会社の事情により一定期間従業員に労働をさせられなかった場合、賃金を支払えば問題にはなりませんか。
一般的に、労働は労働者が労働契約上負っている義務であり、使用者に対して労働することを請求する権利である就労請求権を持つものではありません。
これを使用者から見ると、労働者の労働を受領する義務はないことを意味します。
そのため、使用者側の事情により労働させなかった場合には、使用者は賃金を支払う必要はありますが(民法536条2項)、労働させなかったことが労働契約の債務不履行となることはありません。
このように、労働者の就労請求権は一般論としては認められないものの、事案によっては認められる場合があります。
最近の裁判例では、大学の教員の講義が自らの研究成果を発表し学生との意見交換を通じて学問研究を深化・発展させるものであって教員の権利としての側面を有することや、雇用契約書で最低週4コマの講義を担当することが明記されていることなどから、大学は教員に講義を担当させる義務があり、これに違反したため債務不履行となると判断したものがあります(東京地判令和4年4月7日)。
そのため、雇用契約書等の条項や労働の性質により、労働者の就労請求権が認められる場合があります。
特に、研究業務については、上記判決と同様の考え方により労働者の就労請求権が認められる可能性がありますので、ご注意ください。