取締役に辞めてもらう方法とは?弁護士ができる問題役員対応の方法とは?

【目次】
1 問題のある取締役(問題役員)がいる場合のリスクとは?
2 取締役に辞めてもらう3つの方法
3 取締役解任の難しさ(損害賠償についての裁判例の紹介)
4 取締役を辞めてもらう場合の注意点とは?
 ⑴ 取締役が株式を持っている場合に注意することは?
 ⑵ 取締役が使用人を兼務している場合に注意することは?
 ⑶ 取引先から派遣されてきた取締役の場合に注意することは?
5 問題役員対応でお困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

1 問題のある取締役(問題役員)がいる場合のリスクとは?

近年、問題のある従業員(問題社員)への対応が注目されており、話題に上がることが多いと感じています。

他方、取締役等の役員についても、会社にとって扱いづらかったり、問題を起こしてしまい業務執行させられなくなったりすることがあります。このような役員を「問題役員」と呼ぶことにします。

このような問題役員が社内にいることによる会社のマイナス影響(不利益)は、その問題役員が担当している業務が滞ってしまうだけではありません。

滞ってしまった業務を他の役員や従業員がフォローしなければならなくなりますので、他の役員や従業員の負担が重くなってしまいます。また、フォローに回った他の役員や従業員が担当している業務も遅くなってしまうかもしれません。

さらには、問題役員の言動により会社内の空気が悪くなり(就業環境の悪化)、他の役員や従業員の士気が低下し、業績が悪化することもあります。

特に、問題役員の場合は会社の経営側の問題であり、従業員である問題社員の場合と比べて、会社の内外に与える影響が大きくなる傾向にあります。

そのため、問題役員については、経営に影響が出てしまう前に対処することが重要です。

問題役員への対応方法にも様々な方法が考えられますが、本記事では、問題のある取締役に辞めてもらう方法を解説します。

なお、問題役員については、こちらの記事もご覧ください。

2 取締役に辞めてもらう3つの方法

取締役を辞めてもらうには、以下の3つの方法があります。

  • 任期満了により退任して再任しない(任期満了による退任)
  • ②辞任届を提出してもらい、取締役を辞任してもらう(辞任による退任)
  • ③株主総会決議により取締役を解任する(取締役解任)

① 任期満了により退任して再任しない方法

取締役は原則2年の任期制であり(会社法第332条1項)、任期満了後も引き続き取締役となる場合には、改めて株主総会で選任決議を行わなければなりません(会社法第329条1項、341条)。

そこで、問題のある取締役の任期が満了するタイミングで、再任の株主総会決議を行わなければ、任期満了により退任させることができます。

もっとも、任期満了までに時間がある場合や今すぐ辞めてもらわなければ業務に重大な支障が生じるような場合には、この方法は適切ではありません。特に非上場の中小企業は非公開会社が一般的であり、定款等で任期を10年まで延長することができ、実際に定款で任期を2年よりも長く設定していることも少なくありません。この場合には、任期満了まで待てないということになってしまいます。

なお、非公開会社とは、全ての株式について譲渡制限を付けている株式会社をいいます。

② 辞任届を提出してもらい、取締役を辞任してもらう方法

任期満了のタイミングまで待つことができない場合には、任期期間中に取締役を辞めてもらう方法を取らなければなりません。

そのための方法の一つが、「辞任」です。

そもそも、取締役と会社との関係は、民法上の委任契約(会社法第330条、民法第643条)の関係です。そのため、取締役はいつでも委任契約を解除することができますので(民法第651条1項)、辞任届を提出することで取締役を辞任することができます。    もっとも、この辞任届は、取締役が自ら提出しなければなりませんので、会社が一方的に辞任させることはできません。通常は、会社が取締役と交渉を行い、辞任を促すことになります。これは、問題社員の場合の退職勧奨と同じです(なお、退職勧奨については、こちらの記事 もご覧ください。)。

なお、問題役員との交渉では、辞任をしてもらう条件として、退職慰労金や株式買取金額(下記4を参照)の増額を提案することがあります。

③ 株主総会決議により取締役を解任する方法

取締役の任期期間中に、会社が一方的に取締役を辞めさせる方法が「解任」です。

民法上の委任契約は、各当事者はいつでも解除できると定められておりますが、取締役と会社との関係については、会社法で制限が定められています。

会社法は、会社が取締役との委任契約を解除することを「解任」と定義し、解任をするためには株主総会の決議によらなければならないと定められています(会社法第339条1項)。

ちなみに、取締役を解任する際の株主総会の決議は、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行うことになります(会社法第341条)。

すなわち、株主総会の決議を行えば、任期期間中であっても、取締役を解任することができます。

3 取締役解任の難しさ(損害賠償についての裁判例の紹介)

もっとも、解任された取締役は、解任について正当な理由がある場合を除いて、会社に対し損害賠償を請求することができてしまいます(会社法第339条2項)。

この規定は、取締役の任期に対する期待(任期期間中は取締役で居続けられるという期待)を保護するためのものと解釈されていますので、損害賠償の範囲は、任期満了時までに得られたはずの報酬等相当額となります。

また、ここでいう「正当な理由」については、法令等に違反する職務執行をした場合(東京地判平成30年3月29日(金判1547号42頁))や、心身の病気により職務を続けることができない場合(最判昭和57年1月21日(判時1037号129頁))に認められています。他方、他の役員との関係が悪化しただけの場合には、正当な理由があるとは認められません(東京地判昭和57年12月23日(金判683号43頁))。

問題役員として頭を悩ませるケースでは、明確に「正当な理由」があるといえる場合ではないことが多いと思われます。この場合に、問題役員を解任すると、残任期分の報酬等相当額について損害賠償請求されるリスクが生じてしまうことになります。

そのため、この損害賠償請求されるリスクも踏まえて、解任するか否かを検討しなければなりません。

4 取締役を辞めてもらう場合の注意点とは?

