【目次】 1 営業秘密の侵害行為として禁止されているのは、どのような行為ですか? 2 営業秘密侵害行為が行われた時に、まず何をすべきですか? 3 営業秘密侵害行為をした者に対してどのような請求ができますか? 4 営業秘密が侵害された可能性がある場合には、吉田総合法律事務所にご相談ください。 |
1 営業秘密の侵害行為として禁止されているのは、どのような行為ですか?
不正競争防止法は、営業秘密侵害行為を細かく定めていますが、以下の3類型があります。
- 営業秘密保有者から不正に取得したことに起因して、点々流通する過程で行われる不正取得類型
- 当初は適法に開示を受けた営業秘密が、その後に不正に使用・開示され、その後点々流通する過程で行われる信義則違反類型(不正開示型)
- 侵害品譲渡等類型
3類型それぞれについて、第一次取得者と第二次取得者(転得者)の行為が営業秘密侵害行為として規定されています。
全体像は以下の図をご覧ください。
なお、以下の説明は、経済産業省が公表している資料に基づいており、難解な用語等が出てきます。できる限り読みやすい表現としておりますが、ご了解ください。
本稿をお読みいただくことで、正確ではあるがやや難解な経済産業省の公表資料について、理解や読解に役立つものと期待しております。
また、経済産業省知的財産政策室が公表している「逐条解説不正競争防止法」もご参照ください。
(1)不正取得類型(4~6号)
ア 営業秘密不正取得行為(4号)
まず、窃取、詐欺、脅迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為を、営業秘密不正取得行為と定めています。
窃取や詐欺、脅迫という典型例が挙げられていますが、営業秘密を権限なく取得する行為であれば、この営業秘密不正取得行為に該当するとされています。
例えば、情報管理室の担当者に虚偽の事実を述べて顧客情報を印刷させて取得した行為が、営業秘密不正取得行為に当てはまります。
イ 営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用する行為(4号)
営業秘密不正取得行為によって取得した営業秘密を使用することも、侵害行為となります。
「使用」は、営業秘密を本来の使用目的に沿った経済的用法に用いることをいいます。
例えば、自社製品の製造のために、他社製品の製造方法に関する営業秘密を直接使用する行為が、これに当てはまります。
ウ 営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を開示する行為(4号)
営業秘密不正取得行為によって取得した営業秘密を開示することも、侵害行為となります。
「開示」は、営業秘密を公知のものにし、または秘密の状態を保持しつつ特定の者に示すことをいいます。
例えば、営業秘密を口頭で第三者に伝えたり、営業秘密が記録された電子データを第三者に送信したりする行為が、これに当てはまります。
エ 営業秘密不正取得行為の介在につき悪意又は重過失で営業秘密を取得し、取得した営業秘密を使用し、開示する行為(取得時悪意転得、5号)
これは、営業秘密不正取得行為(上記アウ(4号))の転得者を規制するものです。
ここで転得者として規制されるのは、営業秘密を取得した時点で、営業秘密不正取得行為が介在していることを知っているか(悪意)、又は取引上求められる注意をせずに(重過失)営業秘密を取得した場合に限られます。
例えば、営業秘密を窃取した従業員から産業スパイがその営業秘密を受け取る行為が、これに当てはまります。
なお、営業秘密を取得した時点で悪意または重過失がない場合は、次のオに限って規制対象となります。
オ 営業秘密を取得した後に営業秘密不正取得行為の介在について悪意又は重過失となり、営業秘密を使用・開示する行為(取得時善意転得、6号)
これも、営業秘密不正取得行為(上記アウ(4号))の転得者を規制するものです。
営業秘密を取得した時点では営業秘密不正取得行為について善意無重過失であったため、上記エには該当しないものの、取得後に悪意又は重過失となり営業秘密を使用・開示した場合に規制するものです。
(2)不正開示型(7~9号)
ア 営業秘密保有者から営業秘密を示された場合に、図利加害目的で営業秘密を使用・開示する行為(7号)
これは、契約などにより正当に営業秘密が開示された場合に、不正の利益を得る目的や保有者に損害を与える目的で、営業秘密を使用・開示することを規制するものです。
例えば、在職中に取り扱っていた会社の顧客情報等を、退職後に競業他社に開示するような場合が、これに該当します。
イ 営業秘密不正開示行為(7号)であること若しくは営業秘密不正開示行為が介在したことについて悪意又は重過失で営業秘密を取得、使用、開示する行為(取得時悪意転得、8号)
これは、上記ア(7号)により営業秘密の開示を受ける側(転得者)を規制するものです。
営業秘密を取得した時点で、営業秘密不正開示行為であること又は営業秘密不正開示行為が介在したことについて悪意又は重過失がない場合には、次のウに限って規制対象となります。
ウ 営業秘密を取得した後に、営業秘密不正開示行為若しくは営業秘密不正開示行為の介在について悪意又は重過失となり、営業秘密を使用・開示する行為(取得時善意転得、9号)
これも、上記ア(7号)により営業秘密の開示を受ける側(転得者)を規制するものです。
営業秘密を取得した時点では善意無過失であったため上記イ(8号)には該当しないものの、取得後に悪意又は重過失となり営業秘密を使用・開示した場合に規制するものです。
例えば、営業秘密を取得した後に、営業秘密保有者から警告を受けたため営業秘密不正開示行為が介在していたことを知ったにもかかわらず、営業秘密を使用・開示する行為が、これに当たります。
(3)侵害品譲渡等類型(10号)
4号から9号までの行為により生じた営業秘密を譲渡、引渡し、展示、輸出入、電気通信回線を通じた提供を行うことも、営業秘密侵害行為として規制されています(10号)。
この類型は、営業秘密侵害品が広く流通している可能性があることから、営業秘密侵害に対する抑止力を向上させることを意図したものです。
(4)適用除外(19条1項6号)
取引によって営業秘密を取得した者が、取得した時点で不正開示行為・不正取得行為があったことについて善意無重過失である場合には、取引によって取得した権限の範囲内において営業秘密を使用・開示する行為については、適用除外とされています。
取得後に悪意又は重過失となった場合に営業秘密を使用・開示する行為は、6号や9号に該当することになります。しかし、これらを全て営業秘密侵害行為として規制してしまうと、対価を支払って営業秘密を取得した者に不測の損害を与えることになり、取引の安全を害してしまいます。
そのため、取引によって取得した権限の範囲内で使用・開示するだけならば、適用除外としています。
2 営業秘密侵害行為が行われた時に、まず何をすべきですか?
