株主総会の進行や議事録を検討する際に、監査報告が当然のように出てきます。
しかし、会社法上は、全ての株式会社の株主総会で監査報告が必要とされているわけではないことをご存知でしょうか。
会社法での立てつけをきちんと理解したうえで、株主総会での監査報告の適切な扱いを検討することが大切です。
例えば、株主総会を書面決議や書面報告で行う場合に監査報告をどのように扱えば良いかということは、文献にも書いていないことが多く、実務担当者が悩ませる点です。このことも、会社法での監査報告の立てつけから考えることができます(なお、書面決議・書面報告については、こちらの記事 をご覧ください。)。
そこで、監査報告とはどのようなものかという基本事項や会社法での監査報告のルールを確認したうえで、書面決議・書面報告の場合の監査報告の扱いを見ていきたいと思います。
【目次】 1 監査報告とは? 2 監査報告に記載しなければならない事項とは? 3 株主総会で監査報告をしなければならないときとは? 4 書面決議・書面報告をする場合の監査報告の扱いとは? 5 株主総会でお困りの企業・経営者は吉田総合法律事務所へご相談ください。 |
1 監査報告とは?
株式会社では、取締役や執行役が行う業務執行を監査する役割を、監査役や監査役会(以下、「監査役等」といいます。)が担っています。
監査役等の監査とは、職務執行が適正に行われているかを調査し、必要に応じて是正を行うことをいいます。
そして、監査役等の職務は、株式会社の業務一般を監査すること(業務監査)ですが、監査役の職務範囲を会計監査に限定している会社では、会計に関する事項の監査に限られます。
監査役は、取締役会に出席するなどして業務執行を監査しますが、業務監査の中でも重要なのが、事業年度ごとの計算書類及び事業報告並びにそれらの付属明細書の監査です(436条1項)。
監査役は、これらの書類の監査を行い、その監査の方法・内容、監査役の意見等を記載した監査報告を作成しなければなりません(会社法施行規則129条、計算規則122条、127条)。これが、「監査報告」です。
2 監査報告に記載しなければならない事項とは?
監査役が作成する監査報告に記載しなければならない事項は、以下の7点です(会社法施行規則129条1項)。
- ① 監査役の監査の方法及びその内容
- ② 法令又は定款に従い株式会社の状況を正しく示しているかどうかについての意見
- ③ 取締役の職務遂行に関して不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったときは、その事実
- ④ 監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由
- ⑤ 会社法施行規則118条2号の事項がある場合に、その内容が相当でないと認めるときは、その旨及びその理由
- ⑥ 会社法施行規則118条3号若しくは5号に規定する事項が事業報告の内容となっているとき又は会社法施行規則128条3項に規定する事項が事業報告の付属明細書の内容となっているときは、その事項についての意見
- ⑦ 監査報告を作成した日
なお、職務範囲が会計監査に限定されている監査役の場合は、上記①~⑦に代えて、事業報告を監査する権限がないことを明らかにした監査報告を作成しなければなりません(会社法施行規則129条2項)。
3 株主総会で監査報告をしなければならないのはどのようなときですか?
株主総会議事録の書式集などでは、報告事項での事業報告や決議事項での計算書類の承認のところで、「監査役の監査結果が報告された」との記載がなされていることが一般的です。
そのため、実際の株主総会でも、監査役から監査報告をしたり、議長から監査報告の内容を説明したりすることがあります。
しかし、会社法上は、これらの監査報告は不要であることがほとんどです。
まず、監査報告の対象である計算書類や事業報告は、株主総会で承認又は報告を得なければなりません(会社法438条2項、3項)。
これに対して、会社法で、監査役が株主総会において監査報告をしなければならないとされているのは、以下の場合に限られており、それ以外の場合には、株主総会での監査報告は不要です。
- ① 取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものが法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認められるときは、その調査結果を株主総会に報告しなければならない(会社法384条)。
- ② 公開会社でない株式会社で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定している場合には、株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査して、その調査結果を株主総会に報告しなければならない(会社法389条1項、3項)。
そのため、上記①②に該当しない場合には、株主総会で監査報告を行う必要は会社法上なく、これを行わなかったとしても、株主総会決議が取り消されることにはなりません。
以上が会社法における監査報告の扱いです。
このことからすると、会社法上株主総会で監査報告を行う必要がない会社であっても、セレモニーとして株主総会で監査報告を行っていたことになります。
もっとも、セレモニーとしての監査報告が無意味であるということではありません。定時株主総会での監査報告は、年に一度、会社経営を適切に行ったことを株主に報告することであり、その意味でとても有益なものです。
そのため、会社法上は必要のないものであっても、株主総会の運営や会社経営の観点からは、定時株主総会で監査報告を行うことが好ましいといえます。
なお、株主総会の承認や報告が不要であっても、取締役会の承認は必要ですのでご注意ください。
また、計算書類や事業報告に関する監査役の監査報告は、計算書類や事業報告が適切か否かを株主が判断する上で非常に有益な情報ですので、定時株主総会の招集通知には、計算書類や事業報告とともに、監査報告も株主に提供しなければならないとされています(会社法437条、会社法施行規則133条1項2号ロ、会社法計算規則133条1項2号ロ)。
4 書面決議・書面報告をする場合の監査報告の扱いとは?
株主総会を書面決議(決議の省略)や書面報告(報告の省略)で行うことがあります(書面決議・書面報告については、こちらの記事 をご覧ください。)。
書面決議や書面報告の場合に、監査報告はどのように扱えば良いでしょうか。
まず、書面決議や書面報告は、株主総会招集通知を行わず、提案書によって行うため、会社法上監査報告を株主に提供する必要はありません(会社法437条参照)。
また、上記3のとおり、株主総会で監査報告が求められている場面が限られており、監査報告が必要でない場合には、監査報告を株主総会議事録に記載する必要がなくなります。
したがって、会社法上は、書面決議や書面報告を行う際は、会社法上は監査報告に触れる必要がないということになります。
もっとも、監査報告を株主に提供しない場合、情報不足に不満のある株主からは、書面決議や書面報告への同意を得られなくなってしまう可能性があります。
そのため、株主から同意を得るために、事実上の参考資料として監査報告も提供していることをお勧めいたします。
また、連結計算書類についても、定時株主総会への報告が必要ですが(会社法444条7項)、連結計算書類の監査報告は、会社法上、定時株主総会で行う必要はありません。
そのため、連結計算書類の報告を書面報告で定時株主総会を行う場合にも、監査報告を提案書に添付する会社法上の必要はありません。
もっとも、株主から同意を得るために事実上の参考資料として株主に提供することが好ましいことは、上記のとおりです。
5 株主総会の手続きでお困りの企業・経営者は吉田総合法律事務所へご相談ください。
非上場会社、特に中小企業や中堅企業では、なんとなくの感覚で株主総会を行ってきて、これまで問題が生じなかったという企業も少なくありません。
しかし、経営権(支配権)争いが生じたときに、株主総会の手続き的瑕疵を指摘されて、紛争が深刻化してしまうことも考えられます。
このような潜在的なリスクを回避するためにも、弁護士への相談をお勧めします。
吉田総合法律事務所では、日々会社法に関するご相談に対応しており、株主総会対応の経験が豊富です。
株主総会の手続きでお困りの企業・経営者は、ぜひ吉田総合法律事務所へご相談ください。