令和5年6月に成立した改正不正競争防止法の内容とは?

令和5年6月に、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が成立し、令和6年4月1日に施行されました。

この改正法は、不正競争防止法や商標法などの知的財産に関する法律を改正するものです。

特に不正競争防止法は、営業秘密が侵害された事件が度々報道されるようになってきていることから、注目されるようになってきています。

また、転職が当たり前の社会となり、営業秘密等が漏えいしてしまう抽象的な危険性が高まっていることもありますので、不正競争防止法を知っておくことは企業の利益を守ることに繋がります。

そこで、本記事では、不正競争防止法の令和5年改正の内容を解説いたします。

なお、令和5年改正については、経済産業省がホームページで解説しており、解説資料も公表しています。

本記事は、この経済産業省の解説資料を参考にしておりますので、本記事と併せて経済産業省の解説資料もご覧ください。

?経済産業省のホームページはこちら → 不正競争防止法 直近の改正(令和5年) (METI/経済産業省)

【目次】
1 令和5年改正不正競争防止法の背景や概要とは?
2 令和5年改正不正競争防止法の公布日や施行日は?
3 令和5年改正不正競争防止法のポイントとは?
 ⑴ デジタル空間における形態模倣行為の防止(ブランド・デザインの保護強化)
 ⑵ 営業秘密・限定提供データの保護強化
 ⑶ 国際事業展開に係る制度整備
4 経営者において特に抑えておくべき改正のポイントと対策とは?

1 令和5年改正不正競争防止法の背景や概要とは?

不正競争防止法の令和5年改正は、知的財産の分野におけるデジタル化国際化の更なる発展等の環境変化を踏まえて、スタートアップ企業や中小企業等による知的財産を活用した新規事業の展開を後押しするなど、時代の要請に対応した知的財産制度の見直しが必要であるという理由により行われたものです。

令和5年改正は、不正競争防止法だけでなく、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法といった知的財産に関する法律を一括して改正するものです。

そこでは、以下の3点を柱としています。

  • ①デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
  • ②コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
  • ③国際的な事業展開に関する制度整備

2 令和5年改正不正競争防止法の公布日や施行日は?

令和5年改正法である「不正競争防止法等の一部を改正する法律(法律第51号)」は、2023年6月7日に成立し、6月14日に公布されています。

そして、2024年(令和6年)4月1日に施行されました。

3 令和5年改正不正競争防止法のポイントとは?

 ⑴ デジタル空間における形態模倣行為の防止(ブランド・デザインの保護強化)

現行の不正競争防止法では、商品のデザインの保護を図るため、他人の商品形態を模倣した商品(酷似したモノマネ品)の提供行為を規制しています(2条1項3号)。

この規定は、有体物の商品を想定しており、無体物であるデジタル空間上の商品は規制対象ではありませんでした。

しかし、いわゆるメタバース等のデジタル空間の活用が急速に発展し、デジタル上の精巧な衣服や小物等の商品の経済取引が活発化したことにより、デジタル空間上の商品も保護する必要性が生じました。

そのため、デジタル空間上の商品(無体物)の形態模倣行為も規制対象に拡張することになりました。

具体的には、他人の商品の形態を模倣した商品を「電気通信回線を通じて提供する行為」が規制対象に追加されました。

この改正により、メタバース等のデジタル空間で事業を行う場合にも、他人の商品の模倣品を扱うことがないよう注意する必要があります。

(引用:「不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要」経済産業政策局知的財産政策室など)

⑵ 営業秘密・限定提供データの保護強化

■ 限定提供データの定義の明確化

いわゆるビックデータについては、平成30年改正により「限定提供データ」として規制されています(2条1項12号ないし16号)。

この限定提供データの規制は、営業秘密としては保護されないが、一定の要件を満たした価値あるデータを保護するための規制でした。

そのため、規制の対象となる限定提供データ(ビックデータ)は、秘密管理されていないものを想定していました。

しかし、実際には、秘密管理しているビックデータであっても他社と共有することがあり、このような場合にも不正競争防止法の規制対象とする(保護する)必要があることが明らかになりました。

そのため、営業秘密には該当しないが秘密管理しているデータも、規制対象となる(保護できる)よう、限定提供データの定義を修正することになりました。 令和5年改正により、現行法では営業秘密としても限定提供データとしても保護されなかったデータが、新たに限定提供データとして保護されることになります。

(引用:「不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要」経済産業政策局知的財産政策室など)

■ 使用等の推定規定の拡充(不競法5条の2)

例えば、A社を退職した従業員が営業秘密を持ち出して他社B社に開示したおそれがある場合に、A社は当該従業員に対して損害賠償等を請求するだけでなく、開示されたおそれのある他社B社に対しても損害賠償等を請求するという事例で説明します。

この事例において、A社が開示されたおそれのある他社B社が営業秘密を実際に使用している(していた)ことを証明しなければなりませんが、この証明は非常に困難です。

B社はA社退職従業員から営業秘密の開示を受けたことやそれを使用したことを自ら認めることはしませんので、A社が証拠を集めて証明しなければ、損害賠償等の請求は認められない(裁判で請求しても請求棄却でA社は敗訴する)ことになります。

そこで現行法(令和5年改正法以前の法律)には救済措置として、①営業秘密が開示されたこと、②営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産していること、をA社が証明すれば、裁判所はB社が営業秘密を使用したことを推認できることにしています(5条の2)。