⑴ 取締役が株式を持っている場合に注意することは?

非上場の中小企業では、取締役が会社の株式を保有していることもあります。

関係性が良好な時は、経営陣に賛成してくれる貴重な株主になりますので、取締役に株式を持ってもらうことにはメリットがあります。

もっとも、会社や経営者と対立してしまい、問題役員となってしまった場合には、会社と対立する株主となってしまいます。 そして、株主から株式を一方的に取り上げる方法は限定されていますので、上記2の方法により取締役を辞めてもらうことができたとしても、株主として残ってしまうこともあり得ます。この場合、会社にとって厄介な少数株主となってしまいます(少数株主問題については、こちらの記事 をご覧ください。)。

他方で、非上場の中小企業では、株式を現金化しようと考えても買い手がいないため、なかなか現金化できません。また、配当等による利益は限られているため、少数株主として株式を持ち続けても経済的なメリットはあまりありません。    そのため、株式を持っている問題役員としても、会社側に株式を買い取ってもらいたい(自己株式の取得株式譲渡)と考えることがあります(なお、自己株式の取得については、こちらの記事もご覧ください。)。

以上の利害関係から、問題役員に取締役を辞めてもらう際には、株式の買取も一緒に交渉するのが好ましいです。

例えば、想定される株式の買取金額よりも高い金額を問題役員に提示して、取締役の辞任を求めるというケースもあります。また、円満な解決のために、役員退職慰労金を交渉カードに加えることもあります。

⑵ 取締役が使用人を兼務している場合に注意することは?

取締役の中には、使用人(従業員)を兼務していることがあります。
会社と取締役の関係は委任契約ですが、会社と使用人(従業員)との関係は雇用契約ですので、労働法が適用されることになります。
使用人兼務取締役の場合、取締役としての関係は上記2の方法で解消することができますが、使用人(従業員)としての関係は上記2の方法では解消できませんので、別途の方法によらなければなりません。そして、使用人(従業員)は労働法で強く保護されておりますので、解雇は大変に難しいといえます。
そのため、使用人兼務取締役の場合には、取締役としての関係は解消することができたけれども、使用人(従業員)としての関係は続いてしまうこともあり得ます。したがって、使用人兼務取締役に辞めてもらう場合には、使用人(従業員)としての関係まで解消することができるかという点も検討しなければなりません。これは、労働法分野の退職勧奨の事案になります(退職勧奨については、こちらの記事
もご覧ください。)。

⑶ 取引先から転籍や出向してきた取締役の場合に注意することは?

企業によっては、金融機関(メガバンク)や主要な取引先等から転籍または出向してきた人間を取締役に選任することもあります。

取引先等から転籍等してきた取締役であっても、問題行動をして会社に損害が生じてしまっている場合等では、取締役を辞めてもらわなければなりません。

もっとも、この場合には、転籍元の取引先等との関係上、取引先等との調整が必要になることが多いです。

特に、経営方針が合わないだけというような場合には、その取締役の言動には実は取引先等の意向が反映されているということもあります。このような場合に当該取締役を辞めさせてしまうと、取引先等との関係が悪くなってしまいますので、注意して慎重に検討・実行することが大事になります。

5 問題役員対応でお困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

問題役員が出てきてしまうと、問題社員以上に会社経営全体にマイナスの影響が生じてしまいます。

問題社員の場合と比べて、経営上のリスクはとても高くて大きいといえます。

また、問題社員は労働関係法の分野ですが、問題役員は会社法の分野であり、労働法としての問題社員に適切に対応できる弁護士であっても、会社法としての問題役員にはほとんど対応できないといった事態もあるかもしれません。

そのため、問題役員への対応は、会社法に精通した弁護士からのサポートを受ける必要があります。

吉田総合法律事務所の弁護士は、非上場の中小、中堅企業を対象とした会社法を中心業務として注力しており、問題役員への対応についても多数の事例について法的サポートをしています。

問題役員に辞めてもらう方法について、オーナー企業か、2代目企業か、支配株主のいない企業か、特定の取引先に売上が集中している企業か、従業員が多いか少ないか、などの各企業の実情に合ったものを検討して、ジャストフィットのプランニングとしてご提案いたします。

また、案件によっては、弁護士が代理人として問題役員と直接交渉することもあります。

企業の皆様のご要望をお聞きし、案件の解決に向けて活動いたします。

問題役員対応でお困りの企業、経営者の皆様は、吉田総合法律事務所へご相談ください。

   

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