秘密保持契約(機密保持契約/NDA)とは?締結のメリットや注意点について弁護士が解説

ビジネスを行い、また事業を発展させていく上で、他社との共同開発、業務委託、M&Aの検討、あるいは新規取引の打診など、自社が持つ重要な情報を外部に開示しなければならない場面は多々あります。

その際に必要となるのが「秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)」です。

実務上、非常に高頻度で交わされる契約であるため、

いつも使っているひな形だから

定型的なものだから

と、内容をよく確認することなく作成してしまっていることもあるかもしれません。

しかし、NDAは企業の競争力の源泉である「情報資産」を守るための非常に重要な契約です。

不適切な内容のまま締結してしまうと、万が一重要情報やノウハウが流出したときに適切な救済を受けられず、企業が致命的な打撃を受けてしまうリスクがあります。

本記事では、秘密保持契約の基本から、締結のメリット・デメリット、実務的な作成・運用のポイントまで、弁護士が詳しく解説します。

【目次】
1 秘密保持契約とは?
2 秘密保持契約のメリットとデメリット
3 秘密保持契約の締結の流れ
4 秘密保持契約の作成で気を付けるべきポイント
5 秘密保持契約のよくあるQ&A
6 秘密保持契約書についてお悩みの方は当事務所へご相談ください!

1 秘密保持契約とは?

秘密保持契約(NDA)とは、取引の検討や業務の遂行にあたり、自社が持つ営業秘密や技術情報、個人情報などの情報を取引先に開示する際、その情報を第三者へ開示することや、目的外に使用することを禁止するために締結する契約です。

なお、秘密保持契約に似た契約として「機密保持契約」がありますが、契約の趣旨、目的、内容、法的効力は秘密保持契約も機密保持契約も同じです。単に契約書の名前が異なるだけですので、本記事では「秘密保持契約(NDA)」と統一して記載いたします。

「日本には『不正競争防止法』があり、営業秘密の漏洩は禁止されているのだから、わざわざ個別に契約を結ぶ必要はないのではないか」

と思われる方もいるかもしれません。

しかし、不正競争防止法によって「営業秘密」としての保護を受けるためには、以下の3つの厳格な要件(三要件)をすべて満たしている必要があります。

実務上、自社が「営業秘密」だと考えている情報であっても、実際に裁判となった場合に裁判所から「秘密管理性が不十分であるため営業秘密に該当しない」と判断されてしまい、法律上の保護が受けられないケースも少なくありません。

このように厳格な要件が求められている営業秘密に対して、秘密保持契約(NDA)を締結しておけば、契約の当事者間で「何が秘密情報にあたるか」を合意によって柔軟に定義することが可能になります。そして、不正競争防止法の「営業秘密」の要件を満たさないような情報であっても、契約違反(債務不履行)を理由として、損害賠償請求や差止請求を行うことが可能となるため、ビジネスの実務においては秘密保持契約を締結することが不可欠となります。

なお、不正競争防止法や営業秘密については、こちらの記事もご覧ください。

2 秘密保持契約のメリットとデメリット

秘密保持契約の締結には、自社の情報を守るという直接的な目的以外にもさまざまな効力があります。

そして、メリットだけでなく、自社が「情報を受け取る側(受領側)」になった場合のデメリット(リスク)についても正しく理解しておく必要があります。

⑴ 秘密保持契約を締結するメリット

① 情報漏洩や目的外使用を禁止する

秘密保持契約では、情報漏洩や目的外使用を禁止し、万が一漏洩した場合の損害賠償責任を明記します。

これにより、相手方に対して心理的・法的な強い抑止効果が働き、相手方の役員や従業員に対し、開示した情報の取扱いに慎重を期すよう促すことができます。

② 万が一の漏洩時に法的救済(損害賠償・差止)を請求しやすくなる

秘密情報の漏洩などの義務違反が発生してしまった場合、契約違反(債務不履行)を理由とした損害賠償請求や秘密情報の使用差止めを求める法的手段を講じやすくすることができます。

③ 安心して重要な情報を開示ができ、円滑なビジネスを推進することができる

お互いに強固な秘密保持義務を負うことで、過度な不信感を取り除くことができ、ビジネスの推進に必要かつ重要な情報(技術仕様、財務データ、顧客リストなど)を早期に開示することができます。その結果、ビジネスの交渉や検討がスムーズに進行させることができます。

