株式買取請求・買取先指定請求・売買価格決定申立てとは?株主から請求された場合の対処方法

【目次】
1 株式買取請求とは?問題となる場面とは?
2 譲渡承認請求を承認しない場合の買取先指定請求とは?
3 価格決定の方法とは?売買価格決定の申立ての流れについて
4 価格決定申立事件における価格の決定方法とは?
5 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

本記事では、株式買取請求や株式譲渡承認請求、買取先指定請求、売買価格決定申立てについて解説いたします。

株主からこれらの請求等をされた場合、会社は直ちに動かなければなりませんので、事前に手続きの流れやポイントを頭に入れておくことが重要です。

株式買取請求や株式譲渡承認請求、買取先指定請求、売買価格決定申立てについてお困りの会社、経営者の方は、ぜひ本記事をご覧ください。

1 株式買取請求とは?問題となる場面とは?

株主は、出資をすることで、経営に参加したり(株主総会での議決権などの共益権)、配当を受けたり(自益権)することができます。

言い換えると、株主が出資する目的は、経営に参加することや、キャピタルゲイン(株式売却時の売買差益、値上がり益)を得ること、配当等の利益を受けることにあります。

このような出資の目的が株主にとって無くなってしまった場合には、株主は、株式を手放して出資した原資を回収することになります。

しかし、会社法上、株主が会社に対して、保有する株式を買い取るよう請求する権利が全面的に認められているわけではなく、限定的な場面においてのみ認められています。そのため、出資した原資を回収するためには、原則として、他人に株式を譲渡して譲渡代金を受け取る方法によることになります(株式譲渡契約については、こちらの記事 もご覧ください。)。

なお、流通性がなく、買い手を見つけることが難しい非上場会社の同族会社において、経営に参加することができない少数株主は、株式を現金化することができず、株式を保有することによる利益を受けることができないという問題があります。

例えば、取締役間で対立(経営権争い)が生じて、ある取締役が退任することになった場合、その取締役が株式を保有していれば、少数株主となり株式買取の問題が生じます。

また、非上場会社の同族会社では、経営に参加する意思はない同族の少数株主であっても、一定の割合以上の株式を保有していれば(いわゆる5%ルール)、同族株主の相続時に相続税が高額になってしまうことから、相続発生前に現金化しておきたいと考えて、株式買取の問題が生じることもあります。

このような少数株主問題については、こちらの記事 で解説しておりますのでご覧ください。

他方で、会社法は、一定の場合に、保有する株式を公正な価格で買い取ることを会社に対し請求することができると定めています。

これが、株式買取請求権です。

株式買取請求権が認められる場面は、①会社が株主の利益に重大な影響を及ぼす一定の行為を行うときに、反対株主に認められるものと、②単元未満株主に認められるものがあります。

①の詳細は、以下の表のとおりです。②は本記事では割愛します。

①株主の利益に重大な影響を及ぼす一定の行為を行うときに、反対株主に株式買取請求権が認められるもの事業譲渡等をする場合会社法第469条
合併、会社分割、株式交換、株式移転といった組織再編をする場合会社法第785条、
797条、806条
株式の譲渡制限をする場合会社法第116条
1項1号2号
株式に全部取得条項を付ける場合会社法第116条
1項2号
種類株主に損害を及ぼすおそれのある一定の行為を行う場合であって、種類株主総会の決議が定款で排除されている場合会社法第116条
1項3号

2 譲渡承認請求を承認しない場合の買取先指定請求とは?

上記1の株式買取請求権以外にも、株主が出資金を回収する方法があります。

それは、株式譲渡承認請求とともに、買取先指定請求を行う方法です。

非上場会社の同族会社のほとんどは、株式に譲渡制限が付けられており、株式を譲渡する際には取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認を得なければなりません。

株式に譲渡制限が付けられている場合に、取締役会の承認が得られないと、出資を回収することが全くできなくなってしまいます。

そこで、会社法は、保有する株式の譲渡を希望する株主に買取先指定請求を認め、取締役会が株式譲渡を承認しない場合には、会社又は会社が指定する買取人が当該株式を買い取ることとしました(会社法第138条1号ハ、2号ハ)。

これにより、株主は、株式譲渡が承認されない場合であっても、会社又は会社の指定する買取人に対して株式を譲渡することができ、出資を回収することができることになります。

