令和6年改正育児介護休業法の内容とは?特に中小企業の経営の視点から

令和6年に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育児介護休業法」といいます。)」が改正され、令和6年5月31日に公布されました。

令和6年改正は、すべての事業主が対応することが必須のものであり、かつ、令和7年4月1日から順次施行されます。

そのため、改正内容をしっかりと理解する必要がありますので、本記事で整理して解説します。

もっとも、実際には、改正内容を実務に落とし込まなければなりませんが、現時点(令和6年8月)では行政庁からのガイドライン等は公表されておりませんので、施行までの間に検討・準備していくことになります。

本記事では、令和6年改正の内容を、Q&A形式で解説します。

なお、本記事は、行政庁が公表している資料を参考にしております。こちらの公表資料も併せてご覧ください。

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【目次】
Q1 令和6年改正の趣旨は何ですか?
Q2 令和6年改正のポイントは何ですか?
Q3 令和6年改正における柔軟な働き方を実現するための措置等(改正のポイント①)は、どのような内容ですか?
Q4 令和6年改正における所定外労働の制限(残業免除)の対象の拡大(改正のポイント②)は、どのような内容ですか?
Q5 令和6年改正における育児のためのテレワークの導入の努力義務(改正のポイント③)とは、どのような内容ですか?
Q6 子の看護休暇の見直し(改正のポイント④)とは、どのような内容ですか?
Q7 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の事業主の義務化(改正のポイント⑤)とは、どのような内容ですか?
Q8 育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大(改正のポイント⑥)とは、どのような内容ですか?
Q9 介護離職防止のための個別周知・意向確認、雇用環境整備等の措置の事業主の義務化(改正のポイント⑦)とは、どのような内容ですか?
Q10 令和6年改正育介法に違反した場合、どのようなペナルティーがありますか?

Q1 令和6年改正の趣旨は何ですか?

令和6年改正の趣旨は、

男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる」

こととされています。

すなわち、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにすることを目的とし、この目的を達成するために、

①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、

②育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大、

③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置、

といった手段を講じるというものです。

令和3年改正では、男性が育児休業を取得しやすくすることが主なポイントでしたが、令和6年改正では男女の両方を対象としています。

なお、育児介護休業法の令和3年改正については、こちらの記事で解説していますので、併せてご覧ください。

Q2 令和6年改正のポイントは何ですか?

令和6年改正のポイントは、以下の7つです。

 ①柔軟な働き方を実現するための措置等が事業主の義務に

 ②所定外労働の制限(残業免除)の対象の拡大

 ③育児のためのテレワークの導入が努力義務に

 ④子の看護休暇が見直し

 ⑤仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主の義務に

 ⑥育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大

 ⑦介護離職防止のための個別周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が事業主の義務に

なお、②~④、⑥、⑦は、令和7年4月1日に施行されます。

①と⑤は、公布日(令和6年5月31日)から1年6か月以内(令和7年11月30日まで)の政令で定める日に施行されます。

Q3 令和6年改正における柔軟な働き方を実現するための措置等(改正のポイント①)は、どのような内容ですか?

現行の育児介護休業法においても、1日の労働時間を6時間とする短時間勤務制度や、所定外労働の制限(残業免除)等が定められています。

もっとも、これらの対象は3歳に達するまでの子を養育する労働者に限定されていました。

そこで、令和6年改正で、3歳から小学校就学の始期に達するまでの間において、事業主は柔軟な働き方を実現するための措置を講じなければならないこととされました(第23条の3)。

具体的には、①始業時刻等の変更、②月10日のテレワーク(在宅勤務)等、③保育施設の設置運営等、④年10日の新たな休暇の付与、⑤短時間勤務制度の5つの中から2つ以上の制度を選択して導入しなければなりません。

労働者は、事業主が導入した2つ以上の制度の中から1つ選んで利用することができます。

なお、上記のとおり5つの中から2つ以上を選択すれば良いため、テレワーク(在宅勤務)の導入が必須ということではありません。

Q4 令和6年改正における所定外労働の制限(残業免除)の対象の拡大(改正のポイント②)は、どのような内容ですか?

現行の育児介護休業法では、所定外労働の制限(残業免除)は3歳に達するまでの子を養育する労働者に対象が限定されていました。

令和6年改正では、この所定外労働の制限(残業免除)の対象を、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に拡大されることとなりました(第16条の8)。

Q5 令和6年改正における育児のためのテレワークの導入の努力義務(改正のポイント③)とは、どのような内容ですか?

