フリーランス新法(フリーランス保護法)とは? 就業環境の整備について

【目次】
1 フリーランス新法(フリーランス保護法)の「取引の適正化」とは?
2 フリーランス・事業者間取引適正化等法の「就業環境の整備」の内容は?
 ⑴ 募集情報の的確な表示義務(第12条)
 ⑵ 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮義務(第13条)
 ⑶ ハラスメント対策に係る体制整備の義務(第14条)
 ⑷ 契約解除する場合又は契約更新しない場合の事前予告義務(第16条)
3 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

1 フリーランス新法(フリーランス保護法)の「取引の適正化」とは?

令和5年(2023年)5月に、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」といいます。)」が公布され、令和6年(2024年)11月1日に施行されます。

この法律は、フリーランスの取引について定めた新しい法律であり、フリーランス保護法フリーランス新法と呼称されています。 

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、①取引の適正化と、②就業環境の整備を図ることを目的としています(法第1条)。

このうち、②就業環境の整備は、労働関係法規と同じ趣旨のものであり、厚生労働省が取り扱う分野です。

本記事では、フリーランス・事業者間取引適正化等法のうち、②就業環境の整備に関する内容を解説します。

フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要や、①取引の適正化については、別記事で解説しております。

フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要に関する記事は、こちらをご覧ください。
①取引の適正化に関する記事は、こちら をご覧ください。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法については、公正取引委員会や厚生労働省等の行政庁から施行規則や指針、パンフレットなどの資料が公表されており、本記事もこれらを参考にしております。また、解説動画も公表されておりますので、これらの資料等も併せてご確認ください。

?公正取引委員会のサイト:フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組
?厚生労働省のサイト:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ

2 フリーランス・事業者間取引適正化等法の「就業環境の整備」の内容は?

フリーランス・事業者間取引適正化等法において、「就業環境の整備」を図るための規制の概要は下記表のとおりです。

これらの規制を簡単に解説します。

条 文規 制取 引 対 象
第12条募集情報の的確な表示義務特定業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する業務委託
第13条妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮義務特定業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する継続的な(6か月以上の期間行う)業務委託
第14条ハラスメント対策に係る体制整備の義務特定業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する業務委託
第16条契約解除する場合又は契約更新しない場合の事前予告義務特定業務委託事業者の特定受託事業者(フリーランス)に対する継続的な(6か月以上の期間行う)業務委託

⑴ 募集情報の的確な表示義務(第12条)

特定業務委託事業者が、広告等により、特定受託事業者(フリーランス)に対する業務委託の募集を行う際は、①「虚偽の表示」や「誤解を生じさせる表示」をしてはならず、また、②正確かつ最新の内容に保たなければなりません。

①について、厚労省が公表している指針によりますと、意図して募集情報と実際の就業に関する条件を異ならせた場合等には虚偽の表示に、実際の報酬額等よりも高額であるかのように表示した場合等には誤解を生じさせる表示に該当するとされています。

なお、当事者の合意に基づいて広告等に掲載した募集情報から実際の契約条件を変更することは許されており、虚偽の表示には該当しないと考えられています。

②については、特定受託事業者の募集を終了した場合や募集内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更しなければなりません。

また、広告等を行う際には、募集情報がいつの時点のものであるかということも明らかにしなければならないとされております。

【内閣官房等「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」11頁より引用】

この的確表示義務の対象となる募集情報の提供方法は、以下の6つです。

  • ①新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告
  • ②文書の掲出又は頒布
  • ③書面の交付
  • ④ファクシミリ
  • ⑤電子メールなど(SNSのメッセージ機能も含まれます)
  • ⑥放送、有線放送等(テレビやラジオ、自社のホームページなど)

また、特定の一人に対して業務委託を打診する場合には、既に契約交渉段階にあると考えられるため、的確表示義務の対象外とされています。

⑵ 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮義務(第13条)

特定受託事業者が妊娠、出産、育児、介護等と業務を両立できるよう、特定業務委託事業者は、特定受託事業者から申出を受けた場合には、育児介護等の状況に応じて必要な配慮をしなければならないというものです。

