよく確認し、正しい手順で懲戒解雇することも非常に重要です。本人に弁明の機会を適切に与えることはもちろん、就業規則に「懲罰委員会」を招集することが定められているのに社長が勢いで解雇を通告することは裁判では大きな障害となります。

 

⑸ 刑事告訴

警察は強制捜査権限を有しており民間人の調査では収集できない証拠を得ることができます。本人の自宅への家宅捜索、私物のPCやスマートフォンの押収・解析、銀行口座の履歴の開示などは私人が強制的に行うことはできません。

横領を刑事事件とする場合、一般的な方法としては捜査機関に対して告訴状を提出します。しかし、特に近時はオレオレ詐欺などの犯罪が多発しており、各犯罪の立件までに必要な業務量に比して各警察署の知能犯係に充分なマンパワーが供給されていない印象を受けます。そのため、横領がかなり明らかである場合であっても捜査が充分に行われず、また定期的に行われる担当者の異動による時間的ロスもあり、不起訴となってしまうこともあります。刑事告訴は本来、口頭でもできることとされていますが(刑事訴訟法第241条)、書面(告訴状)で警察が事件の全容を把握するために知りたいと思うであろうことを記載し、裏取り捜査をするだけで起訴ができうるレベルの充実した告訴状を作成することがポイントとなります。例えば、会社や本人の行っていた業務の内容、取引先の情報や事件の背景事情、客観的証拠、本人の告知聴聞時の発言の文字起こし等などを資料としてつけると良いでしょう。告訴については警察署の管轄や時効、罪の選択などでも難しい問題があります。

5業務上横領の時効

⑴ 刑事

業務上横領について刑事事件として立件される可能性がある時効期間は横領から7年(刑事訴訟法250条2項4号)です。時効の起算点は、犯罪行為が終わった時から進行するとされており(同法253条1項)、原則としてそれぞれの横領行為ごとに時効がカウントされます。

 

⑵ 民事

一方、横領された金銭の返済請求についての時効期間は「被害者が被害の事実と犯人を知ったときから3年間」あるいは「横領されたときから20年間」のいずれか早いほうです(民法第724条)。

6税務面でのリスク

役員報酬を損金とするため、中小企業では通常、定期同額給与(法人税法34条1項1号)で報酬が支給されているものと思われます。

ところで、この「給与」には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとされおり(同条4項)、役員が横領などの不正行為で得た利益も含まれるとする判断がされています。そのため、税務調査などで不正行為が発覚した場合に、企業にとって致命的な結果が生じる可能性があります。

例えば、過去に代表取締役が仕入先に水増請求をさせ不正にバックリベートを受け取っていた事件がありました。会社は、代表取締役に所得税を払わせる形で事実上の制裁を加え、また不正の証拠を税務署の力を借りて得ようとしたのか、税務署に告発を行い、税務調査が実施されました。その結果、税務署は会社に対して、水増しされて支払った金員が代表取締役への「給与」に当たると認定した上、水増し部分について損金性を否定しました。そして、法人税・消費税・源泉所得税、重加算税を課し、青色申告の取消処分を行いました。

会社は税務署を味方につけるつもりが逆に責任を問われたことに憤慨し処分を争いました。裁判で会社は、その金額は会社が支払ったものではなく不正に取得された金銭であるから「給与」ではないこと、職務の対価ではないから「給与」ではないことなどを主張して争いました。しかし、東京地裁平成19年12月20日判決は、バックリベートの指示は代表取締役たる地位に基づいて行われ、給付されたものであるから、法人税法上の「給与」に該当すると判示して会社を敗訴させています。

このように大きな金額の横領があった場合、会社の税務上の問題にまで発展するおそれがあるため、日頃の監査や再発防止策の策定は極めて重要な問題といえます。

 

7再発防止策の策定

横領事件は、大きな金銭を扱う仕事について、一人に権限が集中し、それが充分に他人にチェックされないという条件を満たすと発生しやすくなります。出金伝票を用いて出金の流れを可視化し、担当者と承認者を分け、ルールを策定し、周知し、ルール通り実行させ、記録に残し、第三者が記録をチェックし、違反があれば処分・改善する、というサイクルを回していくことが重要です。

多くの会社では導入していることですが、ビジネス用途のインターネットバンキングでは振込・振替の内容を承認権限者が承認しないと実行できないように設定ができます。承認者を社長あるいは上位の者とした上で、パスワード漏洩などのセキュリティに気を配り、出金データについて流し読み程度でも定期的に振り返り、出金伝票との照合の機会を設けるようにすることが重要と思われます。

 

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