これは、株主から譲渡承認請求と買取先指定請求がなされ、会社が株式譲渡を承認せず買取人を通知すれば、株主と買取人との間で株式譲渡契約(株式の売買契約)が成立し、後は売買価格を決める(下記3)だけということになります。

なお、この株式譲渡承認請求について、会社側で注意しなければならない点があります。

まず、株式譲渡承認請求の日から2週間以内に承認するか否かを判断し、その結果を株主に通知しなかった場合には、株式譲渡を承認したものとみなされてしまいます(会社法第145条1号)。   次に、株主から買取先指定請求がなされ、株式譲渡を承認しなかった場合には、会社が買い取るときは不承認の通知から40日以内に、指定買取人が買い取るときは不承認の通知から10日以内に、会社又は指定買取人が買い取る旨等を通知しなければ、株式譲渡を承認したものとみなされてしまいます(会社法第145条2号)。なお、指定買取人が買い取る場合には、その旨を取締役会で決議すれば足りますが(会社法第140条5項)、会社が買い取る場合には、その旨を株主総会で決議しなければなりません(会社法第140条2項)。株主の買取先指定請求に対し会社が買い取る場合は、自己株式の取得の一種といえますが、通常の自己株式の取得の手続きとは異なります(自己株式の取得についてはこちらの記事 をご覧ください。)。

さらに、会社又は指定買取人が買い取る旨等の通知をする際には、会社又は指定買取人は一株当たり純資産額に対象株式の数を乗じた額を供託し、供託を証明する書面(原本)を譲渡承認請求者に対して交付しなければ、株式譲渡を承認したものとみなされてしまいます(会社法第141条2項、第142条2項、第145条3号)。この供託金の金額は、計算方法が会社法施行規則第25条に定められており、これに従って算出します。

さらに、会社又は指定買取人が買い取る旨等の通知をする際には、会社又は指定買取人は一株当たり純資産額に対象株式の数を乗じた額を供託し、供託を証明する書面(原本)を譲渡承認請求者に対して交付しなければ、株式譲渡を承認したものとみなされてしまいます(会社法第141条2項、第142条2項、第145条3号)。この供託金の金額は、計算方法が会社法施行規則第25条に定められており、これに従って算出します。

すなわち、非常に短い期間内に、①株式譲渡を承認するか、②不承認の場合に誰が買い取るか、③暫定的な買取金額の供託をすることができるか、といった重要事項を検討して判断・実行しなければなりません。特に、暫定的な買取金額は、非常に高額となることが多く、供託金を確保することができるか否かがポイントになります。実際には、金融機関からの借入(緊急融資や担保権設定手続)等を検討することが多いと思われます。


3 価格決定の方法とは?売買価格決定の申立ての流れについて

上記1の株式買取請求がなされた場合や、上記2の株式譲渡承認請求と買取先指定請求がなされて譲渡承認がなされなかった場合には、株式を買い取ることは決まりますが、この他に株式の買取金額を決めなければなりません。

基本的には、まずは株主と買取人が協議し、協議が整わなかった場合には裁判所に価格決定の申立てを行うことができます。

ここでは、価格決定の申立てが比較的多く行われる、株式譲渡承認請求と買取先指定請求の場合における価格決定の申立ての流れを見ていきます。

まず、株主から株式譲渡承認請求と買取先指定請求がなされると、会社は取締役会で株式譲渡を承認するか否か、承認しない場合には買取人を誰にするかを決議して、その結果を2週間以内に株主に通知します。

ここで、株式譲渡を承認せず、会社を買取人に指定した場合、株主と会社とで当該株式の売買価格を協議することになります(会社法第144条1項)。

もっとも、株式の評価方法には様々なものがあり、売手である株主と買手である会社との協議は難航することが多いように思われます。また、この協議は形式的なもの(1~2回書面のやり取りを行うのみ)で終わることが多いです。

そこで、株主は、会社からの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格決定の申立てをすることができ(会社法第144条2項)、売買価格の決定を裁判所に委ねることができます。

売買価格決定の申立てを受けた裁判所は、「譲渡承認請求の時点における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮」して、売買価格を決定することになります。

他方、会社からの通知があった日から20日以内に株主が売買価格決定の申立てを行わなかった場合、最終的には、一株当たり純資産額に当該株式の数を乗じて得た額(=供託した金額)が売買価格となります(会社法第144条5項、会社法施行規則第25条)。そして、譲渡承認請求者は、会社又は指定買取人が供託していた供託金を受け取ることで、売買代金を受領することになります。

そのため、株主としては、売買価格が、一株当たり純資産額に当該株式の数を乗じて得た額(供託した金額)よりも高い金額になると考えられる場合には、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことになると考えられます。

逆に、売買価格が供託した金額よりも低い金額になると考えられる場合には、供託金を受領して売買を終了させることを株主は選択することになると考えられます。

4 価格決定申立事件における価格の決定方法とは?