なお、この配慮義務は、6か月以上の期間行う継続的業務委託の場合には法律上の義務とされ、継続的業務委託ではない場合には努力義務とされております。

配慮義務の具体的な内容と違反例は以下のとおりです。

具体的な内容違反の例
配慮の申出の内容等の把握話合い等を通じ、求める配慮の具体的な内容及び育児介護等の状況を把握すること申出があったにもかかわらず、申出内容を無視する
配慮の内容又は取り得る選択肢の検討希望する配慮の内容、又はそれを踏まえたその他の採り得る対応について行うことが可能か十分に検討すること申出のあった配慮について、実施可能か検討しない
配慮の内容の伝達及び実施具体的な配慮の内容が確定した際には、速やかに特定受託事業者に対してその内容を伝え、実施すること配慮することは可能であるにもかかわらず、調整が面倒と考えて実施しない
配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明十分に検討した結果、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、特定受託事業者に対しその旨を伝達し、その理由を分かりやすく説明すること配慮不実施としたにもかかわらず、その理由を説明しない

また、この配慮義務は、特定受託事業者(フリーランス)の申出の内容を検討し、可能な範囲で対応を講じることを求めるものであり、申し出の内容を必ず実現することまでを求めるものではありません。

⑶ ハラスメント対策に係る体制整備の義務(第14条)

ハラスメント行為により特定受託事業者(フリーランス)の就業環境を害することのないよう、相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならず、また、ハラスメントに関する相談を行ったことなどを理由として不利益な取扱いをしてはなりません。

ここでの「ハラスメント」には、セクシャルハラスメント妊娠・出産等に関するハラスメントパワーハラスメントの3つが含まれます(第14条1項)。

ハラスメントを防止するために講ずべき措置は、以下のとおりです。

講ずべき措置概 要具 体 例
方針等の明確化及びその周知・啓発業務委託におけるハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨、ハラスメントを行った者については厳正に対処する旨の方針を明確化し、特定受託事業者との業務委託に関わる労働者に周知・啓発すること就業規則等への記載
社内報への記載
研修、講習等の実施
相談(苦情)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、特定受託事業者に周知すること、及び、相談窓口担当者が、相談に対しその内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること外部機関へ相談対応の委託
業務委託契約書等に相談窓口のメールアドレスを記載
相談が来た場合のマニュアル作成
ハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応事実関係を迅速かつ正確に把握すること
ハラスメントの事実が確認できた場合には速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと、行為者に対する措置を適正に行うこと
改めてハラスメントに関する指針を周知・啓発するなどの再発防止に向けた措置を講ずること
ヒアリングの実施
配置転換
産業医による診察
研修、講習等の実施

【内閣官房等「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」13頁より引用】

なお、上記の講ずべき措置については、パワハラ防止法で求められている講ずべき措置と同様の内容が定められております。

そして、パワハラ防止法に基づいて従業員向けに設置している相談窓口について、特定受託業務事業者も対象とするということも考えられます。

パワハラ防止法で求められている講ずべき措置については、こちらの記事で解説しておりますので、ご覧ください。

⑷ 契約解除する場合又は契約更新しない場合の事前予告義務(第16条)

継続的業務委託(6か月以上の期間行う業務委託)を途中で解除する場合や契約更新しない場合には、特定受託事業者に対し、少なくとも30日前までにその旨を予告しなければなりません。

また、特定受託事業者から理由の開示を求められた場合には、特定業務委託事業者は契約解除する理由又は契約更新しない理由を開示しなければなりません

事前予告が不要となる例外的な場合については、厚生労働省令第4条に挙げられております。

具体的には、①災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合や、②特定受託事業者の責めに帰すべき事由により直ちに契約の解除をすることが必要であると認められる場合、などがあります。

なお、業務委託契約書等であらかじめ一定の事由がある場合に事前予告なく(催告等なく)契約を解除することができる旨を定めることがありますが、このような定めをしていた場合であっても、厚生労働省令第4条各号に該当しなければ法第16条の事前予告義務は免れませんので、ご注意ください(契約文言より法第16条が優先します。)。

3 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、新しく施行される法律で実務上どのように運用されるか予測ができません。

そのため、アンテナを張って新しい情報に目を配りつつ、実務に対応していかなければなりません。

フリーランス・事業者間取引適正化等法の就業環境の整備に関する規定に違反してしまった場合、厚生労働省からの勧告命令を受けたり、命令を受けた旨が公表されてしまったりします。また、命令に違反した場合には50万円以下の罰金が科されてしまいます。

命令を受けた旨が公表されてしまったり、刑事事件となってしまったりした場合には、企業に重大なレピュテーションリスクが生じてしまいます

吉田総合法律事務所の弁護士は、労働関係法規にも注力しており、フリーランス・事業者間取引適正化等法にも自信をもってご対応いたします。

フリーランス・事業者間取引適正化等法や、フリーランスとの取引についてお困り、お悩みの企業は、吉田総合法律事務所へご相談ください。


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