⑵ 秘密保持契約を締結するデメリット(リスク)

① 締結のための手間や時間がかかる

新規取引のたびに秘密保持契約書のドラフトを用意し、リーガルチェックを行い、相手方と文言の調整を行うことは、一定の労力と時間を要します。

スピード感が重視されるビジネスにおいては、秘密保持契約の交渉で時間がかかってしまうことはデメリットといえるかもしれません。

② 自社が「受領側」になる場合、将来の開発や事業が制限されるリスク

秘密保持契約を締結する際に見落としがちな注意点(リスク)は、自社が相手方から情報を受け取る立場になる場合にあります。

相手方から秘密情報を開示されることで、「自社が独自に研究・開発していた技術」や「将来行う予定の事業」について、相手方から「開示した秘密情報を盗用したのではないか」と言いがかりをつけられるリスクが生じることがあります。

主に秘密情報を受領する側になる際は、義務の範囲が広がりすぎないよう慎重に秘密保持契約の内容を見極める必要があります。

③ 本来の秘密保持契約とは異なる条項が紛れ込むリスク

相手方から提示された秘密保持契約書のドラフトをよく読むと、本来の秘密保持契約とは異なる条項が定められていることがあります。

これは、秘密保持契約が定型的なものであり、簡易的なチェックし課されないことを見越して、自社に有利な条項を紛れ込ませておくという常套手段として使われることがあります。これによって、多額の損害賠償責任を負わされてしまうなど、企業にとって大きなリスクになる場合があります。

そのため、相手方からドラフトを提示されたときには、本来の秘密保持契約とは異なる条項が定められていないかをチェックする必要があります。

3 秘密保持契約の締結の流れ

秘密保持契約は、一般的に、目的となる取引に関する契約(業務委託契約や売買契約など)を交わす前の、取引の検討段階に締結します。

一般的な流れは以下のようになります。

【ステップ1】NDA締結の必要性を判断(情報の開示が必要になるタイミング)
【ステップ2】NDAのドラフトの作成・提示
【ステップ3】各条項の交渉・修正
【ステップ4】NDA締結(記名押印または電子署名)
【ステップ5】情報の開示

⑴ ステップ1 : 締結の必要性を判断

ステップ1では、取引先にどのような情報を開示するのか、それは自社にとってどれほど重要な情報なのかを評価します。

一般的な会社案内レベルの情報であれば不要ですが、未公開のアイデア、技術ノウハウ、顧客の個人情報、見積価格の詳細などが含まれる場合は、必ず開示前にNDAを締結することを検討します。

⑵ ステップ2 : NDAのドラフトの作成・提示

NDAには、一方が相手方にのみ義務を課す「片務契約」と、双方が互いに義務を負う「双務契約」があります。情報のやり取りが双方向で行われる場合は、双務契約形式のドラフトを用意するのが一般的です。

⑶ ステップ3 : 各条項の交渉・修正

相手方から提示されたドラフトに対し、自社の立場(主に開示側か、受領側か)に合わせて条文の修正交渉を行います。この段階でのリーガルチェックが、将来の紛争予防において最も重要となります。

⑷ ステップ4: NDA締結(記名押印または電子署名)

合意に至った内容で契約書を書面化し、双方の代表者または権限のある者が記名押印または電子署名を行います。

⑸ ステップ5 : 情報の開示

NDAを締結した後に、情報を開示します。

基本的には、NDAを締結する前に開示した情報は、NDAの対象から外れてしまい、秘密保持義務が及ばなくなってしまいますので、情報の開示は必ずNDAを締結した後に行う必要があります。

4 秘密保持契約で気を付けるべき3つのポイント

NDAの内容を検討する際に、必ずチェックすべき実務上の重要ポイントを3つ解説します。

⑴ 秘密情報の「定義」

秘密保持契約において最も重要となるのが「何が秘密情報にあたるのか」という範囲の確定です。いくら自社にとって重要な情報であっても、秘密保持契約の秘密情報の定義に該当しなければ、保護を受けられなくなってしまいます。

