
【目次】 1 はじめに 2 自己株式の処分とはなんですか? 3 自己株式の処分にはどのような類型がありますか? 4 自己株式の処分はどのような方法で行うのですか? 5 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください! |
1 はじめに
非上場の中小企業・中堅企業では、少数株主から株式を買い取る場合や事業承継で株主構成を整理する場合、取締役が退任する際に保有する株式を回収する場合等で、自己株式の取得を行うことがよくあります。
この自己株式の取得は、会社が自ら発行した株式を株主から取得することをいい、「自社株買い」と呼ぶこともあります。
そして、この自己株式の取得手続きにより取得した自己株式を、株主や第三者へ移転させることを、「自己株式の処分」といいます。自己株式の取得は、通常の株式譲渡とは異なり、会社法で定められた厳格な手続きを経なければ実行することができません(株式譲渡については、こちらの記事 をご覧ください。)。
そして、会社が保有する自己株式を株主や第三者へ移転させる自己株式の処分でも、会社法で定められた厳格な手続きが必要となります。

自己株式の取得と自己株式の処分を、他の株式譲渡と同じように考えてしまい、会社法上の手続きを取らずに実行してしまいますと、後で無効となってしまい、株主構成が大きく変わってしまうことも起こり得ます。これは、会社の経営権・支配権に甚大な影響を及ぼすリスクとなってしまいます。
そこで、本記事では、非上場の中小企業・中堅企業を対象とした、自己株式の処分について、分かりやすく解説いたします。
なお、自己株式の取得については、こちらの記事 をご覧ください。
2 自己株式の処分とはなんですか?
自己株式について、以前は相当の時期に処分しなければならないとされておりましたが、現行法上は会社が保有し続けることができます。

会社が保有する自己株式は、「金庫株」とも呼ぶことがあります。この自己株式の特徴は、議決権等の共益権や剰余金の配当請求権がないという点が挙げられます。すなわち、自己株式については株主総会で議決権を行使することができず(そのため定足数にも含まれません。)、配当金を受け取ることもできません。
このような自己株式は、取締役会決議により消却することができます(会社法第178条1項)。自己株式の消却を行うと発行済株式総数が減少しますが、発行可能株式総数は減少しません。なお、自己株式の取得を行った場合は、発行済株式総数も発行可能株式総数も増減はありません。
これに対し、自己株式を株主や第三者へ移動させることもできます。これが自己株式の処分です。自己株式の処分により移動した株式は、通常の株式に戻り、普通株式であれば議決権等の共益権や剰余金の配当請求権が認められます。
自己株式の処分を行うと、既存株主の議決権割合が低下するなど、既存株主の権利利益に影響を与えることになります。この既存株主の権利利益を保護するために、会社法が自己株式の処分について厳格な手続きを定めています。なお、自己株式の取得を行った場合は、取得した自己株式の議決権行使ができなくなりますので、その他の株主の議決権割合は上昇することになります。
3 自己株式の処分にはどのような類型がありますか?
上記1のとおり、自己株式の処分は会社法で厳格な手続きが定められております。
具体的には、原則として株式の発行と同じ募集手続きで行わなければならないと定められております。会社法では、「株式の発行」と「自己株式の処分」を合わせて、「募集株式の発行等」と呼び、同じ募集手続きを定めています(会社法第199条以下)。
これは、自己株式の処分も、株式の発行と同様に、払込金額の公正や株主間の持株比率の維持を図る必要があるためです。
そして、募集株式の発行等には、3つの類型があります。

一つ目は、「株主割当て」と呼ばれるものです。
株主割当ては、株主に対し株式の割当てを受ける権利を与える方法です。株主割当てでは、各株主が持株数に比例して、株式の割当てを受ける権利を持つことになります。
この株主割当ての場合、各株主が持つ株式の数に応じて割当てを受けることができますので、自己株式の処分を行っても議決権割合は低下しないことになります。そのため、他の類型と比べて、手続きが一部省略されています。
なお、各株主の持株数に比例せずに株主へ割り当てる場合や特定の株主にのみ割り当てる場合には、株主割当てに該当せず、次の第三者割当てとなります。実際には、非上場の中小企業・中堅企業では、株主割当てよりも第三者割当てが行われることが多いと感じております。
二つ目は、「第三者割当て」と呼ばれるものです。
第三者割当ては、株主割当てではないもののうち、特定の者に対してのみ募集株式の申込みの勧誘及び割当てを行う方法です。
第三者割当ては、資本提携を行う場合等で利用されています。非上場の中小企業・中堅企業では、この第三者割当てが行われることが多いです。
また、第三者割当てでは、いわゆる有利発行に該当してしまうことが多く、有利発行の際に必要となる手続きにも注意する必要があります。
三つ目は、「公募」と呼ばれるものです。
公募は、株主割当てではないもののうち、不特定・多数の者に対して募集の申込みの勧誘を行う方法です。
非上場の中小企業・中堅企業では、利害関係のない第三者が株主となることは考え難いため、公募が行われることはほとんどないと思われます。
4 自己株式の処分はどのような方法で行うのですか?
次に、募集株式の発行等の手続きを見ていきます。なお、以下では、非上場の中小企業・中堅企業に多い、譲渡制限株式を発行している非公開会社を前提としています。
株主割当てとそれ以外(第三者割当て・公募)とでは、会社法で定められた手続きが異なりますので、両者を区別して解説いたします。
⑴ 第三者割当て・公募の場合の手続き
まず、第三者割当て・公募の原則的な手続きの流れは以下の図のとおりです。