株主から裁判所に対して売買価格決定の申立てがなされた場合、裁判所は、株式の売買価格を決めることになります。

その際、裁判所は、譲渡承認請求の時点における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して、売買価格を決定することになります(会社法第144条3項)。

もっとも、会社法では、これ以上の基準を定めておりません。また、市場価格のある上場会社とは異なり、流動性のない非上場会社における株価は一義的に決まるものではありません

そのため、株価の評価方法をどのようにするかも含めて、売買価格の決定は裁判所の合理的な裁量にゆだねられていると考えられています。

裁判所は、個々の事案の特性に応じて、下記のような評価方法を取捨選択し、場合によっては複数の評価方法を組み合わせて売買価格を決定しております。

もっとも、裁判所の判断基準が実務上確立されておりませんので、事前に見立てを建てることが非常に難しいのが実情です。

そこで、ここでは主だった株価の評価方法を紹介することとします。

株価の評価方法は、大きく3つに分けることができ、①インカム・アプローチ、②マーケット・アプローチ、③コスト・アプローチがあります。

①インカム・アプローチは、会社の将来の収益を株価に反映させるもので、下記の⑴DCF方式、⑵収益還元方式、⑶配当還元方式などがあります。

②マーケット・アプローチは、同業で類似の上場会社を選んでそれと比較することで株価を評価する方法で、下記の⑸類似会社比準方法などがあります。

③コスト・アプローチは、会社の純資産に基づいて株価を評価する方法で、下記の⑷時価純資産方式などがあります。

 

⑴ DCF方式(Discounted Cash Flow方式。日本ではディスカウントキャッシュフロー方式と呼称されることが多いです。)

DCF方式は、会社が将来どれだけのお金を稼ぐかを予測し、その金額から投資リスクを加味した適切な割引率で割り引くことにより、会社の現在価値(企業価値)を算出し、そこから負債額を差し引くという方法です。

この方法は、会社が事業活動を通じてお金を稼いで配当等を通じて株主に分配することに株式の価値がある、という考えに基づいています。

もっとも、DCF方式は、非上場会社で用いることが難しく、また、事実上会社側からしか算出することができないという難点があります。

⑵ 収益還元方式

収益還元方式は、一株当たりの利益を一定の資本還元率で除すことにより一株の株価を求めるという方法です。

⑶ 配当還元方式

配当還元方式は、将来支払われる配当額を予測し、投資リスクを反映した割引率で割り引くという方法です。

⑷ 時価純資産方式

貸借対照表に計上されている資産を時価に引き直して、その純資産額によって株価を算出するという方法です。

なお、時価純資産に対して、簿価純資産という概念もあります。

⑸ 類似会社比準方式

類似会社比準方式は、事業内容等が類似する上場会社を選定し、その会社の株式の市場価格を参考に、対象会社の株価を推定するという方法です。

なお、これまでの裁判例を見ますと、買取側(会社又は会社が指定する者)にとって非常に高額となるリスクが高いです。

そのため、裁判所が高額の売買価格を決定した場合には、買取側である会社の財務状況が悪化し、経営上の危機を招く可能性があります。

5 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

株式買取請求や買取先指定請求、その後の株式の売買価格決定申立てについては、会社法の専門的な知識・経験が求められる分野です。

株式譲渡承認請求や買取先請求がなされた場合には、迅速な対応も求められます。

また、非上場の同族会社でこれらの問題が生じた場合には、会社(経営側の株主)と少数株主とで深刻な対立関係となってしまっている可能性があります。

そのような場合には、法律論への対処だけでなく、感情面への配慮も行わなければ、解決に至ることはできません。

吉田総合法律事務所の弁護士は、会社法への対応はもちろんですが、関係者の感情や事案の背景にも配慮して、より良い解決を目指していきます。

株式買取請求や株式譲渡承認請求、買取先指定請求、売買価格決定申立てについてお困りの会社、経営者は、当事務所へご相談ください。

なお、少数株主問題については、こちらの記事 もご覧ください。

   

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