特定商取法の改正① 申し込み時の表示規制とは

2022年6月1日に施行された改正特定商取引法では、通信販売に関する規定を新設し、通信販売の規制を強化しています。

今回の改正法によって、規制対象が広がり、新たに対応が必要となる企業様もおられます。しかし、今回の改正法の内容は非常に細かく複雑で、消費者庁が公表している資料も、量が多くて読み解くにも時間がかかります。

当事務所では、消費者庁の担当者による有料の解説講義を受講し、消費者庁の公表資料を検討するなどして、改正法の内容をQ&A方式でまとめました。

より多くの企業様のご参考になればと思い、ここで紹介いたします。

Q1 通信販売に関する規定が新設された経緯を教えてください。

A1 

「詐欺的な定期購入商法」が近年増加しており、消費者からの消費生活相談件数が飛躍的に増加しています。

出典:消費者庁の「事業者向け説明会資料」

「詐欺的な定期購入商法」の具体的な手口は、以下のようなものです。

①   「初回無料」や「お試し」と表示されているのに、実際には定期購入が条件となっていて、気づかないうちに定期購入を申し込んでしまっていた。

②   「いつでも解約可能」と表示されているのに、実際に解約するためには細かい条件が設定されていて、容易に解約することができなかった。

このような「詐欺的な定期購入商法」を取り締まるために、改正特定商取引法は通信販売に関する規定を新設しました。

Q2 新設された通信販売に関する規定は、どのような内容ですか?

A2 

新設された通信販売に関する規定の内容は、簡単にまとめると以下のとおりです。

①   通信販売の申込時点で取引の基本的事項の表示を義務付け、また、誤認させるような表示を禁止する(法12条の6)。

②   通信販売の申込みの撤回や契約の解除を妨げるために、不実のことを告げる行為を禁止する(法13条の2)。

③ ①に違反する表示により誤認した消費者が申込みをした場合に、申込みを取り消すことができる(法15条の4)。

①や②に違反した場合、違反行為を行った個人及び法人は、行政処分や罰則の対象となります。

また、①や②の違反行為は、適格消費者団体の差止請求の対象とされています。

したがって、現状の表示等が①や②に違反していないかを確認する必要があります。

【関連条文】12条の6、13条の2、15条の4、14条、15条、58条の19、70条、72条、74条など

Q3 新設された通信販売に関する規定で、申込時点で表示が義務付けられるのは、どのような場合でしょうか?

A3 

改正特定商取引法は、通信販売の申込時点で取引の基本的事項の表示を義務付けていますが、すべての通信販売を対象としているわけではありません。

改正特定商取引法では、事業者が定める様式の

申込書面(カタログ等を利用した通信販売の場合)

または

最終確認画面(インターネットを利用した通信販売の場合)

により通信販売の申込みを受ける場合を申込時点における表示義務の対象としており、この申込みを「特定申込み」と呼んでいます。

例えば、カタログやチラシを利用した通信販売で、カタログなどに添付されている申込用はがきや申込用紙を使用して申し込む場合や、インターネットを利用した通信販売の場合が対象となります。

後者は、いわゆるインターネット通販全般を対象としていますので、インターネット通販を行っている事業者は、すべからく改正法への対応が必要です。

他方、事業者が定める様式に基づかない申込みは表示義務の対象外ですので、テレビCMや通販番組を視聴した消費者が電話で申し込む場合は対象となりません。

【関連条文】12条の6第1項

Q4 特定申込みの際に申込書面等で表示しなければならない事項は、どのようなものがありますか?

A4 

改正特定商取引法では、特定申込の際に申込書面等で表示しなければならない事項として、以下のものを定めています。

   ① 分量

   ② 販売価格または対価

   ③ 支払時期及び支払方法

   ④ 引渡時期または移転時期、提供時期

   ⑤ 申込期間があることとその申込期間(申込期間がある場合のみ)

   ⑥ 申込みの撤回または解除に関する事項

これらのうち、②~⑥は、通信販売の広告でも表示しなければならないとされている事項です。

しかし、⑤と⑥は、今回の改正により広告の表示規制においても追加・修正されたものですので、広告についても表示内容の確認が必要です。

【関連条文】12条の6第1項、11条各号

Q5 特定申込の際に申込書面等で表示しなければならない事項を全て記載すると、とても見づらくなってしまいます。記載を省略することはできますか?

