Q 長年にわたって残業代の一部が支払われていないことが判明しました。消滅時効期間が経過している未払い残業代は、請求されることはないと考えていいでしょうか。
A
未払い残業代は、雇用契約に基づく賃金債権として請求されることが一般的です。
賃金債権の消滅時効は、2020(令和2)年4月以前に発生したものは2年間、それ以降に発生したものは3年間となっています。
そして、消滅時効期間が経過した未払い残業代については、時効援用により消滅します。
しかし、この消滅時効を避けるため、未払い残業代を不法行為に基づく損害賠償として請求されることがあります。
これについて、賃金の未払いが直ちに不法行為となるのではなく、使用者が賃金の支払い義務を認識しながら労働者による賃金請求が行われるための制度を全く整えなかったり、賃金発生後にその権利行使を殊更妨害したりしたなどの特段の事情が認められる場合に限り、不法行為となるとした裁判例があります(東京地判令和3年8月20日)。
そのため、残業代に未払いが発覚した場合、直ちに不法行為となるわけではありませんが、悪質なケースでは不法行為となる場合があります。
そして、不法行為の消滅時効は、損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間ですので、賃金債権の消滅時効期間が経過している場合でも請求される可能性が残ってしまいます。
また、従業員が損害を知らない、つまり、残業代を請求できることを知らない限り、3年の時効期間はスタートしませんので、不法行為に基づく損害賠償請求権は短期の消滅時効にかかりません。