これにより、A社は営業秘密の使用を直接証明する必要はなくなりますが、この推定規定の対象が、③営業秘密へのアクセス権限がない者(産業スパイ)、などに限定されており、実際の事案での救済措置としては不十分でした。

そこで、令和5年改正では、この推定規定の対象を、「元々アクセス権限のある者(元従業員)」などにも拡充しました。

これによりA社の救済範囲が拡大することになります(5条の2第2項ないし第3項)。

(引用:「不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要」経済産業政策局知的財産政策室など)

■ 損害賠償額の算定規定の拡充(不競法5条)

説明のため、A社が請求する側(原告)、B社が請求される側(被告)とします。

A社の営業秘密や限定提供データがB社に侵害されたという損害賠償請求事件では、A社が損害額(逸失利益)を証明することは困難ですから、現行法(令和5年改正法以前の法律)には損害賠償算定規定があります。

現行法(令和5年改正法以前の法律)の損害賠償算定規定は、原則として、「侵害品の販売数量×被侵害者(A社)の1個当たりの利益」の合算額を損害として推定するという規定です。

この規定では、被侵害者(A社)の生産・販売能力の範囲内でしか損害として認められません。

そのため、営業秘密等を侵害した者(B社)が被侵害者(A社)の生産・販売能力を超える利益を得た場合には、B社はその超える部分の利益を得ることができてしまいますので、侵害のし得を認める結果になってしまいます。

これでは企業規模が大きく大量生産大量販売で多額利益を獲得できる大企業が不正行為を行えば、A社に所定の損害を払うだけで堂々と不正行為による多額の利益を丸取りできることになり、極めて正義公平に反し不当な結論になります。

令和5年改正は上記の不備を是正し、B社の「侵害のし得」を防ぎ、A社の適切な損害回復を図るため、被侵害者(A社)の生産・販売能力を超える部分については侵害者(B社)に使用許諾(ライセンス)したとみなして、その部分については「使用許諾料相当額を損害として推定する」ことが新設されました(5条1項2号)。

(引用:「不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要」経済産業政策局知的財産政策室など)

 ⑶ 国際事業展開にかかる制度整備

現代のグローバル社会において、不正競争が行われるのは日本国内に限られず、国をまたぐことも少なくありません。

また、不正競争防止法が適切に適用されなければ、日本の企業が国際事業を展開することを躊躇してしまい、経済の発展を阻害してしまいます。

そこで、令和5年改正では、国際的な場面における不正競争防止法の適用についても、改正を行っております。

■ 国際的な営業秘密侵害事案における手続きの明確化

日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、現行法では、刑事罰(懲役刑・罰金刑)の対象にはなりますが、日本法に基づき損害賠償や差止めなどの民事責任を追及できるかは個別の事案ごとに判断されることになっています。

そのため、事案によっては、日本法である不正競争防止法が適用されず、適切な責任追及ができないということも起こり得ます。

また、仮に不正競争防止法に相当する諸外国の法律によって保護されるとしても、その国の裁判所で裁判をしなければならず、負担が増大してしまいます。

そのため、令和5年改正では、日本国内で事業を行う企業の、日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密については、海外で侵害行為がされた場合であっても、日本の裁判所で日本の不正競争防止法に基づいて提訴することができることが定められました(19条の2第1項)。

(引用:「不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要」経済産業政策局知的財産政策室など)

■ 外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充

不正競争防止法では、営業秘密の侵害行為を行った者等に対して刑事罰を科すことが定められております。

令和5年改正では、OECDからの勧告等も踏まえて、法定刑(罰金刑・懲役刑)が引き上げられました。

また、現行法では、日本企業の従業員が国外で贈賄行為を行った場合、その従業員が日本人であれば処罰することができますが、外国人であれば処罰することはできません(属人主義)。

令和5年改正では、国外で行われた贈賄行為について、国籍を問わず処罰することができることとされました。

(引用:「不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要」経済産業政策局知的財産政策室など)

4 経営者において特に抑えておくべきポイントと対策とは?

不正競争防止法の令和5年改正は、デジタル化や国際化の発展という社会変化に伴い、企業の知的財産を保護するためのものと考えられます。

デジタル化や国際化は、今後もさらに発展していくと予想されますので、不正競争防止法も頻繁に改正される可能性があります。

時代や社会が変化しているときは、企業の事業を発展させるチャンスとなりますが、改正されている法令のチェックを怠ると、足元をすくわれてしまうかもしれません。

企業の発展のために思い切ってアクセルを踏むだけではなく、企業防衛に詳しい弁護士にいつでも何でも相談できる体制にしながら、適切にブレーキコントロールができるようにすることは非常に大切です。

成長する企業にはしっかりとしたコンプライアンス体制があります。常時何でも相談できる弁護士の存在はコンプライアンス体制にとってとても価値ある大事なことです。

そのような意味をこめて、企業の皆様には法令の改正に十分なアンテナを張っていただければと思います。

なお、営業秘密やその侵害行為については、こちらの記事でも解説しておりますので、ご覧ください。

?不正競争防止法の営業秘密とは? 
https://ylo-corporatelaw.com/others/trade-secret/

?営業秘密の侵害行為とは?
https://ylo-corporatelaw.com/others/trade-secret-2

   

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