就業規則Q&A 在宅勤務導入または副業・兼業の承認の際のポイントとは?

Q テレワーク勤務(在宅勤務)の導入に伴って就業規則を変更しようと思いますが、どのような規定に変更したらいいですか?

 厚生労働省が、テレワーク勤務に関するモデル就業規則・作成の手引きを公開しておりますので、こちらを参照することをお勧めします。

https://telework.mhlw.go.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/teleworkmodel.pdf

この手引きの内容で、特に注意すべき点をご紹介します。

① 中抜け時間と労働時間

労働基準法上は、中抜け時間は把握せず、始業時間及び就業時間のみを把握することも可能です。

その場合には、中抜け時間も労働時間として取り扱うこととなります。

なお、中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として終業時間を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱うことになります。

② 給与等の減額

在宅勤務を理由とする基本給等の減額は、不利益変更となるためできません。

なお、在宅勤務により労働時間が短くなる場合に、それに応じて減額することは可能です。

また、終日在宅勤務を行い、交通費が発生しない場合には、通勤手当を減額することもできます。

③ 通信費や文具費、備品費等の支給における注意点

通信費等として定額の手当を従業員に支給する場合には、この手当を割増賃金の算定基礎に算入しなければならなくなります。

そのため、割増賃金の算定基礎に関する就業規則の規定も変更することが必要となります。

Q1 従業員からの要望もあり、これまで禁止していた副業・兼業を認めることにしました。副業・兼業を認めるにあたって、注意することはありますか。

A1 

働き方の多様化が進み、副業・兼業を希望する人や副業・兼業を認める企業が増加しています。

企業においても、副業・兼業を認めることは、①優秀な人材の獲得・流出を防止でき競争力が向上する、②労働者が新たな知識・情報や人脈を得ることで事業機会の拡大につながるなどのメリットを得られます

また、副業・兼業が問題となった裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるとされています。そのため、企業は、原則として副業・兼業を認めつつ、労務提供上の支障がある場合や業務上の秘密が漏えいする場合などの副業・兼業を制限する合理的な理由がある場合に限り、副業・兼業を制限することができるにすぎないというのが裁判例の立場になります。

このような裁判例を受けて、厚労省は、就業規則でも原則として副業・兼業を認め、例外的に副業・兼業を禁止する場合を明記しておくことが望ましいという見解に立っています。

もっとも、副業・兼業を認める場合には、企業が対応しなければならない点もあります。

この点、厚生労働省が、「副業・兼業の促進に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます。)」を策定しており、この中で、企業の対応における留意点として、①安全配慮義務、②秘密保持義務、③競業避止義務、④誠実義務を指摘しています。

QA2からQA4でそれぞれ詳細に解説します。

なお、副業・兼業に関する詳細につきましては、厚労省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 や「パンフレット」 をご参照ください。

?出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改訂)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf

?出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」パンフレット(令和4年10月3日改訂)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf

Q2 副業・兼業を認めた場合の企業の安全配慮義務として、どのようなことをする必要がありますか。

A2 

A1記載のとおり、厚労省のガイドラインでは、副業・兼業を認める場合の企業の対応における留意点として、安全配慮義務を指摘しています。

副業・兼業との関係での安全配慮義務が問題となる場面としては、労働者の全体としての業務量・労働時間が過重であることを企業が把握しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生じた場合が挙げられます。

このことから、企業は、労働者が行う副業・兼業の業務内容や労働時間を把握し、過重労働とならないよう配慮しなければなりません。

また、企業は、自らの事業場における労働時間と副業・兼業先の事業場における労働時間を通算して管理しなければなりません(労働基準法38条1項)。そして、時間外労働があれば、必要に応じて割増賃金を支払わなければなりません(本業の企業と副業・兼業先の企業のいずれに割増賃金を支払う義務が発生するかは、ガイドライン13頁で説明されておりますので、ご確認ください。)。

