フリーランス新法(フリーランス保護法)とは?

【目次】
1 フリーランスに関する新しい法律とは?
2 フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要・特徴は?
3 フリーランス・事業者間取引適正化等法の対象となる取引とは?
4 フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反した場合はどうなるか?
5 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

1 フリーランスに関する新しい法律とは?

令和5年(2023年)5月に、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」といいます。)」が公布され、令和6年(2024年)11月1日に施行されます。

この法律は、フリーランスの取引について定めた新しい法律であり、フリーランス保護法フリーランス新法と呼称されています。

日本では、働き方の多様化が進み、2020年の内閣官房による調査では、462万人がフリーランスで働いていると試算されております。

しかし、フリーランスを直接定める法律が今までなく、フリーランスが取引をする際にトラブルに巻き込まれてしまうことが増えてきていました。

このようなフリーランスの実態を受けて、フリーランス・事業者間取引適正化等法が制定されることになりました。

近年は、人材不足の影響もあり、業務の一部を外注(アウトソーシング)している企業も少なくありません。

そのため、多くの企業でフリーランス・事業者間取引適正化等法が適用される場面も想定されます。

そこで、本記事では、フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要等を解説します。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法については、公正取引委員会や厚生労働省等の行政庁から施行規則や指針、パンフレットなどの資料が公表されており、本記事もこれらを参考にしております。

また、解説動画も公表されておりますので、これらの資料等も併せてご確認ください。

👉公正取引委員会のサイト:フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組
👉厚生労働省のサイト:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ

2024年9月19日にQ&Aが更新されました。この間に事業者やフリーランスなどから問合せを受けた事項を踏まえた内容と考えられますので、実務で非常に参考になると思われます。こちらもぜひご覧ください。

2 フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要・特徴は?

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、個人であるフリーランスと、組織である発注事業者との間における交渉力等の格差や、それに伴ってフリーランスが弱い立場に置かれてしまうことに着目し、業種横断的に共通する最低限のルールを設けています。

この最低限のルールを設けることにより、①取引の適正化と、②就業環境の整備を図ることが、フリーランス・事業者間取引適正化等法の目的です(法第1条)。

①取引の適正化は、独占禁止法下請法と同じ趣旨のものであり、公正取引委員会(及び中小企業庁)が取り扱う分野です。

これに対し、②就業環境の整備は、労働関係法規と同じ趣旨のものであり、厚生労働省が取り扱う分野です。

このように、フリーランス・事業者間取引適正化等法には、独占禁止法・下請法としての側面と、労働関係法規としての側面があることから、公正取引委員会と厚生労働省がそれぞれの担当分野を対応することとされています。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法における①取引の適正化と②就業環境の整備に関する具体的な規制内容については、別記事で解説しておりますので、こちらもご覧ください。

①取引の適正化に関する記事は、こちらをご覧ください。
②就業環境の整備に関する記事は、こちらをご覧ください。

3 フリーランス・事業者間取引適正化等法の対象となる取引とは?

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスが行う全ての取引に適用されるわけではありません

適用される対象の取引は、フリーランス・事業者間取引適正化等法が定めており、その前提となるフリーランスなどの定義も定めていますので、ここでご紹介します。

⑴ フリーランス=特定受託事業者

まず、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスを「特定受託事業者」と呼び、「業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの」と定義しています。

この特定受託事業者には、法人も含まれるとされておりますが、法人の場合には、代表者以外に他の役員がおらず、かつ、従業員を使用しないものであることが必要になります。すなわち、代表者一人しかいない会社であれば、特定受託事業者に該当することになります。

フリーランスと聞くと個人で事業を行っている場合をイメージすることが多く、法人(会社)との取引だからフリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されないと安易に考えてしまいます。

しかし、取引の相手方が法人であってもフリーランス・事業者間取引適正化等法の対象となってしまうこともありますので、注意が必要です。

また、特定受託事業者の定義のうち「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法第9条の労働者)をいいます。

そのため、これを満たさない場合には、特定受託事業者に該当し、フリーランス・事業者間取引適正化等法が適用されることになります。

さらに、事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」には該当しない=特定受託事業者に該当してフリーランス・事業者間取引適正化等法が適用されると解釈されております。

他方、同居親族が役員となっている場合には、「他の役員」に該当する=特定受託事業者に該当せずフリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されないこととされています。

なお、受注事業者が従業員を使用しているか否かは、業務委託をする時点で確認する必要があるとされており、トラブル防止等の観点から、この確認は、メールなどの記録に残る方法で行うことが推奨されています。

また、業務委託の時点で受注事業者が従業員を使用しており、「特定受託事業者」に該当せず、その後に従業員が退職したために「特定受託事業者」に該当することとなった場合でも、フリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されません。すなわち、業務委託を行う時点で「特定受託事業者」に該当するか否かによって、フリーランス・事情社間取引適正化等法が適用されるか否かが分かれることになります。

⑵ 特定業務委託事業者・業務委託

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、「特定受託事業者(フリーランス)に業務委託する事業者であって、従業員を使用するもの」を特定業務委託事業者と定義しています。

