【目次】 1 非上場企業の事業承継とは 2 事業承継のプラン作成 3 後継者への株式譲渡の手続き 4 自己株式の取得や従業員持株会の活用 5 遺言なしの事業承継におけるリスク 6 弁護士による後継者へのサポート 7 非上場企業の事業承継でお困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください! |
1 非上場企業の事業承継とは
事業承継は、中小企業白書において一つのテーマとして取り上げられていることからも分かるとおり、非上場企業のほとんどである中小企業や中堅企業が抱える問題といえます。
中小企業や中堅企業の多くは、社長が経営権(支配権)を保有しているオーナー企業であり、そのような企業の事業承継では、常にオーナー社長の相続問題と同じ問題として検討されています。
このことは、後継者が決まっている企業において事業承継の際に問題になりそうなこととして、相続税・贈与税の問題を挙げている企業が22.9%もいることからも分かります(中小企業白書I-110頁参照)。
そうすると、非上場企業の事業承継では、単に株式を後継者に移転させるだけでなく、オーナー社長の相続という法的な観点での検討も必要となります。
そのため、非上場企業の事業承継は、弁護士による法的なサポートが必要な問題であり、弁護士による適切な法的サポートを受けていないと、不測の相続争いが生じてしまうリスクがあります。
なお、相続をきっかけとする経営権争いについては、こちらの記事もご覧ください。
本記事では、非上場企業の事業承継について、弁護士が行う法的サポートを解説いたします。なお、事業承継には、役員や従業員に会社を承継する親族外承継や、M&Aによる承継もありますが、本記事では親族内承継に限定して解説いたします。
2 事業承継のプラン作成
事業承継を行うためには、最初に事業承継の計画を立てる必要があります。
具体的には、後継者は誰にするのか、どのような方法で経営権(支配権)を移転させるのか、などのことを検討して計画を立てる必要があります。
その際の重要なポイントは、後継者が安心して経営を続けることができるように、経営権(支配権)を確保させるということです。
事業承継というと税金(相続税等)対策に主眼が置かれることも多く、後継者が十分な経営権(支配権)を確保できない状況になってしまうケースも残念ながら存在します(特に株式数15%未満による配当還元方式を採用する事例で起こりやすくなります。)。このようなケースでは、後継者が株主総会での議決権数が少なくなり経営権争いに敗れて、創業家でありながら経営から追い出されてしまったり、経営権争いのストレスで心身が疲弊して(又は病気になり)自ら経営から退いてしまったりしてしまうこともあり得ます。
このような状況になってしまっては、事業承継を行った元オーナー社長も後悔することになってしまいます。
そのため、事業承継では、最初に優先的に得るべき事項は後継者に十分な経営権(支配権)を持たせることで、その次に税金対策を検討することが適切と考えております。
もっとも、オーナー社長や後継者にとって税金対策は常に重大問題です。吉田総合法律事務所では、事業承継に精通した会計事務所や税理士と連携して、事業承継の問題に対応しております。
3 後継者への株式譲渡の手続き
後継者に会社の経営権(支配権)を確保させるためには、オーナー社長が後継者に株式を譲渡することが一般的です。
非上場企業では、株式の譲渡を制限しており、取締役会で承認しなければ株式の譲渡を行うことができないこととされていることがほとんどです。
この場合、オーナー社長から後継者に株式を譲渡する株式譲渡契約書を作成していても、会社法で定められた取締役会の承認決議等の手続きを適切に行っていないと、後で株式譲渡が無効となってしまうリスクがあります。
そのため、会社法で定められている手続きを適切に行い、書類を作成して証拠化することが重要です。その際には、会社法に精通している弁護士からの法的サポートを受けると安心です。
また、後継者に適切な経営権(支配権)を確保するために、または、事業承継後に安定した経営を行うために、分散した株式を少数株主から買い集めることもあります。
この場合に、疎遠となっていた親族の少数株主が株式の買取に応じてくれず、交渉が難航してしまうケースは多々あります。
このようなケースでは、弁護士が代理人として少数株主と交渉すること、または交渉する方のバックアドバイザリーとして軍師的活動をすることは有益です。
なお、株式譲渡については、こちらの記事もご覧ください。
4 自己株式の取得や従業員持株会の活用
親族内承継の場合、後継者が譲り受ける株式の譲渡価格が税金の関係で高額となることが通例です(譲渡金額が高額となる理由についての詳細な説明は割愛させていただきます。)。
そのため、後継者の資金の関係上、オーナー社長が保有している株式の全てや、経営権(支配権)確保のために必要な株式を譲り受けることができない場合があります。