情報社会において、企業が情報管理を徹底したとしても、情報漏えいを完全に防ぐことはできません。
そのため、営業秘密侵害行為が行われた時の対応をあらかじめ検討しておくことが大切です。
営業秘密侵害行為が行われた時には、まず被害拡大の防止や企業イメージを保護するためのレピュテーション・リスク対策が非常に重要です。
情報端末をネットワークから遮断する、営業秘密侵害行為を行った者に対しすみやかに警告書を出すなどのアクションをすることが大事です。
また、ケースによっては、速やかな対外公表や被害者対応、場合によってはマスコミ対応も検討する必要があります。
情報は素早く拡散しますし、情報漏えい自体の損失を完全に回復することは困難です。そのため、できるだけ初動は迅速に行う必要があります。
そして、迅速な初動を行うためには、日ごろから情報管理の体制を整備しておくことは非常に大切です。
3 営業秘密侵害行為をした者に対してどのような請求ができますか?
営業秘密侵害行為を受けた場合には、被害回復と将来の防止のために、営業秘密侵害行為を行った者に対して、徹底的に責任追及をすることも検討してください。
責任追及としては、不正競争防止法に刑事責任と民事責任が定められています。それぞれ説明します。
(1)刑事責任
不正競争防止法は、営業秘密を侵害した者に、10年以下の懲役刑又は2,000万円以下の罰金刑を科すと定めています(法21条1項、営業秘密侵害罪)。
不正競争防止法には両罰規定もありますので、営業秘密を侵害した個人だけでなく、会社も処罰されます(法22条1項)。
なお、営業秘密を侵害した者には、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪が成立するだけでなく、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反の罪や電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)、背任罪(刑法247条)、横領罪(252条)、個人情報データベース等不正提供罪(個人情報保護法第84条)等が成立することもあります。
このような刑事責任を追及したい場合には、警察に対して被害届(当該警察から告訴状を求められたら告訴状)を提出し、捜査してもらうことになります。
被害届の提出や事前相談は、最寄りの警察署でも受け付けてくれますが、道府県警本部に設置されている営業秘密保護対策官に行う方が好ましいと考えられます。
もっとも、実際には、警察もすべての被害届の提出を受け付けているわけではなく、受付を拒絶されてしまうこともあります。
警察に受け付けてもらえるためには、被害届とともに、きちんとした証拠資料を提出して、警察を説得しなければなりません。
(2)民事責任
上記⑴は、営業秘密侵害行為を行った者の刑事責任を追及するものです。営業秘密侵害行為による民事被害を回復するためには、民事責任の追及をする必要があります。
以下は民事責任の追求についての説明です。
① 使用の差止めや営業秘密の破棄
営業秘密侵害行為による被害を回復するためには、営業秘密を使用させないことが一番です。
そのため、不正競争防止法第3条は、営業秘密侵害行為を行った者に対する使用の差止めや営業秘密の破棄などの請求を定めています。
② 損害賠償
上記①の使用の差止めや営業秘密の破棄は、将来における営業秘密の使用を防ぐためのものです。そのため、すでに使用されたことによる損害については金銭的な賠償を請求することになります。
不正競争防止法第4条は、営業秘密侵害行為を行った者に対する損害賠償請求を定めています。
なお、不正競争防止法に基づき民事責任を追及する場合(特に裁判)には、営業秘密性の要件を満たすかが争点となることが多く、裁判での証明が難しいケースもあります。
これに対して、契約や就業規則等で、秘密情報を明確に定義して、明確な表現で持ち出しを禁止していれば、その契約や就業規則に基づいて民事責任を追及することが容易になります。
みなさまには、ぜひとも契約や就業規則等によるリーガルプロフェッショナルの観点からの対応策も検討していただきたいと思っております。
4 営業秘密が侵害された可能性がある場合には、吉田総合法律事務所にご相談ください。
情報化社会において、営業秘密は企業の貴重な財産であり、企業の発展のためにも、営業秘密の管理は重要課題です。
そして、営業秘密の侵害は、企業の重要な財産が流出したことを意味します。
そのような事態に陥ったら、いかに被害を最小限に抑えるか、いかに被害を回復するかというダメージコントロールが重要となります。
当事務所の弁護士は、中小企業・中堅企業の実情をよく理解しており、中小企業・中堅企業の実情に即したアドバイスを行うことができます。
営業秘密が侵害されたかもしれないとお考えの経営者様は、当事務所までご相談ください。