この特定業務委託事業者には、法人だけでなく、個人も含まれます

ここでいう「業務委託」については、実務では一般的に使用されている言葉ですが、典型的な契約類型を定めている民法では、業務委託契約を直接的に定めてはおりません。

そのため、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、この「業務委託」を定義付けしています。

フリーランス・事業者間取引適正化等法では、「業務委託」を、事業のために①物品の製造(加工を含む)②情報成果物の作成、または、③役務の提供を委託することと定義しています。

なお、この業務委託に該当するか否かは、契約の形態を問わず、取引の実態に基づいて判断することと考えられています。

また、取締役や監査役等の役員と会社との契約も、業務委託契約と考えることもあり得ますが、両者の関係は会社内部の関係にすぎず、会社にとって役員は「他の事業者」とはいえないため、フリーランス・事業者間取引適正化等法における「業務委託」には該当しない(フリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されない。)とされています。

⑶ フリーランス・事業者間取引適正化等法の対象とならない取引

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、特定受託事業者(フリーランス)と特定業務委託事業者との間の業務委託に係る取引を対象としています。

すなわち、事業者間取引(BtoB取引)における業務委託を対象としています。

そのため、特定受託事業者(フリーランス)が消費者と行う取引(BtoC取引)は、フリーランス・事業者間取引適正化等法の対象ではありません。

また、特定受託事業者(フリーランス)と特定業務委託事業者との取引であっても、業務委託でない場合には、フリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されません。例えば、特定受託事業者(フリーランス)と特定業務委託事業者とが雇用契約を締結するような場合には、フリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されず、労働関係法規が適用されます。

また、契約書上は業務委託契約と定められている場合であっても、実質的には受託事業者が労基法上の「労働者」と認められることがあります(いわゆる偽装請負と類似の関係です。)。この場合にも、フリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されず、労働関係法規が適用されることになります。

このことをイメージでまとめると、下記の図のようになります。

【内閣官房等「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」4頁より引用】

なお、実際にフリーランス・事業者間取引適正化等法が適用されるか否かを検討する際には、下記の表のようなものを使ってチェックしていくと、便利と思われます。

取引の内容業務委託契約適用対象
その他の契約(雇用、売買など)適用なし
取引の相手方個人従業員を雇用していない(=従業員を「使用」していない)適用対象
従業員を雇用しているが、週20時間以上かつ31日以上の用件を満たさない(=従業員を「使用」していない)適用対象
従業員を雇用しており、週20時間以上かつ31日以上の用件を満たす(=従業員を「使用」している)適用なし
従業員を雇用しているが、同居親族のみ(=従業員を「使用」していない)適用対象
法人代表者一人以外に役員はおらず、かつ、従業員を使用していない適用対象
代表者一人以外の役員がいる、または、従業員を使用している適用なし

4 フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反した場合はどうなるか?

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、この法律に違反した場合の行政機関の対応や罰則を定めています。

なお、違反行為への対応については、①取引の適正化に関するものは公正取引委員会・中小企業庁が、②就業環境の整備に関するものは厚生労働省が、それぞれ所管するものとされています。

まず、違反行為を受けた特定受託事業者(フリーランス)は、所管する行政機関に対し、申し出を行い、適当な措置をとるよう要求することができます(法第6条、第17条)。

この申出等を受けた行政機関は、調査して、指導助言等の適当な措置をとらなければなりません。

また、行政機関は、違反の事実が認められる場合には、必要な措置を講じるよう勧告し(法第8条、第18条)、これに応じなかったときは命令を出すことができます(法第9条1項、第19条1項)。この命令は公表することもできますので(法第9条2項、第19条2項)、企業にはレピュテーションリスクが生じることになります。

さらに、この命令に違反したときには、50万円以下の罰金の対象にもなってしまいます(法第24条1号)。

刑事事件にまでなってしまいますと、企業の社会的信用が失墜してしまうことにもなりかねませんので、フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反してしまわないように対応することが求められます。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法のうち①取引の適正化に関する条項(第2章)の違反に対して勧告や命令を行った場合には事業者名等を公表することが、公正取引委員会により方針発表されました。
命令まで至らずに、勧告を受けただけであっても事業者名や違反事実の概要、勧告の概要等が公表されてしまいますので、企業には非常に大きなレピュテーションリスクが生じることになってしまいます。


公正取引委員会の発表についてはこちらをご覧ください。

5 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、新しく施行される法律で実務上どのように運用されるか予測ができません。

そのため、アンテナを張って新しい情報に目を配りつつ、実務に対応していかなければなりません。

また、対象となる分野も、独占禁止法・下請法といった競争法と、労働基準法等の労働関係法規という異なるものを同じ法律で規制しているという複雑さがあります。

どちらか一方を専門的に扱っている弁護士は数多く存在しますが、両方を専門的に扱っている弁護士はそれほど多くないように思います。

吉田総合法律事務所の弁護士は、競争法も労働関係法規も取り扱っており、いずれにもご対応しておりますので、フリーランス・事業者間取引適正化等法にも自信をもってご対応いたします。

フリーランス・事業者間取引適正化等法や、フリーランスとの取引についてお困り、お悩みの企業は、吉田総合法律事務所へご相談ください。

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