従業員持株会のメリットとは?経営権(支配権)への影響を経営者の視点で解説

「従業員持株会」や「従業員持株会制度」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

また、会社の経営権(支配権)に心配なことがあり持株会の導入を検討したいけれども、よく分からないために導入せずにいる企業もいらっしゃるかもしれません。

しかし、従業員持株会を導入することで、会社の経営権(支配権)問題を抜本的に解決することができる場合があります。

そのため、本記事では、従業員持株会のメリット・デメリット導入する際のポイントを解説しております。

また、本記事は、上場を予定していないオーナー系の非公開会社(多くの中小企業・中堅企業)を前提としておりますので、ご了承ください。

【目次】
1 従業員持株会とは?
2 従業員持株会のメリット・デメリットとは?
3 従業員持株会の制度設計はどのようにしたらいいですか?
4 従業員持株会に役員を加入させることはできますか?
5 持株会を利用した場合の株主構成として、どのようなパターンがありますか?
6 従業員持株会の導入を検討している企業・経営者は吉田総合法律事務所にご相談ください

1 従業員持株会とは?

一般的に、従業員持株会は、従業員が会社の株式を取得・保有することを奨励するための組織と定義されています(「改訂版従業員持株会導入の手引き」編集:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の1頁参照)。

従前は、主に上場会社や上場を予定している会社が、この従業員持株会を導入しておりました。

もっとも、最近では、上場を予定していない中小企業・中堅企業でも、従業員持株会を導入している企業が増えてきています。

その理由は、下記2に記載しているメリットが大きいためです。

なお、従業員持株会は、そのほとんどが民法の組合として設立されています。民法上の組合は法人ではありません。

また、持株会は組合ではなく一般社団法人として設立することもできますが、民法の組合と一般社団法人とでは、株式取得時の税法などの点で異なります。

本記事では、民法の組合として設立された従業員持株会を前提として解説しています。

2 従業員持株会のメリット・デメリットとは?

⑴ 従業員持株会のメリットとは?

従業員持株会の最大のメリットは、オーナー社長の相続税の節税事業承継対策です。

このメリットを考えて従業員持株会を活用するときは、オーナー社長や会社の経営陣の主導で設立することになります。

まず、オーナー社長の持ち株の一部を従業員持株会へ譲渡することで、相続財産を減らすことができます。これにより、相続時に発生する相続税を抑えることができます。

これによりオーナー社長が保有する株式数は減少しますが、従業員持株会へ譲渡した株式を議決権のない株式に変更することで、オーナー社長の議決権割合を保つことができ、経営権(支配権)を維持することができます。

また、従業員持株会に株式を譲渡することで、オーナー社長が保有する株式数が減少するため、オーナー社長の相続時に親族に承継される株式数も減少しますので、事業承継対策にもなります。

さらに、従業員持株会の会員が退社や死亡により持株会を退会する場合には、持株会の会員としての持分を本人・相続人から現金で買い取ることで、従業員持株会が退社や死亡した会員の持分(権利)を取得し、他の会員に配分することができます。

そのため、従業員持株会の導入は、株式(持株会内の持分)が社外に流出することを防ぎ、事業承継を有利に進めることが可能になります。

もっとも、従業員に従業員持株会に加入して会員となってもらうためには、オーナー社長にメリットがあるだけでなく、加入する従業員の方にもメリットがなければなりません。

従業員から見た従業員持株会のメリットは、従業員のモチベーションアップ福利厚生です。

すなわち、従業員は、従業員持株会に加入することにより、従業員持株会を通して株式配当を受領でき、会社が倒産しない限り持株会を退会した時に出資した元本を回収できます。

非上場企業では株式配当は安定配当であることが多く、経営がよほど不振にならない限り持株会(つまり会社)に在籍中は安定して予定された株式配当金を受領できることになります。

また、従業員持株会の株式を、他の株式(普通株式)よりも優先して多額の配当を行う優先配当株式とすることもできます。この内容にできれば、従業員のモチベーションがより高くなり、福利厚生も厚くなります。

なお、持株会への出資は、世間に出回っている投資商品(財テク)よりはるかに投資効率(利回りの良い)の良い金融商品になることが多いようです。

⑵ 従業員持株会のデメリットとは?