A5 

表示が義務付けられている事項は、原則としてすべて申込書面や最終確認画面に記載しなければなりません

しかし、形式上すべての事項を記載できない場合やすべての事項を記載することで、文字が小さくなるなどの理由により分かりにくくなってしまう場合があります。

そのような場合には、参照の対象となる表示事項及びその参照個所を明記することやインターネットでのリンク表示等、広告の該当箇所等を参照する形式とすることができます

例えば、「お申込みの撤回等については、カタログ55ページに掲載しております。『キャンセル・返品・交換についての注意事項』をご確認ください。」と記載することができます。

ただし、申込みの撤回または解除に関する事項は、広告の該当箇所等を参照する形式で表示することができない場合もありますので、ご注意ください(Q9参照)。

【チラシやカタログで表示を省略する場合の例】

(出典:消費者庁の「事業者向け説明会資料」)

【最終確認画面で表示を省略する場合の例】

(出典:消費者庁の「事業者向け説明会資料」)

Q6 申込書面や最終確認画面で「分量」を表示する際に、注意することはありますか?

A6 

特定申込みの申込書面や最終確認画面で「分量」を記載する場合、商品や役務の態様に応じて、数量や回数、期間等を表示しなければなりません。

定期購入契約の場合には、

① 各回に引き渡す商品の分量

② 引渡回数(総分量が分かるようにするため)

を表示することになります。

サブスクリプションの場合には、

① 役務の提供期間

② 期間内に利用可能な回数があればその内容

を表示することになります。

また、定期購入契約でもサブスクリプションでも、契約期間が無期限であったり自動更新であったりする場合には、その旨も表示する必要があります。

契約期間が無制限である場合には、一定期間を区切った分量を目安として表示することが望ましいとされています。

さらに、同一商品で内容量等が異なるものを販売するときは、消費者が異なるものであることを明確に区別できるよう、内容量等を明記することが必要です。

Q7 申込書面や最終確認画面で「販売価格または対価」を表示する際に、注意することはありますか?

A7 

「販売価格または対価」を記載する場合、個々の商品の販売価格等だけでなく、支払総額も表示しなければなりません。

この販売価格等には送料も含まれますが、申込の時点で送料等の金額を確定することが困難な場合には、例外的に、その表示に代えて金額が確定後に連絡する旨などを表示することもできます。

また、サブスクリプションでよくみられる、最初の1か月は無料だが1か月を経過した後は有料の契約に自動的に移行するというような場合には、移行時期や支払うこととなる金額をあらかじめ表示する必要があります。

さらに、消費者が解約を申し出るまでは契約が存続する無期限の契約では、一定期間を区切った支払総額を目安として表示することが望ましいとされています。

Q8 申込書面や最終確認画面で「申込期間」を表示する際に、注意することはありますか?

A8 

まず、「申込期間」を表示しなければならないのは、商品の販売等そのものにかかる申込期間を設定する場合です。

購入制限のカウントダウン期間限定販売等、一定期間を経過すると消費者が商品自体を購入できなくなるものがこれに該当します。

これに対して、個数限定販売等の「期間」ではない販売条件または提供条件がある場合や、価格その他の取引条件(特典、アフターサービスなど)について一定期間に限定して特別の定めを設ける場合は該当しないため、「申込期間」を表示する必要はありません。

また、「申込期間」を表示したというためには、申込期間に関する定めがある旨とその具体的な期間が消費者にとって明確に認識できるようにしなければなりません。

そのため、「今だけ」などと具体的な期間が特定できない表示では、「申込期間」を表示したとはいえません。

Q9 申込書面や最終確認画面で「申込みの撤回または解除に関する事項」を表示する際に、注意することはありますか?

A9 

まず、「申込みの撤回または解除に関する事項」として、申込みの撤回または解除の条件、方法、効果等を表示しなければなりません。

例えば、解約の申し出に期限がある場合にはその期限を表示する必要がありますし、解約時に違約金が発生する場合にはそのことを表示することが必要です。

また、A3記載のとおり、「申込みの撤回または解除に関する事項」も、広告等を参照する形式で省略して表示することができます。

しかし、解約方法を特定の手段に限定する場合には、広告等を参照する形式で表示することはできず申込書面や最終確認画面で明確に表示しなければなりません。

解約方法を特定の手段に限定する場合の具体例としては、消費者が電話した上で更にメッセージアプリなどを操作しなければならない場合や、解約受付を特定の時間帯に限定している場合があります。

なお、これらの表示をしたからといってすべてが民事的に有効となるものではありません

表示した内容が、不当に消費者の権利を制限し又はその義務を加重する条項となっている場合には、消費者契約法等によって無効となることがありますので、ご注意ください。

なお、消費者庁が公表している詳細な資料については、以下のリンクからご確認ください。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2021/

   

顧問先様の声

吉田総合法律事務所が提供する企業法に関するメールマガジン

03-3525-8820 03-3525-8820 メールでのご相談予約はこちらをクリックしてください。