労働基準法の改正により、2023年4月から、中小企業において月60時間超の時間外労働の割増賃金率が上がります。
これは、中小企業にとって経済的な負担が増えるものですが、対応しなければ法的紛争に直結してしまいます。
そこで、本記事で企業が行うべき対応を確認しましょう。改正労働基準法や労働時間管理体制への対応は弊所へご相談ください。
【目次】 Q1 労働基準法が改正された背景は? Q2 働き方改革関連法の概要は? Q3 2023年4月1日から施行されるものは? Q4 月60時間超の時間外労働を深夜時間に行った場合は? Q5 2023年4月1日施行に伴い、中小企業の事業主がやるべきことは? Q6 裁判になると付加金が課される可能性があると聞きましたが、付加金について教えてください。 |
Q1 労働基準法が改正された背景は?
労働基準法の改正は、国が提唱している「働き方改革」として行われました。
働き方改革は、働く方が多様な働き方を選択できる社会を実現することで、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
そして、日本の雇用の7割を中小企業・小規模事業主が担っていることから、中小企業・小規模事業主においても、働き方改革を着実に実施することが必要とされています。
このような経緯から、労働に関する基本法である労働基準法が改正されました。
Q2 働き方改革関連法の概要は?
働き方改革により実施された法改正(働き方改革関連法)の概要は、以下の8点です。
① 時間外労働の上限規制を導入
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合にも上限を設定します。
② 年次有給休暇の確実な取得
使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について確実に取得させなければなりません。
③ 中小企業の月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
月60時間を超える残業に対する割増賃金率を50%に引き上げます。
④ フレックスタイム制の拡充
より働きやすくするため、制度を拡充します。労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を3か月まで延長できます。
⑤ 高度プロフェッショナル制度を創設
職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する場合に、確保措置や本人同意、労使委員会決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外にできます。
⑥ 産業医・産業保健機能の強化
産業医の活動環境を整備します。労働者の健康管理等に必要な情報を産業医へ提供することなどとします。
⑦ 勤務間インターバル制度の導入促進
終業時刻から次の始業時刻の間、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)の確保に努めなければなりません。
⑧ 正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止
同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止されます。
なお、上記のうち③以外は本記事では取り上げませんので、下記の厚生労働省の資料等でご確認ください。
?働き方改革関連法に関するハンドブック.indd (mhlw.go.jp)
Q3 2023年4月1日から施行されるものは?
上記Q2の働き方改革関連法のうち、③以外は2023年1月時点ですでに施行されています。
そして、2023年4月1日に最後の③が施行されることになります。
③の概要は、以下のとおりです。
2023年3月31日までは、中小企業における月60時間超の残業割増賃金率は25%でした(大企業は50%)。
2023年4月1日からは、この中小企業における月60時間超の残業割増賃金率が50%に引き上げられます(大企業は50%に据え置き)。
2010(平成22)年の労働基準法改正により月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられましたが、中小企業については25%のままとする猶予措置がとられておりました。そして、今回の労働基準法改正により、この猶予措置が廃止されました。
これによって、すべての使用者は、月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなります(労働基準法37条1項ただし書)。
Q4 月60時間超の時間外労働を深夜時間に行わせた場合は?
この月60時間を超える時間外労働を深夜(22時00分~5時00分)の時間帯に行わせた場合には、時間外割増賃金率50%+深夜割増賃金率25%=75%で計算した割増賃金を支払わなければならなくなります(労働基準法37条4項)。
Q5 2023年4月1日の施行に伴い、中小企業の事業主がやるべきことは?
2023年4月1日以降は、中小企業であっても、月60時間を超える法定労働時間外労働に対して、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
もっとも、あらかじめ労使協定を締結していれば、月60時間を超える時間外労働の割増賃金の支払いの代わりに、有給休暇(代替休暇)を付与することもできます(労働基準法37条3項)。そのため、支払う割増賃金を抑えるのであれば、労使協定を締結しておく必要があります。
また、時間外労働の割増賃金率を就業規則(賃金規程)で定めている場合には、就業規則を変更することも必要です。
厚生労働省も改正にあわせた「モデル就業規則」を公表していますので、そちらもご参照ください。
?https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
Q6 裁判になると付加金が課される可能性があると聞きましたが、付加金について教えてください。
働き方改革により労働法制が大きく変動しており、中小企業にとっては厳しい法改正になっています。
しかし、法改正に対応しなければ、未払賃金や付加金を請求されるといった法的紛争が発生し、かえって企業に大きな損失が生じてしまうことにもなりかねません。
付加金とは、労働基準法に基づいて支払うべき割増賃金等を企業が支払わなかった場合に、未払賃金とは別に、制裁として企業に支払いを命じる金額です。
この付加金については、企業の法違反の程度や態様などの事情を考慮して、裁判所が支払の要否(裁判所が付加金の有無を判断します)や付加金の額(裁判所が割増賃金額を上限に制裁として妥当と判断する額を定めます)を決定します。
もし、未払賃金と同一額の付加金(つまり上限額です)の支払を命じられてしまうと、企業には合計で未払賃金の倍額の支払義務が生じます。
ただし、労働審判には付加金はなく、労働裁判でも和解成立の場合には付加金はありません。付加金が課されるのは労働審判以外の裁判で、裁判上の和解ができずに判決になった場合だけです。そのため労働裁判で和解を検討するときは付加金リスクの回避も検討材料になります。
実際の裁判例でも、付加金が命じられたことにより企業の支払う金銭が多額となる事例が増えており、「初めから割増賃金をちゃんと支払っていればよかった・・・。」となることも少なくありません。
なお、企業の支払額については利息も論点になりますが本稿では割愛します。
弊所では、労働法に関するご相談を数多く受け付けており、弁護士が日々対応しております。
労働にまつわることでお困りの際は、当事務所へご相談ください。