従業員持株会には、上記⑴のメリットがある一方で、デメリットもあります。

まず、従業員側から見ると、会社が倒産した場合には、職場を失うだけでなく、株式(持株会への出資金)という資産・財産も一度に失うことになってしまいます。

次に、会社・社長側から見ると、従業員持株会に議決権を認める場合には、持株会が他の抵抗株主と共同して経営陣に反対する立場になってしまうと(つまり与党株主のはずが野党株主に転化してしまうと)、経営者は会社の経営権(支配権)を失うリスクがあります。また、従業員持株会からの支持を維持するためにも、配当の継続が経営の必須課題になります。

これらのデメリットは、メリットと表裏の関係ですから、メリットだけ享受してデメリットを排除する「いいとこ取り」はできません。

従業員持株会を導入する際は、デメリットをゼロにはできませんが、最小限に抑える設計と運営努力が必要です。

3 従業員持株会の制度設計はどのようにしたらいいですか?

従業員持株会を最大限に活用するためには、持株会規約(細則を作る場合もあります)を目的に適合する内容にして、後述する種類株式を活用する場合は定款変更その他の種類株式特有の手続きを行う必要があります。

従業員持株会のデメリットを抑えつつ、メリットを最大限活用するためには、どのような制度設計をするか、持株会規約(細則)をどのようにするか、が重要です。

以下ではポイントを見ていきます。

⑴ 誰に加入資格を認めればいいですか?

従業員持株会は、従業員にも会社経営に意識を向けてもらい、業績アップに貢献してもらうという目的があります。このことからすると、臨時的な雇用であるパートタイム労働者有期雇用労働者は、従業員持株会の加入資格から除かれることが一般的です。

また、従業員持株会の投機的利用を防止するために、一度退会した従業員については、再加入を禁止することもあります。

なお、役員については、下記4をご覧ください。

⑵ 従業員持株会の議決権はどのように行使するのですか?

従業員持株会が保有する株式については、議決権のない無議決権株式(種類株式)とすることを検討してはいかがでしょうか。

無議決権株式(種類株式)は、従業員は会社の経営権(支配権)には関心がなく、他方で、オーナー社長は経営権(支配権)を維持充実したいという、両者のニーズを満たす方法になります。

もっとも、ただ単に持株会の株式には議決権がないとするだけでは従業員の納得を得られませんので、無議決権株式とする代わりに、他の株式より多額に配当を得られる優先配当株式にもすることが多いです。

このような無議決権株式や優先配当株式は、「種類株式」という他の株式(普通株式)とは異なる内容の株式です。そのため、定款変更等の一定の手続きが必要となります。

なお、発行済みの普通株式を種類株式に転換(変更)する場合の手続きについては、こちらの記事をご覧ください。

そのため、従業員持株会が保有する株式を種類株式とせず、議決権も配当も他と同じの普通株式のままというケースもあります。

また、オーナー社長が信頼のおける役員や従業員を持株会の理事長とし、従業員持株会をコントロールすることができる場合には、あえて従業員持株会の株式を議決権のある普通株式として、オーナー社長と従業員持株会がそれぞれ保有する株式により会社の経営権(支配権)を確保することもあります。

ただし、この方法を使うためには、持株会にオーナー社長の同族がいない、つまりさきほどの役員や従業員はオーナー社長とは同族ではない(血のつながりはない)ことが条件になります。

ところで、従業員持株会の保有する株式の議決権行使は、理事長が一括して行使するのが一般的です。規約にもこの旨を明記することが大事です。

なお、従業員持株会が保有する株式は、会員が共有しているため、理論的には持株会の各会員は持分に応じて、自分の議決権を不統一行使することができてしまいます(会社法313条)。議決権を不統一行使されてしまうと、経営権(支配権)が揺らいでしまうかもしれません。

そこで、従業員持株会の規約で、議決権の不統一行使を禁止する旨を定めておくことが必要です。

このように持株会規約(細則)の作り方は、かなり技術的要素があり、リスクマネジメント的発想が必要ですから、なるべく知識と経験の豊富なアドバイザーに確認したり作成依頼した方が安全です。

⑶ 積立金や奨励金は必要ですか?