  • 開示側の視点:自社が情報を開示する側であれば、「開示する一切の情報」というように、範囲をできるだけ広く定義することが好ましい。
  • 受領側の視点:自社が情報の開示を受ける側であれば、管理すべき秘密情報を名確認するために、「『秘密』と明記された書面で開示されたもの」というように、秘密の対象を明確に限定(特定)することが好ましい。

実務上は、お互いの力関係や取引の性質に応じて、これらのバランスを調整することになります。

⑵ 「目的外使用禁止」の範囲

NDAでは、秘密を漏洩しないこと(秘密保持義務)とともに、

「開示された情報を、所定の目的以外のために使ってはならない」

という目的外使用禁止義務を定めることが一般的です。

ここで重要となるのが、契約書内で定める「目的」の書き方です。目的が「本取引の検討のため」などと抽象的すぎると、どこまでが許される使用範囲なのかが曖昧になってしまいます。例えば「〇〇システムの共同開発に向けた実現可能性調査のため」というように、できるだけ具体的に定めておくことで、受領側による予期せぬ使用を防止することができます。

⑶ 秘密保持義務の「有効期間」

NDAの効力をいつまで存続させるかという期間の設定です。

「契約締結日から〇年間」とするのが一般的ですが、取引の検討が不成立に終わった後も、情報の価値が続く限りは義務を存続させる必要があります。他方で、半永久的などの長い期間にわたって義務を存続させることは、受領側に過度な制約を課すことになりますので、無効となってしまう可能性があります。

そのため、対象となる情報の価値に応じた期間を設定する必要があります。

なお、NDAの実務においては、「義務を負わせるべき対象にグループ会社や再委託先が含まれているか(当事者の範囲)」という問題や、「違反があった場合の損害賠償額をどのように算定・立証するか」という点も、非常に重要な論点となります。これらの点については、こちらの記事にて解説していますので、併せてご参照ください。

5 秘密保持契約のよくあるQ&A

NDAに関してよく寄せられる質問にお答えします。

1.インターネット上のひな形(テンプレート)をそのまま使っても大丈夫ですか?

1.ひな形をそのまま使用することは、リスクが高いため、お勧めしません。

ネット上のひな形は、最大公約数的な一般的な内容で作られているか、または作成者の立場(開示側有利や受領側有利)に偏っているケースがあります。

自社のビジネスモデル、開示する情報の性質、自社が開示側か受領側かによって、有利に変えるべき条項は全く異なります。ひな形をベースにする場合でも、必ず弁護士等の専門家によるリーガルチェックを経て、自社やその取引にあった内容に修正して使用する必要があります。

2.相手方が「NDAの締結は不要」と拒否してきた場合はどうすればいいですか?

2.まずはNDAが締結されるまでは重要な情報を開示するべきではありません。

相手方が拒否する理由として、「手続きが面倒」「自社の標準ルールに反する」などが挙げられますが、NDAなしでの情報開示は自社の資産を無防備に晒す行為です。どうしても締結が難しい場合は、開示する情報を「流出しても痛手にならない範囲」に厳格に制限するか、あるいは相手方の懸念点(期間が長すぎる、範囲が広すぎる等)を確認し、契約の内容を修正して妥協点を探るべきです。

6 秘密保持契約書についてお悩みの方は当事務所へご相談ください!

秘密保持契約(NDA)は、一見すると定型的でシンプルな契約書に見えます。しかし、ここまで解説してきたように、一文字の違い、条項の有無によって、企業の重要な情報が守れるかどうかが決まってしまう重要な契約です。

そして、定型的でシンプルな契約書と見えるものだからこそ、その中に潜むリスクなどをチェックするためには、深い知識と経験が必要となります。

吉田総合法律事務所では、中小企業や中堅企業の企業法務・契約審査に対応してきております。単に一般的なひな形に当てはめるだけでなく、企業のビジネスを理解した上で、

「今回の取引において、自社が有利になるための修正ポイントはどこか」

「将来の紛争を未然に防ぐために、どの条項を削る(または加える)べきか」

を的確に見極め、実務に即したリーガルチェックおよび契約書作成をサポートいたします。

  • 「相手方から提示されたNDAの修正案を作ってほしい」
  • 「自社の事業内容にフィットした、使い回せるNDAのマスター(雛形)を構築したい」
  • 「急ぎの取引なので、迅速に審査してほしい」

このようなご要望がございましたら、いつでもお気軽に吉田総合事務所までご相談ください。

   

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