名義株問題について弁護士が解説②-最新裁判例に学ぶ名義株か否かの判断要素とは―

【目次】
1 相続と贈与が交錯する「名義株」問題のリスクとは
2 事例:生前の株式贈与をめぐる名義株争い
3 株式贈与と名義株をめぐる相続紛争の裁判所判断(大阪地裁・大阪高裁)
4 名義株と株式贈与をめぐる裁判所の判断基準と実務上の教訓
5 お困りの際は吉田総合法律事務所にご相談下さい

1 相続と贈与が交錯する「名義株」問題のリスクとは

同族会社において、創業者が相続対策として自身の子どもたちに株式を生前贈与することは頻繁にあります。しかし、その経緯が不透明であった場合、その贈与の有効性が後の相続人間の争いに発展するケースがあります。

特に、株式の名義変更が形式だけである「名義株」ではないかが疑われる場合、名義があっても株主としての権利が否定されることがあるため、後日大きな紛争になるケースがあります。

このような問題は創業者が亡くなり、後継者をめぐる争いが発生すると頻発します。裁判の過程で、過去の贈与があったかが重大な法的争点になるのです。

最近、このような紛争について新しい裁判例が公表されたため、本記事では裁判例の事実関係をご紹介し、ここから得られる教訓について整理をしたいと思います。なお、事案はわかりやすいように単純化し、一部修正を加えてあります。

2 事例:生前の株式贈与をめぐる名義株争い

創業者Aは昭和39年に株式会社を設立し、株式を100%(9万6000株)保有していました。Aは妻との間に2人の娘(B・C)がおり、内縁の妻との間に2人の息子(D・E)がいました(昭和58年に認知、平成18年に養子縁組済)。

Aは平成11年に引退し、Cの夫が会社の代表取締役に就任しましたが、実際上はAの影響が大きかったようです。DとEはそれぞれ別の関連会社の経営を任されていました。

なお、Aは平成16年に遺言書を書いていますが、意味が不明瞭で、Dに対して「各会社の株式持分平成16年現在株主の情で引づき、会社も引つぎ」、Eに対して「会社の株式持ち分、保険関係、借入金関係Dの文しょうと一緒。同文。」と記載していました。

平成17年秋ころに、口頭で会社の株式3万1200株ずつを贈与されたとDとEは主張し、証拠として、平成18年以降はAの指示により税務申告書にそのように株主構成が記載されていることを挙げました。

CやCの夫からすれば、会社に関与していなかったDとEが書類も交わさずに株式を受け継いだことは認めがたく、相続税対策のためにDとEを形式的に名義人にしていただけであり、依然としてAが株を100%持っていたのだと主張したくなるでしょう。

他方で、DとEは、「姉たち(BとC)には不動産をやっているので、DとEはには株式をやる。会社は株主のものなので、自分の会社だと思って仕事に励むように」とAに言われたので、口頭で譲渡が成立したのだと反論しました。

3 株式贈与と名義株をめぐる相続紛争の裁判所判断
(大阪地裁・大阪高裁)

 ⑴ 大阪地裁の判断

会社が株主構成にDとEを加えて表示していたことや、Aが平成16年に遺言書で不明瞭ながらDとEに「会社も引つぎ」と、株式を相続させたいとの意図を有していたようであり、これを翌年に生前に実現させたとしても不自然はない。更に平成18年に養子縁組を締結していることも関係性についても言及しました。

更に、Aが息子に「一部の株式を保有させる」との発言をしていたという証人も現れ、裁判所は株が実際に贈与されたものであると認定しました。

 ⑵ 大阪高裁の判断

大阪高裁も地裁の判断を是認しました。更に注目すべき点として、①株式の贈与が、会社が赤字を出したときに行われていることや、②平成19年にAがEに対して贈った手紙に「株式会社の社員として、又株主として行動するよう求める」という内容が記載されていることなどから、名義株ではなかったと判断されました。

4 名義株と株式贈与をめぐる裁判所の判断基準と実務上の教訓

以上のように、税務申告書の株主欄に名義が記載されているとしても、「名義株」である可能性があり、株の所有権の帰趨は簡単には定まりません。

株の移転したタイミングの理由や、旧所有者と新所有者との関係性の変化などを総合的にみた上で、裁判所が判断していることは非常に参考になります。

「名義株」であるという被告と、真の譲渡があったと主張する原告との間で、裁判所が双方のどちらの言い分が正しいかを、それに整合する事情の質と量により判断しているのです。

以上のことから、実務上、贈与の意思があったことを証明するには、口頭ではなく書面や契約書、贈与税の申告など客観的な資料が重要です。また、贈与後に株主としての実質的な関与(配当の受領、議決権の行使等)があったかどうかも、裁判所の判断に大きな影響を与えます。

そのため、株式を生前に移転する場合には、単なる名義変更にとどまらず、実質的な贈与の履行があったことを示す証拠を意識して残すことが不可欠です。

5 お困りの際は吉田総合法律事務所にご相談下さい

上記の裁判例のように、株の譲渡が「名義株」か否かについては、様々な証拠で補強しなければ裁判所に正しい判断をしてもらえない場合があります。

当事務所は依頼者の皆様と丁寧にお話させていただき、有利な事情を整理して提示するサポートをいたします。

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