フリーランス新法(フリーランス保護法)とは? 取引の適正化について

【目次】
1 フリーランス新法(フリーランス保護法)の「取引の適正化」とは?
2 フリーランス・事業者間取引適正化等法の「取引の適正化」の内容は?
 ⑴ 取引条件の明示義務(第3条)
 ⑵ 期日における報酬支払義務(第4条)
 ⑶ 特定業務委託事業者の遵守事項(第5条)
 ⑷ 報復措置の禁止(第6条3項)
3 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

1 フリーランス新法(フリーランス保護法)の「取引の適正化」とは?

令和5年(2023年)5月に、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」といいます。)」が公布され、令和6年(2024年)11月1日に施行されます。

この法律は、フリーランスの取引について定めた新しい法律であり、フリーランス保護法フリーランス新法と呼称されています。

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、①取引の適正化と、②就業環境の整備を図ることを目的としています(法第1条)。

このうち、①取引の適正化は、独占禁止法や下請法と同じ趣旨のものであり、公正取引委員会(及び中小企業庁)が取り扱う分野です。

本記事では、フリーランス・事業者間取引適正化等法のうち、①取引の適正化に関する内容を解説します。

フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要や、②就業環境の整備については、別記事で解説しております。

フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要に関する記事は、こちらをご覧ください。

②就業環境の整備に関する記事は、こちらをご覧ください。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法については、公正取引委員会や厚生労働省等の行政庁から施行規則や指針、パンフレットなどの資料が公表されており、本記事もこれらを参考にしております。また、解説動画も公表されておりますので、これらの資料等も併せてご確認ください。

👉公正取引委員会サイト:フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組
👉厚生労働省のサイト:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ

2 フリーランス・事業者間取引適正化等法の「取引の適正化」の内容は?

フリーランス・事業者間取引適正化等法において、「取引の適正化」を図るための規制の概要は下記表のとおりです。

これらの規制を簡単に解説します。

条 文規 制取 引 対 象
第3条取引条件の明示義務業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する業務委託
第4条期日における報酬支払義務特定業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する業務委託
第5条遵守事項特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒むこと(1項1号)特定業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する継続的な(1月以上の期間行う)業務委託
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること(1項2号)
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと(1項3号)
通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること(1項4号)
正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること(1項5号)
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(2項1号)
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること(2項2号)

⑴ 取引条件の明示義務(第3条)

業務委託事業者は、特定受託事業者(フリーランス)に業務委託した場合、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。

特定受託事業者(フリーランス)に明示すべき事項は、以下のとおりです(施行規則第1条)。

施行規則1条1項1号業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称などの識別できるもの
施行規則1条1項2号業務委託をした日
施行規則1条1項3号特定受託事業者の給付の内容
施行規則1条1項4号特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日等
施行規則1条1項5号特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
施行規則1条1項6号特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合には、その検査を完了する期日
施行規則1条1項7号、3項報酬の額及び支払期日

なお、他の規制と異なり、第3条の「取引条件の明示義務」は、特定業務委託事業者ではなく業務委託事業者を対象としています。そのため、従業員を使用していなかったり、代表者以外に役員がいなかったりする事業者であっても、規制の対象となり、フリーランスがフリーランスに対して業務委託する場合にも対象となりますので、ご注意ください。

また、フリーランス・事業者間取引適正化等法は施行日(令和6年11月1日)後に行われた業務委託に適用されるため、施行日よりも前に行われた業務委託には適用されません。そのため、施行日前に行われた業務委託について、取引条件を明示する必要はありません。

もっとも、施行日前に行われた業務委託が、施行日後に契約更新(自動更新を含みます。)された場合には、新たに業務委託が行われたことになりますので、取引条件の明示義務が生じます。

⑵ 期日における報酬支払義務(第4条)

特定業務委託事業者は、給付内容の検査をするか否かにかかわらず、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めなければなりません。

これにもかかわらず、報酬の支払期日を定めなかった場合には給付を受領した日が、給付を受領した日から60日を超えた日を支払期日と定めた場合には、受領した日から起算して60日を経過した日の前日が、それぞれ支払期日となります(第4条2項)。

ただし、特定業務委託事業者が、特定受託事業者に再委託をし、かつ、必要事項を明示した場合には、特定受託事業者へ支払う報酬の支払期日を、元委託者の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期限内とすることが認められます(第4条3項)。

この場合に明示する必要がある事項は、①再委託である旨、②元委託者の商号、氏名若しくは名称などの識別できるもの、③元委託業務の対価の支払期日とされています(施行規則6条)。