労働者の副業・兼業の労務実態を把握するためにも、副業・兼業を届出制にし、届出書には副業・兼業先の業務内容や所定労働時間を記載させるとともに、定期的に副業・兼業の勤務実績を報告させることが必要となります。

副業・兼業の場合における労働時間の管理については、厚生労働省から通達 も出ておりますので、ガイドライン と併せてご参照ください。
また、副業・兼業に関する届出書合意書 の書式についても、厚労省が公表しておりますので、ご参照ください。

?出典:厚生労働省「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第 38 条第1項
の解釈等について」(令和2年9月1日 通達)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T201005K0070.pdf

?出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改訂)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf

?出典:厚生労働省「副業・兼業に関する届出様式例」(Word)
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F11200000%2F000692924.docx&wdOrigin=BROWSELINK

?出典:厚生労働省「副業・兼業に関する合意書様式例」(Word)
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F11200000%2F000692485.docx&wdOrigin=BROWSELINK

Q3 副業・兼業を認めた場合の労働者の秘密保持義務について、企業はどのような点に注意する必要がありますか?

A3

労働者は、労働契約法上、使用者の業務上の秘密を守る義務を負っています(秘密保持義務)。

副業・兼業を行う際には、本業で獲得した能力等を利用することもあり、労働者がこの秘密保持義務に違反してしまう場面も少なくありません。

ひとたび業務上の秘密が漏えいしてしまうと、企業への損失は計り知れず、場合によっては回復不能となってしまうことも考えられます。

そこで、副業・兼業を認める際には、業務上の秘密が漏えいしないよう対策を講じることが必要です。

具体的には、

  1. 就業規則にて、業務上の秘密が漏えいするおそれがある場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができるよう定めておくこと
  2. 労働者に対して、業務上の秘密となる情報の範囲を改めて周知し、漏洩することがないよう注意喚起すること

が考えられます。届出書で副業先の概要を把握し、もし副業先の業務が漏えいのリスクが高い場合は、特に個別に注意喚起をすることが望ましいように思われます。

なお、厚労省は副業・兼業に関する条項を入れ込んだ「モデル就業規則」 を公表しておりますので、こちらもご参照ください。

また、副業・兼業は、本業の経験や知識を活かして行われることが多いことから、営業秘密が漏えいしてしまうリスクが大きくなっています。不正競争防止法の営業秘密についてはこちらのページをご覧ください。

?出典:厚生労働省「モデル就業規則」(令和3年4月版)
https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf

Q4 副業・兼業を認めた場合の労働者の競業避止義務や誠実義務について、企業はどのような点に注意する必要がありますか?

A4

上記A1記載のとおり、厚労省のガイドラインでは、副業・兼業を認める際に企業が留意する点として、競業避止義務誠実義務も指摘しています。

まず、競業避止義務が副業・兼業との関係で問題となるのは、副業・兼業先が競合関係となる企業であって労働者自身が競業避止義務違反となる場合と、他の企業で本業を行っている人物を雇って従事させることによって他の企業との関係で当該人物に競業避止義務違反が生ずる場合が挙げられます。

また、労働者は、企業に対して、企業の名誉・信頼を毀損しないなど誠実に行動しなければならないという誠実義務を負っています。労働者が副業・兼業した場合に、その業務内容等によっては、誠実義務に違反することとなることもありますので、企業としては、それを予防する必要があります。

以上のことから、企業が副業・兼業を認める際には、

  1. 就業規則にて、競業により企業の正当な利益を害する場合又は企業の名誉や信用を損なう場合には、副業・兼業を禁止又は誓約することができるよう定めておくこと
  2. 競業避止義務や誠実義務について労働者に周知し、注意喚起すること

が必要となります。

なお、厚労省は副業・兼業に関する条項を入れ込んだ「モデル就業規則」 を公表しておりますので、こちらもご参照ください。

?出典:厚生労働省「モデル就業規則」
https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf
   

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