刑事事件の流れとは?

連日のニュースで、「凶悪事件が発生しました。」、「犯人が逮捕されました。」、「重大事件の裁判が行われました。」と報道されています。

このようなニュース報道を見ている方のほとんどは、他人事として見ており、まさか自分が当事者になるということは考えてもいないでしょう。

しかし、その日は突然やってきます。

それは、経営者自身や会社のことかもしれませんし、家族や会社の従業員のことかもしれません。

また、犯罪を疑われる立場かもしれませんが、社員に会社のお金を横領されたという被害者の立場で刑事事件にかかわるかもしれません。

そのようなときに、少しでも落ち着いて対応できるためには、刑事事件がどのような流れで進んでいくのか、その中で今はどの段階なのかを知ることが大切です。

いざというときのために、刑事事件の流れを頭に入れておきましょう。

なお、社員が横領した場合の対応については、こちらの記事 でまとめておりますので、ご参照ください。

【目次】

1 捜査と公判とは何ですか?
2 どのような場合に逮捕されるのですか?
3 逮捕されたらいつまで外に出られないのですか?
4 起訴されてしまうか否かはどのように決まるのですか?
5 保釈はいつから認められますか?
6 公判期日では何をするのですか?

1 捜査と公判とは何ですか?

刑事事件の手続きは、大きく「捜査」と「公判」の二つに分けることができます。

「捜査」は、警察や検察が犯罪や犯人を調べる手続きをいいます。

「公判」は、被告人の刑事責任の有無や刑事罰の内容を判断するための裁判手続きをいいます。

捜査と公判の簡単な流れは、以下の図のとおりです。

2 どのような場合に逮捕されるのですか?

警察や検察が犯罪の発生を認知した場合、捜査が開始します。

そして、犯罪をしたと疑われる人物(「被疑者」といいます。)が特定できたら、逮捕するか否かを検討し、被疑者を逮捕した場合には、身柄事件として捜査が進みます。

逮捕までは必要ないと判断した場合には、在宅事件として捜査が進みます。

在宅事件の場合には、警察に呼び出されたときは出頭して取調べを受けますが、その時以外は、自宅で生活を続けることができます。

逮捕されるか否かは、刑事訴訟法上では①犯罪をしたことを疑うに足りる相当な理由があること、②明らかに逮捕の必要がないとは認められないことが要件とされています。

①は、犯罪をした犯人であるということについて、証拠があるか否かが問題となります。

②は、逮捕しなくとも逃げたり、証拠を隠滅したりすることがないか否かが問題となります。

一般的に、窃盗や強盗、痴漢、盗撮といった個人が行う犯罪では、逮捕されることが多いといえます。

また、企業犯罪でも、刑務所で服役しなければならないような重大犯罪の場合には、逮捕されることがありますが、罰金刑などの軽微な犯罪であれば、逮捕されずに在宅事件として手続きが進められることが多い傾向です。

3 逮捕されたらいつまで外に出られないのですか?

逮捕されてからのことは、刑事訴訟法で厳格な時間制限が定められています。

逮捕されてしまうと、最大72時間(3日間)は拘束されてしまい、その間に、事件が検察庁に送られます(「送検」といいます)。

そして、その後も拘束し続ける必要がある場合には、勾留されてしまいます。

勾留は、原則として10日間ですが、さらに10日間まで延長することが認められています。

そのため、合計で23日間は逮捕・勾留されてしまう可能性があります。

この勾留期間中に、警察や検察が捜査し、最終的に検察官が起訴するか否かを判断します。

そして、起訴された場合には、引き続き勾留されることになりますので、数か月もの間外に出ることはできないことになります。

4 起訴されてしまうか否かはどのように決まるのですか?

起訴には、通常の「起訴」と「略式起訴」の二種類あります。

通常の起訴は、公開の法廷で裁判が行われますが、略式起訴の場合には、裁判官が書面をチェックするのみの簡単な手続きです。

そのため、略式起訴は、事件に争いのないもので、かつ、罰金刑の場合にのみ認められています。

略式起訴の場合は、書面で手続きが進むことになりますので、略式起訴された日に勾留は終了し、釈放されることになります。

通常の起訴ではなく、略式起訴となる一番のメリットは、勾留が終了して釈放されることにあります。

他方で、不起訴となる理由にも二種類あります。

一つは、「起訴猶予」と呼ばれるもので、証拠は十分にそろっているけれども、今回限りは起訴せずに終わらせるというものです。

もう一つは、「嫌疑不十分」と呼ばれるもので、起訴して裁判とするだけの証拠が不十分であるというものです。

犯罪を疑われている被疑者や被害者は、起訴されたか不起訴となったかについて、検察官から教えてもらうことができますが、教えてもらえる内容が異なります。

【犯罪を疑われている被疑者の場合】

起訴された場合には、起訴状が交付されますので、どのような犯罪について起訴されたかが分かります。

他方で、不起訴となった場合には、検察官に請求すれば不起訴となったことが告知されます(刑事訴訟法259条)。つまり、不起訴の場合には、検察官に請求しなければ教えてもらえないということです。