令和6年改正では、事業者は、3歳に満たない子を養育する労働者に対して、テレワーク(在宅勤務)の措置を講ずるように努めなければならないこと(努力義務)とされました(第24条2項)。

Q6 子の看護休暇の見直し(改正のポイント④)とは、どのような内容ですか?

現行の育児介護休業法では、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、子の病気やケガ、予防接種、健康診断を理由として休暇を取得することができるとされていました。

令和6年改正では、対象となる子の範囲が延長され、かつ、取得事由が追加されました(第16条の2)。

対象となる子は、小学校第三学年終了までに延長され、取得事由に感染症に伴う学級閉鎖等入園(入学)式卒園式が追加されました。

また、この改正に伴い、「子の看護休暇」という名称が「子の看護等休暇」に変更されました。

Q7 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の事業主の義務化(改正のポイント⑤)とは、どのような内容ですか?

令和6年改正では、事業主は、妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取や配慮が義務付けられました(第22条2項3項)。

意向聴取の方法や配慮の具体例は、今後公表される省令や指針で示される予定です。そのため、実務上は、今後公表される省令や指針を参考にして、実際の対応を検討する必要があります。

Q8 育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大(改正のポイント⑥)とは、どのような内容ですか?

現行の育児介護休業法において、育児休業の取得状況の公表が義務付けられているのは、常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主に限定されていました。

これに対し、令和6年改正では、育児休業の取得状況の公表が義務付けられる対象を、常時雇用する労働者が300人超の事業主に拡大されました(第22条の2)。

これにより、従業員数が大企業に比べて多くない中小企業も、公表しなければならないことになります。

なお、この「常時雇用する労働者」は、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指すと解されています。

そのため、「常時雇用する労働者」には、期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)を締結している労働者だけではありません。期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)を締結している労働者であっても、その雇用期間が反復継続されて事実上期間雄定めなく雇用されている労働者と同等と認められる労働者も含まれることになります。具体的には、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者又は雇入れのときから1年以上引き続き雇用されると見込まれる者とされていますので(厚労省の指針を参照。)、有期雇用契約の労働者であっても、「常時雇用する労働者」に該当する可能性が高いと思われます。

Q9 介護離職防止のための個別周知・意向確認、雇用環境整備等の措置の事業主の義務化(改正のポイント⑦)とは、どのような内容ですか?

現行の育児介護休業法にも、仕事と介護の両立支援制度が定められていましたが、この制度を十分に活用できないまま介護離職に至ることがあるため、これを防止するために見直しが図られました。

令和6年改正では、以下の事項が追加されます(第21条4項5項、第22条2項)。

  • ・介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別周知・意向確認
  • ・介護に直面する前の早い段階での両立支援制度等に関する情報提供
  • ・仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
  • ・要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを利用できることを努力義務化

Q10 令和6年改正育児介護休業法に違反した場合、どのようなペナルティーがありますか?

令和6年改正育児介護休業法に違反した場合であっても、刑事罰や行政罰の対象とはされておりません。

しかし、厚生労働大臣は、育児介護休業法の施行に関し事業主に対して報告を求めたり、助言指導勧告をしたりすることができると定められています(法第56条)。これは、令和6年改正部分も同様です。

また、厚生労働大臣が勧告したにもかかわらず、これに従わなかった場合には、その旨を公表することができます(法第56条の2)。

厚生労働大臣から指導や勧告を受けたということが報道されてしまったり、公表されてしまったりした場合には、企業にレピュテーションリスクが生じてしまいます。これにより、ブラックな企業というイメージを持たれてしまい、優秀な人材の獲得が困難になってしまうことも起こり得ます。

さらには、令和6年改正育児介護休業法に違反しているということは、企業の従業員に対する義務を怠っているということになり、従業員から損害賠償請求されてしまうリスクも生じてしまいます。

刑事罰や行政罰がないからといって、令和6年改正育児介護休業法を守らなくても良いということにはなりませんので、しっかりと対応する必要があります。

ライフワークバランスを重要視する労働者が増えている中で、育児介護休業法の改正に対応していないと、優秀な労働者が退職してしまったり、入社希望者が現れなかったりしてしまいます。

人手不足が深刻化する現代において、中小企業も多様なバックグラウンドを持つ労働者が働くことのできる環境を整えることが求められています。

そのため、令和6年改正の内容をしっかりと押さえて、労働者が働きやすい体制を整えていく必要があります。

吉田総合法律事務所の弁護士も、法改正への対応をサポートします。

育児介護休業法の令和6年改正にお困りの企業・経営者の方は、吉田総合法律事務所へご相談ください。

   

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