株主の相続と権利行使の問題とは?

Q1 当社の株主が亡くなっていたことが分かりました。まだ遺産分割を行っていないようなのですが、相続人の一人が定時株主総会への出席を希望しているようです。株主総会での議決権行使を認めて問題ありませんか?

A1

 株主が保有していた株式も、経済的な価値のある財産ですので、被相続人の死亡により遺産(相続財産)として相続人に承継されることになります。

相続人が複数人存在している場合で遺産分割協議を行うまでの間は、相続人全員が株式を共有することとなります(遺産分割協議を行った後は、遺産分割協議の内容に従って株主が決まることとなります。)。

 株式が共有されている場合の株主の権利行使(議決権行使も含みます。)については、会社法106条本文が定めています。

同条本文では、共有者が権利行使する者一人を定めて、会社に対して権利行使者の氏名又は名称を通知しなければ、権利行使することはできないとしています。    また、権利行使する者の選び方については、共有者全員が一致することまでは必要ではなく、共有持分の過半数による多数決で足りるとされています(最判平成9年1月28日判時1599号139頁 )。

そのため、会社としては、共有持分の過半数の相続人から権利行使する者の氏名又は名称の通知を受けたときに限り、その者の議決権行使を認めればよく、そのような通知がない場合には、議決権行使を拒否することができます

 なお、会社法106条ただし書きは、会社が同意すれば、上記の通知をしなくとも株式の共有者の権利行使ができると定めています。

しかし、会社が同意すれば、どのような場合でも共有者が権利行使することができるのではありません。この会社法106条ただし書きは、共有者からの通知がない場合でも、会社が同意すれば、民法の共有に関する原則論による権利行使を認めるという趣旨と解されています。そのため、共有者が共有持分の過半数による多数決で権利行使の仕方を決め、それに従って共有者の一人が権利行使した場合には、会社が同意すれば、権利行使は有効となります。これに対し、会社が同意したとしても、共有持分の過半数による多数決がない場合には、権利行使は無効となります(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁 )。

Q2 Q1の定時株主総会で配当金交付の決議をして、株主へ配当金を交付することとなりました。誰に配当金を交付すればいいでしょうか?

A2

 A1で、株式は相続人の共有になると説明しました。

配当金交付請求権も経済的価値のある債権ですので、株式と同じように被相続人の共有になると思われるかもしれません。しかし、配当金交付請求権は、被相続人の共有にはなりません

配当金交付請求権を考える際には、配当金交付請求権の発生時期と被相続人の死亡時の前後関係が重要となります(もっとも、結論は同じになります。)。

 配当金交付請求権の発生が先で、配当金を受け取るまでに被相続人が死亡した場合はどのように考えれば良いでしょうか?

この場合には、配当金交付請求権という債権が発生していて、その債権が相続人に相続(承継)されることとなります。

そして、配当金交付請求権は、性質上可分であるため、分割債権となります。この分割債権は、相続が発生した場合、遺産分割協議を行うことなく、当然に相続分に応じて各相続人に分割されます

つまり、各相続人は、自身の相続分の割合に応じた配当金交付請求権を相続により得て、各相続人が単独で権利行使することができます。

そのため、各相続人は、会社に対して、自身の相続分の割合に応じた配当金の交付を請求することができ、会社はそれに応じなければなりません(細かい作業になるときもあります)。

 被相続人の死亡が先で、その後に配当金交付請求権が発生した場合はどのように考えれば良いでしょうか。

この場合には、被相続人が死亡した時点で、株式は各相続人が共有することになります(上記A1参照。)。そして、共有状態の株式に派生するものとして、配当金交付請求権が発生することになります(このことを「相続財産から生じた果実」と呼ぶときもあります。)。

この相続財産から生じた果実については、相続財産とならず、各相続人が自身の相続分の割合に応じて単独債権として確定的に取得するとされています(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁名古屋高判平成23年5月27日金判1381号55頁)。

この考え方により、配当金交付請求権も、各相続人が自身の相続分の割合に応じて単独債権として確定的に取得することとなります。

そのため、①と同様に、各相続人は、会社に対して、自身の相続分の割合に応じた配当金の交付を請求することができ、会社はそれに応じなければなりません。

 以上のとおり、①と②とで、同じ結論となり、会社は、各相続人に対して、その相続分割合に応じた配当金を交付しなければなりません

なお、実務においては、①と②のいずれであっても、相続人全員の同意により各相続人が単独で取得する債権を遺産分割の対象とすることができ、遺産分割協議により特定の相続人が配当金交付請求権を取得すると定めることができます。この場合には、会社は、遺産分割協議で定められた特定の相続人に対して、配当金全額を交付すれば良いことになります。もっとも、株式自体と配当金交付請求権は別個の権利ですので、遺産分割協議書には、「配当金交付請求権」を明記しなければならないことにご注意ください。遺産分割協議書に「株式」の定めしかない場合には、配当金交付請求権に関する定めがないこととなり、各相続人に対して配当金を交付しなければなりません。

株主の相続が発生すると、関係者が多数になり権利関係が複雑化するとともに、会社法だけでなく民法の理解も必要となります。

このような問題に対処するには、横断的な知識や豊富な経験が必要です。

当事務所の弁護士は、このような株主の相続にも日々対応しております。株主の相続問題でお困りの際は、当事務所へご相談ください。

   

顧問先様の声

吉田総合法律事務所が提供する企業法に関するメールマガジン

03-3525-8820 03-3525-8820 メールでのご相談予約はこちらをクリックしてください。