上場会社や上場を予定している会社の持株会では、従業員の給与から積立金を徴収して奨励金を会員に交付することを規約で定めていることがあります。

しかし、積立金や奨励金は、持株会で必須のものではなく、非上場の中小企業・中堅企業の場合には、むしろ不要と考えております。

そもそも積立金や奨励金は、他の株主から株式を買い取る資金を調達するためのものです。しかし、非上場の中小企業・中堅企業では、従業員持株会を設立した後に他の株主から株式を買い取ることは原則としてありません。

また、下記4のとおり、奨励金制度を作ってしまうと役員が持株会に加入できなくなり、今回の検討の主要目的である経営権の維持・充実の実現が不十分になる(会社が持株会をコントロールできなくなる。)というリスクがあります。

これらの理由から、当事務所では、冒頭の目的で設計する非上場の中小・中堅企業の持株会では、持株会の積立金や奨励金は規約で定めないことをお勧めいたします。

⑷ 会員が退会した時の精算はどのようにしたらいいですか?

規約を作成する際に見落としがちですが、会員の退会時のことをきちんと定めておかなければ、予期しないトラブルが発生してしまいます。

まず、従業員持株会では、会員が会社を退職した場合には、従業員持株会も自動的に退会することを規約で定めておくべきです(とても大事なことです)。

もし退職時に自動的に退会することを規約で定めていないと、従業員は退職(解雇)したが本人は従業員持株会の会員のまま、というおかしなことになります。

退職や解雇の元従業員は、会社への忠誠心が薄れているでしょうし、解雇された場合は恨みの気持ちがあるかもしれません。

持株会を無議決権株式にした場合でも、株主の権利として社長など役員に対する損賠賠償請求訴訟(株主代表訴訟)が可能です。もし、そのような事態になったらその後の訴訟対応と株式(持分)買取交渉には負担と手間がかかることでしょう。

そこで、会員が会社を退職した場合には、従業員持株会も自動的に退会する条項を規約で明記することは必須です。

次に、従業員持株会を退会した場合には、持株会(他の会員)に自分の持分を売却し、持株会は退会者に対し持分の代金を現金で支払う規約にすべきです。

その場合の代金の額は退会者と持株会の間で紛争になりやすいので要注意です。

代金の計算方法は公序良俗に反しない限り持株会の規約で定めることができます。そのため、退会者が持分取得の際に出資した出資総額(持分の取得価格)を退会者に代金として支払うという規約にするべきです。

もしも、買取金額(代金)を「退会時の株式の時価」にしたり、買取金額の定め方について何も定めがない規約にしてしまうと、時価は時価純資産なのか税法上の原則的評価額なのかDCFなのか、といった複雑で高額な持分買取事件に転化してしまうおそれがあります。このような定めは絶対に避けるべきです。

この記事をお読みの方でこれから持株会規約を作成しようという方には、「持株会が退会時に退会者の取得価格で持分を買い取る」という内容の規約にすることをお勧めいたします。

4 従業員持株会に役員を加入させることはできますか?

これまで見てきた従業員持株会に、会社の役員を加入させることができるかという問題があります。

多くの文献や日本証券業協会の「持ち株制度に関するガイドライン」などでは、従業員持株会と役員持株会を分けて、従業員持株会には役員は加入できないとしております。

  しかし、結論として持株会に役員を加入させることはできます

もっとも、持株会に加入できる役員をオーナー社長(支配株主)や同族役員以外の役員に限定し(支配株主・同族ではない役員)、かつ、奨励金等の目的で会社から資金援助することのない場合にだけ、持株会に役員も加入することができます。

このように役員が持株会に加入できる場合が限定されるのは、仮にオーナー社長や同族役員も加入できたり、奨励金等の目的で会社から資金援助したりする場合には、会社法上や税法上の問題が生じてしまうためです。

 

まず、持株会に会社の役員が加入しているにもかかわらず、奨励金等の目的で会社から資金援助した場合、この奨励金等が役員の報酬に該当してしまい、会社法上の手続きを経なければならなくなる可能性があります(会社法361条参照)。

また、従業員持株会が株式を取得する場合には、税法上、その株価は配当還元価格という非常に廉価な価格とすることができます。このように低い価格であるために、従業員も従業員持株会に加入して株式を購入することができるのです。しかし、オーナー社長(支配株主)や同族役員が加入している持株会が株式を取得する場合には、この配当還元価格とすることができず、株式の購入価格が高額となってしまいます。

