【弁護士による裁判例紹介】 株式買取業者からの譲渡承認請求にご注意を!—大阪高裁令和6年7月12日判決のポイント―

【目次】
1 はじめに
2 裁判例の事案の概要
3 大阪高判はなぜ弁護士法73条違反と判断したのか?—「好ましくない株主」が生まれる背景
4 会社の経営者への影響と対策
5 経営権・支配権や株式買取請求でお困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください!

1 はじめに

今回は、会社の経営権・支配権及び少数株主が保有する株式の買取請求に関わる重要な裁判例である、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(判例タイムズ1530号86頁)を紹介します。

非上場の中小企業において、経営に影響力を持たない少数株主は、配当を受けること以外に株式を保有するメリットがないことが通常です。

また、非上場の中小企業の株式は譲渡制限付きであることがほとんどで、少数株主が株式を売却しようと思っても、売却することができません。

このような場合に、株式買取を専門とする業者が、少数株主から株式を買い取って、会社に対して譲渡承認請求をするとともに、譲渡承認しない場合の買取人の指定を請求してくることがあります。

そして、非上場の中小企業では、このような株式買取業者を株主とすることはできませんので、株式譲渡は承認せずに、会社又は指定買取人が株式を買い取らなければならなくなります。

さらに、この場合の株式の買取価格は、いわゆる純資産を基準とした株価で計算されることがあり、会社又は指定買取人は高額の買取価格を負担しなければならなくなってしまうことがあります。

特に、業績の良い企業では純資産を基準とした株価が高くなりますので、そのような企業が株式買取業者の標的となりやすいのが実情です。

なお、少数株主問題についてはこちらの記事 を、株式買取請求についてはこちらの記事をご覧ください。

今回の裁判例は、このような場面におけるものであり、株式買取業者による譲渡制限株式の売買契約が弁護士法73条に違反すると判断したものです。

そして、皆様の会社が「好ましくない株主」からの譲渡承認請求に直面するリスクと、その際の適切な対応を考える上で非常に重要な意味を持ちます。

もっとも、この裁判例は、譲渡制限株式の買取を業とする者による権利行使の全てが弁護士法73条に違反すると判断したものではなく、事業内容や実態等の個別具体的な事情を考慮した事例判断であると考えられます。

そのため、個別の案件を検討する際には、この裁判例をそのまま流用することはできず、個別具体的な事情を考慮して検討する必要がありますので、ご注意ください。

2 裁判例の事案の概要

まず、本件の簡単な概要をご説明します。

ある会社(Y社)は、譲渡制限株式を株主から買い取り、その発行会社に対して譲渡承認請求や、承認が得られない場合には会社法に基づく売買価格決定の申立てを行うことを事業としていました 。

本件では、少数株主が保有する譲渡制限株式をY社が買い取る株式の売買契約を締結し、発行会社であるX社に対し、株式の譲渡承認請求と不承認とする場合の買取人指定請求を行いました。

X社は、Y社への株式譲渡を不承認とし、買取人を指定しました。その後、Y社と指定買取人との間で、株式の買取代金について交渉が行われましたが、折り合いがつかなかったため、Y社は裁判所に対して、売買価格決定の申立てを行いました。

なお、株式譲渡承認請求等の一般的な手続きの流れは下記図のとおりです。また、詳しくはこちらの記事 をご覧ください。

株式譲渡承認請求・買取先指定請求があり、株式譲渡を承認しない場合の一般的な流れの図

そこで、X社は、Y社が行った売買価格決定の申立てとは別に、株主権確認等請求訴訟を提起し、株主とY社と間の株式の売買契約が弁護士法72条または73条に違反し無効であると主張しました。

原審(大阪地裁令和5年12月15日判決)は、株式の売買契約の無効を認めませんでしたが、控訴審である大阪高裁は、この株式の売買契約が弁護士法73条に違反し無効であると判断しました。

3 大阪高裁はなぜ弁護士法73条違反と判断したのか?—「好ましくない株主」が生まれる背景

この裁判例のポイントは、Y社による株式の売買契約が「弁護士法73条に違反する」と判断された点にあります。

ここがポイント

弁護士法73条は、「他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない」と定めています。 もっとも、弁護士法73条に形式的に該当する場合であっても、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、弁護士法72条本文の禁止を潜脱する行為をして国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずる恐れがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、弁護士法73条違反とはならないと解釈されています(最高裁判所平成14年1月22日判決民集56巻1号123頁 )。

そのため、この裁判例でも、この判断枠組みに基づき、Y社の事業内容や権利の譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様等の具体的な事情を検討しています。

この裁判例では、具体的に以下の点を指摘しています。

 ① 主な事業目的が「差額」の取得であること

Y社は、実際に株主から買い取る経営判断価格ベースの合意価格(A価格)と、会社又は指定買取人に請求する譲渡制限株式の実質価格(適正な企業価値を反映した価格)ベースの買取価格(B価格)との差額が主な事業利益となっておりました。

