退職後の競業避止義務を定める際のポイントとは?

多くの企業の就業規則では、従業員や役員の退職後の競業を禁止する条項が定められております。

従業員や役員が退職するときに、競業を禁止する内容の誓約書や合意書を作成することも少なくありません。

しかし、実際に退職した従業員や役員が競業していることが判明したため損害賠償請求をしたとしても、裁判で競業避止義務を定めた就業規則や誓約書等が無効とされてしまうことがあります。

特に、これまでの終身雇用を前提とした社会から変化している現代においては、退職後の競業避止義務が問題となる事案が多くなると考えられます。

そこで、退職後の競業避止義務を定める場合の注意点を見ていきます。

【目次】
1 退職後の競業避止義務を課すには就業規則や合意書が必要ですか?
2 退職後の競業避止義務の定めはどのような場合に無効となるのですか?
3 退職後の競業避止義務を定める際のポイントは何ですか?
4 退職後の競業避止義務でお困りの企業・経営者の皆様は、吉田総合法律事務所へご相談ください。
 

1 退職後の競業避止義務を課すには就業規則や合意書が必要ですか?

競業避止義務は、自社と競合する他社に就職したり、自ら開業したりすることを禁止するものです。

従業員が在職中は、従業員は企業に対して誠実義務を負っており(労契法3条4項)、誠実義務の一つとして、競業避止義務を負っています。

そのため、在職中は、就業規則や合意書等で定めていなくとも、競業避止義務が認められます。

これに対して、退職後は誠実義務の根拠である労働契約が終了していますので、就業規則や合意書による定めがある場合にのみ、退職者は競業避止義務を負うことになります。

もっとも、退職後の競業行為を禁止することは、退職者の職業選択の自由営業の自由(憲法第22条)を制約し、また、競争の制限により不当な独占状態を認めることにもなりかねません。

そのため、就業規則又は合意書で退職後の競業避止義務を定めていたとしても、その定めが公序良俗(民法第90条)に違反するとして無効とされてしまうことがあります。

そこで、退職後の競業避止義務を定める場合には、裁判で無効とならないように十分に検討することが大事です。

2 退職後の競業避止義務の定めはどのような場合に無効となるのですか?

退職後の競業避止義務については、民法や労働基準法などの法律には要件が書いてありません。

そのため、退職後の競業避止義務の有効性を判断した裁判例を参考にして考えることになります(判例の理解が大事です)。

退職後の競業避止義務に関するリーディングケースとされているのは、フォセコ・ジャパン・リミティッド事件(奈良地裁昭和45年10月23日判決判時624号78頁)であり、その後もいくつもの裁判例があります。

これらの裁判例によれば、①競業避止義務を課すことによる企業の利益②退職者の従前の地位③制限の範囲④代償措置の有無を総合判断して、公序良俗に反するか否かを判断しています。

なお、③制限の範囲については、競業が禁止される期間、場所(地域)、職種等によって、制限する範囲を設定することが考えられます。

また、④代償措置の有無については、競業避止義務を課すことの対価と認められる必要があります。④代償措置については在職中の基本給や退職時の退職金に含まれていると考える(思い込んでいる)企業は少なくありませんが、裁判では④代償措置ありと認められない可能性があります。言い換えると、基本給や退職金に競業避止義務の④代償措置の対価も含まれていると明記するか、又は競業避止義務を課すことの対価(④代償措置)が含まれていると認められる程度に高額の基本給や退職金を支給すること、競業避止義務の対価としての特別手当金を支給することなどが必要となります。

もっとも、代償措置として十分であるか否かは、課される競業避止義務の内容(範囲)との比較により判断されます。そのため、一概に金額がいくらだから④代償措置があるとかないと判断することはできず、個別具体的な検討が必要です(そのため難しい問題になります)。

3 退職後の競業避止義務を定める際のポイントは何ですか?

退職後の競業避止義務の定めの有効性は、上記2の考慮要素から判断されます。

では、具体的にどのように考えれば良いでしょうか。

そもそも、競業避止義務は企業秘密を守るものと位置づけられています。

そして、企業秘密のうち、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するものは不正競争防止法で保護され、退職後の守秘義務を定めている企業では守秘義務で定められている秘密が保護されます。

なお、不正競争防止法の「営業秘密」については、こちらの記事 もご覧ください。

しかし、顧客情報ノウハウなど、不正競争防止法や守秘義務の定めでは網羅できないものも、企業として守りたいと考えることがあります。

このような顧客情報やノウハウなどの企業秘密を守るために、競業行為自体を禁止する必要性が出てきます。

そのため、競業避止義務の内容を考える際には、競業避止義務で守りたい企業秘密との関係で必要な制限であるか、過度な制限となっていないかを検討することが重要です。

例えば、退職後の競業避止義務の定めの有効性の考慮要素のうち、①競業避止義務を課すことによる企業の利益については、その企業が守ろうとしている企業秘密は、不正競争防止法の「営業秘密」に該当するものであるのか、それとも単なる顧客情報やノウハウなのかということや、企業秘密は客観的にどの程度の価値があるのかということを検討することになります。

また、②従業員の従前の地位については、その地位自体が重要なのではありません。企業内で上の地位であれば、より貴重な企業秘密に接していることから、上の地位にいた退職者ほど競業避止義務を課す必要性が高くなるということです。そこで、退職者の地位を確認したうえで、接することができた企業秘密を確定し、その企業秘密との関係で必要な競業避止義務を検討することになります。また、企業によっては、全従業員に一律で競業避止義務を課すのではなく、地位に応じて合意書や誓約書等で個別に競業避止義務を課した方が法的に無効になりにくいと考えられます。すなわち、重要なポストで重要な企業秘密に接している従業員が退職する際には、厳格な競業避止義務を合意書等で課すことを検討し、下のポストで企業秘密にあまり接することのない従業員が退職する際には、緩やかな競業避止義務を課すことやそもそも競業避止義務を課さないことを検討することが、実務的な対応法としては良い方法のように思っております。

なお、今は人材不足が叫ばれており、他社への人材の流出を防ぐという目的で、競業避止義務を課すことがあります。

これは、退職希望者に対し、退職後の競業避止義務があるから退職しても同業の企業には就職できないと思わせ、退職を予防したいという考えです。

しかし、日本の現代社会では、従来の終身雇用、年功序列といったものが急速に縮小しています。今後益々人材の流動性は活発化すると思いますので、他社への人材流出の防止(自社の退職を予防)という目的で競業避止義務を課しても、最終的に無効という結果になりやすいように思います。

4 退職後の競業避止義務でお困りの企業・経営者の皆様は、吉田総合法律事務所へご相談ください。

退職後の競業避止義務を課している企業は多くみられますが、しっかりと法的な有効性を検討している企業はまだまだ少ないように思います。

退職後の競業避止義務の有効性は、これまで見てきたとおり、個別具体的な検討が必要であり、ケースバイケースの判断となります。

そのため、退職後の競業避止義務に関する実務や裁判例に精通した弁護士に相談することが求められます。

吉田総合法律事務所の弁護士は、退職後の競業避止義務に関する案件に携わっており、豊富な知識と経験を有しております。

退職後の競業避止義務でお困りの企業・経営者がおられましたら、吉田総合法律事務所へお問い合わせください。

   

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