なお、元委託者から特定業務委託事業者への対価が分割払いとなっている場合には、元委託業務の対価の最後の支払日から起算して30日以内に、特定受託事業者に対し報酬を支払う必要があります。

【内閣官房等「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」8頁より引用】

報酬の支払期日を定める場合の起算日は、給付を受領した日であり、受領した日が算入されます。

起算日である給付を受領した日については、業務委託の内容によって以下のとおりになります。

物品の製造・加工委託検査の有無を問わず、物品を受け取り、自己の占有下に置いた日
情報成果物の作成委託情報成果物を記録した電磁的記録媒体がある場合は、それを受け取り、自己の占有下に置いた日
電子メールなどで情報成果物を受領した場合は、特定業務委託事業者の用いるパソコンなどに記録された時点
役務の提供委託個々の役務の提供を受けた日。ただし、役務の提供に日数を要する場合は、一連の役務の提供が終了した日。

⑶ 特定業務委託事業者の遵守事項(第5条)

特定業務委託事業者が、特定受託事業者(フリーランス)に対し、継続的に業務委託をする場合、一定の行為をしてはならないと定められています。

継続的に業務委託をする場合」とされているように、遵守事項の対象は、特定業務委託事業者が特定受託事業者(フリーランス)に対し業務委託する場合の全てではありません。なお、「継続的に」とは、1か月と定められており(施行令第1条)、契約更新により通算して1か月以上継続して行うことになる業務委託も含まれます。

この1か月の始期と終期は、以下のように考えることになります。

始期下記①または②のいずれか早い日
①業務委託契約を締結した日
②基本契約を締結する場合は、基本契約を締結した日
終期下記①、②、③のいずれか遅い日
①3条通知により明示する「給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日」
②別途定めた業務委託に係る契約を終了する日
③基本契約を締結する場合は、基本契約が終了する日

なお、業務委託契約で給付を受領する日を契約締結日から25日後と定めていた場合で、実際に給付を受領したのが契約締結日から1か月を超えたときであっても、終期は変わらないとされているため、「継続的に業務委託をする場合」には該当しません。

遵守事項(禁止行為)は、以下の7つです。

この7つの遵守事項(禁止行為)については、特定受託事業者(フリーランス)の了解(同意)を得ている場合であっても違反となってしまいますので、ご注意ください。

条 文禁 止 行 為 概 要
第5条1項1号受領拒否の禁止注文した物品又は情報成果物の受領を拒むこと
第5条1項2号報酬の減額の禁止あらかじめ定めた報酬を減額すること
第5条1項3号返品の禁止受け取った物を返品すること
第5条1項4号買いたたきの禁止類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること
第5条1項5号購入・利用強制の禁止特定業務委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること
第5条2項1号不当な経済上の利益の提供要請の禁止特定受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること
第5条2項2号不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること

⑷ 報復措置の禁止(第6条3項)

特定受託事業者(フリーランス)は、業務委託事業者による違反行為について、公正取引委員会や中小企業庁に対し申し出を行うことができます。

そして、特定受託事業者(フリーランス)の申し出を理由に、業務委託事業者が取引数量を減少させたり、取引を停止したり、その他不利益な取扱いをすることが禁止されています(第6条3項)。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反した場合の手続きなどについては、こちらの記事をご覧ください。

3 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、新しく施行される法律で実務上どのように運用されるか予測ができません。

そのため、アンテナを張って新しい情報に目を配りつつ、実務に対応していかなければなりません。

特に、独占禁止法・下請法といった競争法の分野では、近年実務の運用が変わってきており、企業に厳しい運用となってしまう可能性も否定できません。

例えば、実際に違法と判断される前に企業名等が公表されてしまい、レピュテーションリスクが生じてしまったということもあります。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法のうち①取引の適正化に関する条項(第2章)の違反に対して勧告や命令を行った場合には事業者名等を公表することが、公正取引委員会により方針発表されました。
命令まで至らずに、勧告を受けただけであっても事業者名や違反事実の概要、勧告の概要等が公表されてしまいますので、企業には非常に大きなレピュテーションリスクが生じることになってしまいます。
公正取引委員会の発表についてはこちらをご覧ください。

そのため、フリーランス・事業者間取引適正化等法の実務運用についても、弁護士の助言を受けながら、違反行為となったり、レピュテーションリスクが生じたりしないよう、注意する必要があります。

吉田総合法律事務所の弁護士は、競争法にも注力しており、フリーランス・事業者間取引適正化等法にも自信をもってご対応いたします。

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