実際、本件においては株式譲渡の合意価格(A価格)が実質価格(B価格)の約3分の1程度であったにもかかわらず、その乖離を株主に告げていませんでした。

また、Y社は、株式譲渡承認がされた場合は株主として会社の収益向上を目指すとともに増配を期待するという活動を行っていると主張しましたが、実際には買い取った株式の約9割で譲渡承認を受けられずに株主となることができていない(すなわち、Y社の主張する活動がほとんどの場合にできていない)という認定をされました。

これらのことから、Y社の主な事業目的は、経営判断価格ベースの合意価格(A価格)と実質価格ベースの買取価格(B価格)との差額に相当する事業利益を上げることであると判断されました。

Y社の事業利益が、経営判断価格ベースの合意価格(A価格)と、会社又は指定買取人に請求する譲渡制限株式の実質価格(適正な企業価値を反映した価格)ベースの買取価格(B価格)との差額であったことの説明図

 ② 紛議助長の危険性があり弁護士法72条の潜脱行為である

X社のような同族会社は、本件株式の譲渡を承認しない可能性が高いことが容易に推測されるにもかかわらず、Y社は、自身が通常の同族会社にとっては株主として好ましくない存在となることを示唆することで、X社が株式譲渡の承認を差し控えることを企図していたと強く疑われました。

そのため、Y社による株式の売買契約は、本件株式の売買価格に関する紛議を助長するものであるとされました。

また、Y社による株式の売買契約は、弁護士資格のない者が自らの事業利益のために本来株主に帰属すべき実質的な企業価値を自らの利益とし、売買価格決定手続の公正かつ円滑な営みを妨げる行為であるとして、弁護士法72条の禁止を潜脱する行為に当たると判断されました。

これらの点から、Y社が事業として行った本件株式の売買契約は、「国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあるとは認められない」として、弁護士法73条に違反して無効であると判断しました。

4 会社の経営者への影響と対策

今回の裁判例は、譲渡制限株式を発行する会社が、少数株主が保有する株式の売買を巡る紛争に巻き込まれるリスクがあること、及び、その場合の対処方法の一例を示しています。

そこで、今回の裁判例を踏まえて検討すべき事項を挙げてみました。

 ① 「好ましくない株主」からの譲渡承認請求への対応

今回の裁判例が示すように、株式買取業者は、会社が譲渡を承認しない可能性を織り込み済みで、売買価格決定の申立てを通じて利益を得ようとしている場合があります。

そして、売買価格決定の申立てがなされた場合には、純資産方式による株価を基準とした高額な金額となってしまう可能性があります。

このような業者からの譲渡承認請求に対しては、安易に承認するのではなく、弁護士に相談し、貴社にとって最善の対応を検討することが不可欠です。

 ② 会社のガバナンス体制の確認

同族会社の場合、株主が親族のみで構成されることが多く、外部からの株主参入は経営に大きな影響を与えかねません。

そもそも譲渡制限株式の制度は、会社にとって好ましくない者が株主となることを防止する趣旨で設けられています。

自社の定款を確認し、譲渡制限株式に関する規定が適切であるか、また、それに従った運用ができているかを確認しましょう。

さらに、万が一株式譲渡承認請求や不承認の場合の買取人指定請求等がなされた場合にどのように対応するのか、誰に相談するのかといったことを確認しておくことも大切です。

 ③ 弁護士との連携の重要性

譲渡制限株式の譲渡承認請求や売買価格決定の申立ては、専門的な法律知識を要する複雑な手続きです。

このような手続きに対応する場合には、必ず弁護士等の専門家に相談し、個別具体的な状況に応じた適切な対応を選択することが重要です。

5 経営権・支配権や株式買取請求でお困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください!

今回の大阪高裁判決は、近時増えてきている「譲渡制限株式の買取ビジネス」に一石を投じるものであり、非上場の中小企業の株式を巡る取引の公平性・適正性について改めて考えるきっかけとなります。

同族会社において、少数株主と対立していたところ、突然株式買取業者から連絡が来てしまったということが起こり得ます。

株式譲渡承認や不承認とした場合の株式買取の手続きは、会社法で厳格な手続きが定められており、期間制限もあり、その期間も短くなっています。

そのため、迅速に適切な対応をとらなければならず、選択を間違えてしまうと、好ましくない株主が入ってきてしまったり、高額の価格で株式を買い取らなければならなくなったりしてしまい、会社の経営権・支配権に甚大な影響を与えることになってしまいます。

吉田総合法律事務所の弁護士は、経営権・支配権に関する問題への対応や、株式の買取請求への対応を行っております。

経営権・支配権株式買取請求、買取先指定請求、売買価格決定の申立てについてお困りの会社・経営者は、当事務所へご相談ください。

なお、少数株主問題についてはこちらの記事 を、株式買取請求についてはこちらの記事 をご覧ください。

   

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