このように、制限を設けないまま役員が従業員持株会に加入すると、会社法上や税法上の問題が生じてしまうため、多くの文献等では、一律に役員は持株会に加入できないという表記をしているのだろうと推察しています。

そのため、持株会に入ることのできる役員の資格条件を、オーナー社長(支配株主)や同族役員ではない役員に限定し、かつ、奨励金等の目的で会社から資金援助をしないように制度設計(規約で規定)すれば、役員も持株会に加入することができます。

なお、このあたりは、税務上の問題が絡みますので、税理士とともに検討しながら進めていくことをお勧めいたします。

5 持株会を利用した場合の株主構成として、どのようなパターンがありますか?

これまでに見てきた持株会の仕組みを前提として、非上場の中小企業・中堅企業において、持株会を利用した株主構成を整理します。

 持株会の議決権を制限してオーナー社長だけで経営権(支配権)を確保するパターン

まず、持株会が保有する株式を議決権のない種類株式に転換し、オーナー社長の議決権割合を保つ方法です。

例えば、以下の表のような株主構成の会社があるとします。

 株式数議決権数議決権割合
オーナー社長808080%
取引先①101010%
取引先②101010%
合計 100100100%

オーナー社長は、高齢となってきたため、将来の相続に備えて、持株会を設立して保有している株式の一部を譲渡しようと考えました。

もっとも、会社は子どもに引き継がせて継続して経営してもらいたいとも考えていたため、持株会に株式を譲渡したとしても、会社の経営権(支配権)は確保したいと考えています。

このような場合に、持株会を設立して30株を譲渡するとともに、その30株は議決権のない種類株式とすることが考えられます。この場合の株主構成は、以下の表のようになります。

 株式数議決権数議決権割合
オーナー社長505071%
取引先①101014%
取引先②101014%
持株会3000%
合計 10070100%

これにより、会社の経営権(支配権)を維持しつつ、オーナー社長が保有する株式数を減らして相続税を低くすることができることになります。

なお、この場合には、持株会の株式を、議決権がない代わりに、配当が普通株式より多額になる配当優先株式(種類株式)とすることになります(上記3⑵参照 )。

また、持株会の株式は議決権がありませんので、会社の経営権(支配権)の観点からは、持株会をコントロールする必要性は低く、会社の役員を持株会の理事長にする必要性は低下します。

 持株会とともにオーナー社長が経営権(支配権)を確保するパターン

次に、持株会の株式にも議決権を認め、持株会とともにオーナー社長が経営権(支配権)を確保するパターンを見ていきます。

会社の株主構成は、先ほどと同じく、以下の表のとおりとします。

株式数議決権数議決権割合
オーナー社長808080%
取引先①101010%
取引先②101010%
合計 100100100%

今回も、オーナー社長から持株会に30株を譲渡しますが、譲渡した30株の議決権はある(無議決権株式ではない)場合を考えます。

その場合の株主構成は、以下の表のとおりとなります。

 株式数議決権数議決権割合
オーナー社長505050%
取引先①101010%
取引先②101010%
持株会303030%
合計 100100100%

この場合、オーナー社長だけでは、議決権が過半数にも満たないことになります。そのため、持株会の議決権と合わせて経営権(支配権)を確保する必要があります。

そのためには、信頼のおける会社の役員(支配株主ではない、同族ではない)に持株会の理事長になってもらい、その理事長に議決権を行使してもらうことが必須になります。

したがって、役員が持株会に加入できるように、持株会を制度設計することが必要です。

6 従業員持株会の導入を検討している企業・経営者は吉田総合法律事務所にご相談ください

従業員持株会は、ただ単に導入すればよいというものではありません。

持株会を会社の経営権(支配権)の維持や節税対策に活用することは可能ですので、そのメリットを最大限に活用できる設計にしてはいかがでしょうか。

その際には、会社法や税法の知識が必要であり、弁護士や税理士のサポートが不可欠です。

吉田総合法律事務所の弁護士は、日々、会社の経営権(支配権)に関するご相談に対応しております。

従業員持株会の導入を検討している企業・経営者の方は、ぜひ吉田総合法律事務所までご相談ください。

   

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