① 株主総会の特別決議(会社法第199条2項、第309条2項5号)
まず、株主総会の特別決議で、募集事項を決定する必要があります。
決定しなければならない募集事項は、以下の4点です。
- a 募集株式の数
- b 募集株式の払込金額又はその算定方法
- c 金銭以外の財産を出資の目的とするときはその旨並びに当該財産の内容及び価額
- d 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は上記財産の給付の期日又はその期間
なお、払込金額が「特に有利な金額」となる場合(いわゆる有利発行となる場合)には、株主総会において取締役がその理由を説明しなければなりません(会社法第199条3項、第200条2項)。
② 申込みをしようとする者への通知(会社法第203条1項)
会社は、募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して、原則として下記の事項を通知します。
- ・会社の商号
- ・募集事項(①のa~d)
- ・金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱い場所
- ・発行可能株式総数
③ 申込み(会社法第203条2項)
募集株式の引受けの申込みをする者(申込者)は、会社に対し、氏名・住所と引き受けようとする募集株式の数を記載した書面を交付します。
④ 募集株式の割当ての取締役会決議(会社法第204条1項、2項)
会社は、申込者の中から募集株式の割当てを受ける者と、その者に割り当てる募集株式の数を、取締役会決議で決定します。
③の申込者は、会社が割り当てた数の募集株式について、引受人となります。
⑤ 申込者への通知(会社法第204条3項)
会社は、払込期日の前日までに、③の申込者に対し、④で決定した割り当てる募集株式の数を通知します。
⑥ 払込み(会社法第208条1項)
引受人は、払込期日に、払込金額を払い込みます。引受人は、この払込みにより募集株式を取得して株主となります。
払込期日に引受人が払込みを行わなかった場合には、募集株式の株主となる権利を失うことになります(会社法第208条5項)。このことを「失権」といいます。
⑦ 変更登記申請手続きの要否
株式を発行すると、登記事項である資本金の額や発行済株式総数等が変更しますので、変更登記申請手続きを行う必要があります。
もっとも、自己株式の処分では、上記事項の変更は生じませんので、変更登記申請手続きは不要です。
⑵ 株主割当ての場合の手続き
次に、株主割当ての原則的な手続きを見ていきます。
株主割当ての原則的な手続きの流れは以下の図のとおりです。

① 株主総会の特別決議(会社法第202条1項、3項4号、第199条1項、2項)
株主割当ての場合も、最初に株主総会の特別決議で、募集事項を決定する必要があります。
決定しなければならない募集事項は、以下の6点です。第三者割当て・公募の場合の募集事項(a~d)に2つ(eとf)追加されています。
- a 募集株式の数
- b 募集株式の払込金額又はその算定方法
- c 金銭以外の財産を出資の目的とするときはその旨並びに当該財産の内容及び価額
- d 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は上記財産の給付の期日又はその期間
- e 株主に対して、募集株式の引受けの申込みをすることにより募集株式の割当てを受ける権利を与える旨
- f 申込期日
② 株主への募集事項その他の事項の通知(会社法第202条4項)
会社は、①で募集事項を決定した後、申込期日の2週間前までに、株主に対して以下の事項を通知します。
- ・募集事項(①の募集事項のうち上4つのa~d)
- ・その株主が割当てを受ける募集株式の数
- ・申込期日(①の募集事項のf)
③ 申込みをしようとする者への通知(会社法第203条1項)
会社は、募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して、原則として以下の事項を通知します。
- ・会社の商号
- ・募集事項(①の募集事項のうち上4つのa~d)
- ・金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱い場所
- ・発行可能株式総数
④ 申込み(会社法第203条2項)
募集株式の引受けの申込みをしようとする者は、申込期日までに、会社に対し、氏名・住所と引き受けようとする募集株式の数を記載した書面を交付します。
この申込みを行った者は、募集株式の引受人となります。
⑤ 払込み(会社法第208条1項)
募集株式の引受人は、払込期日に、払込金額を払い込みます。引受人は、この払込みにより募集株式を取得して株主となります。
払込期日に引受人が払込みを行わなかった場合には、募集株式の株主となる権利を失うことになります(会社法第208条5項)。このことを「失権」といいます。
⑥ 変更登記申請手続きの要否
株式を発行すると、登記事項である資本金の額や発行済株式総数等が変更しますので、変更登記申請手続きを行う必要があります。
もっとも、自己株式の処分では、上記事項の変更は生じませんので、変更登記申請手続きは不要です。
5 お困りの方は吉田総合法律事務所へご相談ください!
自己株式の取得(自社株買い)は、特に中小企業でよく利用される制度ですが、取得した自己株式を吐き出す際のこと(出口戦略)はあまり意識されていないと感じています。
自己株式の処分も、会社法で厳格な手続きが定められており、これに違反してしまうと自己株式の処分が無効となってしまい、後で経営権・支配権に大きな影響が生じてしまうリスクがあります。
吉田総合法律事務所の弁護士は、非上場会社の中小企業・中堅企業における自己株式に関する知識・経験を有しております。

そのため、企業や株主の状況に応じて、対応することが可能です。 自己株式についてお困りの会社・経営者は吉田総合法律事務所へご相談ください。