経営権(支配権)を維持・強化するために持株会制度を利用する場合などの場面で、種類株式を利用することがあります。
もっとも、新株を発行すると、増資ですので資本金が増額しますし、株主構成も大きく変わってしまうことになります。
そのため、すでに発行している普通株式の一部を種類株式に変更することはできないかというニーズが出てきます。
株式を発行した時点では種類株式にする必要性はなかったので全株式を普通株式として発行したが、ある段階で配当優先株、無議決権株、黄金株(拒否権株)などを導入したいというニーズが生じることもあります。
他方で、非上場企業では課税面から新株発行が難しい場合もあります。そのような場合でも発行済の普通株式を種類株式に転換できれば、ニーズに応えることができます。
また、種類株式の内容を変更したり、普通株式に戻したりしたいという場面も考えられます。
しかし、どのような手続きで行うことができるかについてはあまり知られていません。
そこで、本記事では、発行済みの一部の株式の内容を変更する際の手続きについて、解説いたします。
【目次】 1 種類株式とは?種類株式を利用する方法とは? 2 種類株式についての会社法の規定は? 3 発行済みの一部の株式の内容を変更する手続きとは? |
1 種類株式とは?種類株式を利用する方法とは?
通常の株式(普通株式)を保有する株主は、剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号、453条)や残余財産の分配を受ける権利(会社法105条1項2号、502条)、株主総会の議決権(105条1項3号、308条)などの権利を行使することができます。
これに対して、種類株式は、普通株式で認められている権利の一部を制限したり、また、一定の手続きにより会社が株式を取り上げたりする内容を定める株式です(会社法108条)。
この種類株式は、個々の株主によって株式を保有する目的が異なることから、個々の株主の多様なニーズに応じた内容の株式を発行することを認めたものです。
種類株式を利用する方法としては、以下の2パターンがあります。
① 新たに種類株式を発行する方法(既存の発行済み株式はそのまま)
② すでに発行している株式の一部について、株式の内容を転換(変更)して種類株式にする方法
2 種類株式についての会社法の規定は?
上記の2つのパターンについて、会社法はどのような規定を置いているでしょうか。
まず、パターン①については、会社法で規定があります。
普通株式しか発行していない会社の場合には、種類株式の内容と発行可能株式総数を定款に記載しなければなりません(会社法108条2項)。
そのため、定款変更について、株主総会の特別決議を行う必要があります(会社法466条、309条2項11号)。
また、種類株式の内容と発行可能株式総数は登記事項でもありますので、登記申請手続きもする必要があります(会社法911条3項7号)。
その後に、募集株式の発行の手続きにより、種類株式を発行することになります(会社法199条以下)。
これに対して、パターン②については、その種類株式の内容と発行可能株式総数を定款に記載しなければならないことと、登記事項であることは、パターン①と同じです。
もっとも、それ以外の方法や手続きについては、会社法の規定がありません。
3 発行済みの一部の株式の内容を変更する手続きとは?
パターン②の、発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更する手続きについては、会社法に規定がありません。
しかし、実務では、発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更することは認められています。
上記2のとおり、パターン②でも登記申請が必要であり、法務局が登記申請を審査することから、法務局の見解に沿って手続きを行えばよいということになります。
法務局の見解(登記先例:昭和50年4月30日民四2249号)では、普通株式のみを発行している株式会社が発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更するには、以下の3つの書類が必要であるとしています。
- ①定款変更決議を行った株式総会議事録
- ②株式会社と種類株式に変更する株式を保有する株主との合意書
- ③他の株主の全員の同意書
この法務局の見解によれば、以下の手続きを取ることによって、発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更することができることになります。
- ①株主総会における定款変更の特別決議
- ②株式会社と種類株式に変更する株式を保有する株主との合意
- ③ 他の株主の全員の同意
- ④ 法務局へ登記の申請
また、発行済みの一部の種類株式の内容を変更したり、普通株式に戻したりする場合にも、上記の①~④の手続きにより行うことができるとされています。
ここで重要なのは、株主全員のコンセンサス(同意)が必要であることです。
これは、優先配当種類株式に変更するなど、発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更する場合には、他の株主に不利益が生じてしまうことが理由と考えられます。
そのため、発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更するには、株主全員のコンセンサス(同意)が必要であり、一人でも反対する株主がいる場合には利用できないことになります。