また、不起訴の告知の方法が法律で定められておりませんので、必ず書面で告知されるわけではありません。さらに、不起訴の理由(起訴猶予なのか嫌疑不十分なのか)は告知の対象となっておりませんので、不起訴となったことしか教えてもらえないこともあります。

【被害者の場合】

被害者は、起訴又は不起訴となった場合に、検察官から起訴又は不起訴となったことが通知されます(刑事訴訟法260条)。なお、被害者ではなく第三者として告発した告発人も、検察官から起訴又は不起訴となったことの通知を受けることができます。

また、被害者は、検察官に請求すれば、不起訴の理由(起訴猶予なのか嫌疑不十分なのか)を教えてもらうこともできます(刑事訴訟法261条)。

もっとも、いずれの通知等も、方法が法律で定められておりませんので、書面を交付してもらえないこともあります。

5 保釈はいつから認められますか?

よく勘違いされますが、起訴される前の段階で保釈請求することは法律上出来ないことになっています。

保釈は、起訴された後にのみ認められている制度です。

そのため、逮捕・勾留されている23日間は、保釈によって外に出ることはできません。

起訴されると初めて、裁判所に対して保釈請求をすることができるようになります。

請求すれば保釈されるわけではなく、裁判官が保釈の可否を判断します。

そこでは、証拠を隠滅するおそれがないかということや住所があるかということなどを検討します。

そして、保釈を認める場合であっても、保釈金を納付することが必要となります。

この保釈金は、刑事裁判の判決が出るまで裁判所に保管されますが、保釈の条件(裁判期日に出頭することや指定された住所で生活することなどが条件として定められることになります。)に違反した場合には、保釈金が没収されて、保釈が取り消されてしまいます。

なお、保釈に関しては、法律の改正が検討されており、国外に逃亡することを防止するために裁判所がGPS装置(位置測定端末)の装着を命令できることなどが盛り込まれる予定です。

詳しい内容は、法務省のホームページをご確認ください。

?法務省:刑事訴訟法等の一部を改正する法律案 (moj.go.jp)

6 公判期日では何をするのですか?

⑴ 起訴されてから約1ヶ月後から2ヶ月後に、公判期日が指定されます。

公判期日では、①冒頭手続き、②証拠調べ手続き、③論告弁論、④判決言渡の流れで手続きが進みます。

起訴された内容を認める自白事件では、多くが一回の公判期日で論告弁論まで行われ、二回目の公判期日で判決が言い渡されます。

この場合、起訴されてから3か月程度で公判手続きが終了することになります。

これに対して、起訴された内容を争う否認事件では、証拠を整理したり、何人も証人尋問を行ったりすることになるため、公判期日が複数回開かれます。

公判期日は1か月ごとに開かれることが通常ですので、公判手続きが終了するまで1年以上かかることもあります。

⑵ 冒頭手続き

冒頭手続きは、以下の流れで行われます。

・人定質問

裁判官が、被告人に氏名、本籍、住所、生年月日、職業の確認を行い、起訴された被告人と、法廷にいる人物が同一人物であることを確認します。

・起訴状朗読

検察官が、起訴したときに裁判所に提出した起訴状を読み上げ、どの事件について刑事責任を追及するのかを特定します。

・黙秘権告知

裁判官が、被告人に対して、「黙秘権」すなわち公判で一切喋らずに黙ったままでいることや、答えたい質問にだけ答えることができることを伝えます。

「黙秘権」は、一般的に警察や検察の取調べに対して行使するものと考えられており、その場合がほとんどですが、公判でも黙秘をすることがあります。

・罪状認否

最後に、検察官が読み上げた起訴状の内容について、被告人が意見を言います。

ここでは、事件を認めるのか否認するのか、否認するとしてその理由は何か(例えば、殺意がなかったことや正当防衛の主張)を簡単に述べます。

そして、弁護人も同様に意見を述べます。

⑶ 証拠調べ手続き

冒頭手続きが終わると、証拠調べ手続きが行われます。

証拠調べ手続では、文書の証拠である書証や証人を尋問する人証、被告人自身から話を聞く被告人質問等を行います。

証人尋問は、事件の目撃者や被害者などの関係者から話を聞く手続きです。

⑷ 論告弁論・意見陳述

公判の最後に、各当事者から意見を述べる機会があります。検察官からの意見を論告、弁護人からの意見を弁論と言います。そして、検察官の論告の最後には、求刑がなされます。

最後に、被告人が意見を述べることができます。

⑸ 判決言渡し

裁判官は、検察官・弁護人・被告人それぞれから意見を聞いた後、証拠調べ手続きでの証拠を吟味して、判決の内容を検討します。

そして、公開の法廷で、被告人に対して、判決を言い渡します。

   

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