この場合には、できる限り後継者が株式を譲り受け、自己株式の取得や従業員持株会を活用して後継者が経営権(支配権)を確保できるようにすることを検討します。
自己株式の取得で会社に帰属した株式は議決権がありませんので(会社法第308条2項)、自己株式の取得を行うことによって、後継者の議決権割合を相対的に高くすることができます。
なお、自己株式の取得については、こちらの記事もご覧ください。
また、従業員持株会は、後継者が従業員から支持を得ている場合には、後継者と従業員持株会が保有する株式によって経営権(支配権)を確保することもできます。また、従業員持株会が保有する株式を、議決権のない種類株式(この場合は議決権はないが優先配当株式にして経済的なインセンティブを付与することが有益です。)とすることによって、後継者の議決権割合を相対的に高くすることができます。
なお、従業員持株会については、こちらの記事もご覧ください。
このように、対象となる会社の具体的な状況や株主構成に応じて、自己株式の取得や従業員持株会の活用を検討することになります。
なお、自己株式の取得については、会社法で厳格な手続きが定められており、その手続きを行っていないと、自己株式の取得は無効となってしまいます。しかし、非上場企業の中には、会社法が手続法であること、特に自己株式の取得は手続きが複雑であることを理解せずに、当事者間の合意だけで自己株式を取得したことにしている企業がいらっしゃいます(これでは自己株式の取得は無効になります。)。この場合には、本来の株主構成とは異なる議決権数で株主総会を行うことになり、株主総会決議の効力にも影響があることが少なくありません。そうなりますと、将来の話である事業承継が暗礁に乗り上げてしまうだけでなく、目の前の経営についてもいざこざがおきてしまい、経営権(支配権)争いになってしまうリスクすらあります。
そのため、自己株式の取得についても弁護士から法的サポートを受けることをお勧めいたします。
5 遺言なしの事業承継におけるリスク
事業承継では、オーナー社長が生前に後継者に株式を譲渡する場合もありますが、オーナー社長が亡くなった時に後継者に相続させる場合もあります。
この場合、確実に後継者に株式を相続させることができるように、遺言を作成しておく必要があります。
仮に遺言を作成していないと、相続人の間で遺産分割協議を行って誰が何を相続するかを決めなければならず、他の相続人が反対した場合には後継者が株式を相続できない可能性が出てきてしまいます。
また、上記4記載のとおり、親族内承継の場合に後継者が譲り受ける株式の譲渡価格が税金の関係で高額となってしまうため、他の相続人から後継者に対して遺留分減殺請求がなされてしまうことがあります。
遺留分減殺請求を受けると、後継者は現金で遺留分を支払わなければならなくなり、資産状況が悪化してしまうかもしれません。
そのため、他の相続人から遺留分減殺請求を受けないように相続財産を整理したり、遺言で対処したりすることも必要となります。
なお、事業承継と遺留分については、こちらの記事もご覧ください。
6 弁護士による後継者へのサポート
事業承継は、オーナー社長から後継者へ経営権(支配権)を移転しただけ完結するものではありません。後継者がスムーズに事業を承継して、継続・発展していくことが、事業承継の最終的な目標といえます。
後継者が会社経営の豊富な経験を有している場合もありますが、会社経営の経験が少ないために初めはサポートを受けながら経営を行っていくこともあります。
会社経営には会社法や民法の知識が必須ですが、日々の業務に追われてしまい、なかなか手が回らないということもあります。
そこで、後継者が法律の専門家である弁護士から会社法や民法に関するサポートを受けることが有益となります。
7 非上場企業の事業承継でお困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください!
事業承継というと、税金対策の問題として会計事務所や税理士事務所への相談を思い浮かべることが多いかもしれません。
しかし、事業承継は多くの法律問題が複雑に絡み合っており、法律問題を一つ一つ検討していかなければ、適切かつ有効な事業承継を行うことはできません。
そのため、事業承継は、法律の専門家である弁護士から法的サポートを受けることが大切です。
また、これらの法的サポートは会社の顧問弁護士が対応できる領域とは限りません。会社の顧問弁護士には通常業務の法的サポートをしてもらい、事業承継は特殊な領域ですからそれに適した弁護士を活用されることがよいと思います。
吉田総合法律事務所は、非上場企業の中小企業・中堅企業の事業承継にも力を入れており、ご相談を受け付けております。
事業承継でお困りの非上場企業は、吉田総合法律事務所へご相談ください。