秘密保持契約(NDA)の契約期間・存続期間は何年が適切?弁護士が解説

新規取引の検討や共同開発の打診などのビジネスの初期段階において、頻繁に締結される「秘密保持契約NDA:Non-Disclosure Agreement)」。

実務上は頻繁に締結される標準的な契約書であることから、その中で規定される「契約期間」や「存続期間」については、

一般的なひな形にそう書いてあるから

とりあえず3年で

などと、深く検討されずに合意していることも少なくありません。

しかし、NDAの契約期間・存続期間は、自社が主に情報を開示する側かまたは受領する側かという点や、NDAを締結した後にどのような情報を開示するかという点によって、戦略的に設定すべき重要な条項です。

この設定を誤ってしまうと、自社の核心的な技術ノウハウが予期せぬ時点で第三者に開示できてしまったり、逆に他社の情報を永久に管理し続けなければならなくなってしまったりといった、深刻なリスクが生じてしまうことになります。

本記事では、NDAにおける適切な契約期間・存続期間の目安、実務上きわめて重要な「契約期間」と「存続期間」の違い、などの注意点について弁護士が詳しく解説します。

【目次】
1 秘密保持契約(NDA)とは?
2 秘密保持契約で契約期間・存続期間を定める意味とは?
3 「契約期間」と「存続期間(存続条項)」の違い
4 NDAの契約期間や存続期間は何年が適切か
5 自動更新条項を設ける場合の注意点
6 NDAの契約期間・存続期間を設定する際のポイント
7 契約期間・存続期間の設定を誤った場合のリスク
8 秘密保持契約を弁護士に相談するメリット
9 契約書に関してお悩みの方は当事務所へご相談ください

1 秘密保持契約(NDA)とは?

秘密保持契約(NDA)とは、自社が保有する営業秘密や技術ノウハウ、顧客情報などの秘密情報を他社に開示するにあたり、その情報を第三者へ漏えいすることや、取引の目的以外に使用することを禁止するために締結する契約です。

通常、本格的な業務委託契約や売買契約などの契約を交わす前の、ビジネスの検討段階で締結されることが多い契約です。

本来であれば、自社が保有する営業秘密や技術ノウハウといった重要な情報は、他社に開示するものではありませんが、ビジネスを行うために取引先候補者に対して一定の情報を開示しなければならないことがあります。そのような場合に、NDAを締結することで、開示した情報が必要以上に広まってしまうことを防ぐことができます。

すなわち、NDAは、企業の競争力の源泉である重要な情報を保護しつつ、安全にビジネスの交渉を進めるための契約といえます。

なお、NDAの一般的な事項については、こちらの記事もご覧ください。

2 秘密保持契約で契約期間・存続期間を定める意味とは?

実務上、秘密保持契約において契約期間・存続期間を定めることには、主に以下の2つの法的な意味および実務上の要請があります。

①契約条項の無効化リスクを回避するため

「自社の重要な情報を守るためであれば、期限を設けずに『永久に秘密保持義務を負う』と規定することが最善ではないか」と考えられるかもしれません。

しかし、合理的な理由がないにもかかわらず、相手方に永久かつ無制限の秘密保持義務を課す条項は、相手方に過度な制約を課すものとされてしまい、公序良俗違反(民法90条)や信義則違反(民法1条2項)として、その条項自体が無効と判断されるリスクがあります。

そのため、適法に秘密保持義務を課すためには、適切な期限を設定することが必要となります。

②情報受領側の管理コストおよびコンタミネーションリスクの軽減

情報を受け取る側(受領側)の企業にとって、他社の秘密情報を永久に厳重管理し続けることは、組織的・物理的に多大なコストを要します(そのため、上記のとおり秘密保持義務を永久に課すことは無効と判断されるリスクがあることになります。)。

また、秘密保持義務の中には目的外使用の禁止が含まれていることが通常であるため、不当に長期間の秘密保持義務が課されてしまうと、自社が将来独自に新しい技術や事業を開発した際に、相手方から「過去に開示した秘密情報を盗用したのではないか」と言いがかりをつけられるリスク(いわゆるコンタミネーションリスク)が高まります。

そのため、自社のビジネスを健全に発展させるためにも、一定の期間で秘密保持義務を消滅させることが必要となります。

3 「契約期間」と「存続期間(存続条項)」の違い

NDAの期間設定において、実務上よくある誤解は「契約期間」と「存続期間(存続条項)」の混同です。

秘密保持契約を締結する際は、以下の「2つの異なる期間」を明確に区別して設計しなければなりません。

期間の項目定義と実務上の意味
①契約期間契約当事者が、「秘密情報の開示を相互に行う期間」を指します。
原則として、契約期間外に開示された情報は秘密情報に該当せず、秘密保持義務で守られなくなります。
②存続期間契約期間が満了・終了した後も、「開示された秘密情報について秘密保持義務を負い続ける期間」を指します。
NDA自体は終了していますが、秘密保持義務等の義務が残存していることになります。

よくある致命的な失敗例として、NDAで「本契約の有効期間は、締結日から3年間とする」とだけ規定し、終了後の義務に関する定め(いわゆる存続規定)が忘れられてしまっていることがあります。

この場合、3年が経過して契約期間が満了した瞬間に、開示されたすべての情報に関する秘密保持義務まで同時に消滅してしまいます。

つまり、それ以降は、相手方が開示された情報を第三者に開示したり、自社ビジネスに使用したりしたとしても、責任を問うことができないことになります。

これを防ぐため、NDAの末尾には必ず以下のような「存続規定」を設けます。

(存続条項)
本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても、第〇条(秘密保持義務)、第〇条(目的外使用の禁止)および第〇条(損害賠償)の規定は、本契約終了後も〇年間有効に存続する。

「秘密情報のやり取りを行う期間(契約期間)」は1年間などと短く設定しつつ、「開示した情報の秘密を守らせる期間(存続期間)」は契約終了後3年間継続させる、というように期間を二段階で設計することが、NDAにおける極めて重要なポイントです。

4 NDAの契約期間や存続期間は何年が適切か

まず、NDAの契約期間は、NDAを締結する目的である事項(ビジネスの検討など)に一般的に必要と考えられる期間とすることが通常です。

例えば、M&Aや新規取引の可否などを検討するためのNDAであれば、契約期間を1年程度とすることが多いです。

これに対して、継続的な取引契約のために締結するNDAであれば、取引契約が継続すると考えられる3年~5年程度とすることがあります。

次に、NDAの存続期間については、開示される秘密情報の性質と、その取引において自社が「開示側」か「受領側」かによって判断する必要があります。

①開示する秘密情報の性質に応じた年数の目安

開示する秘密情報が重要であり、時間の経過によってもその価値が失われない情報であれば、秘密保持義務を長期間設定する必要があります。このような場合には、10年などの存続期間を設定することになります。

他方で、開示する秘密情報がそれほど重要なものではなく、時間の経過によってその価値が低下する情報の場合には、1年~3年などの比較的短い期間を存続期間とすることが多いです。

②開示側と受領側の利害調整

特に存続期間の設定においては、双方の立場によって利害が対立します。

開示側としては、情報流出等のリスクを最小限に抑えるために、存続期間はできるだけ長く設定したいと考えます。

これに対して、受領側としては、情報を管理することの負担と、将来の事業が制限されるリスク(コンタミネーションリスク)を減らすため、存続期間はできるだけ短く設定したいと考えます。

自社が当該NDAにおいてどちらの立場に立つかを明確にしたうえで、戦略的に存続期間の年数を設定することが重要です。

5 自動更新条項を設ける場合の注意点

NDAの契約期間について、「契約期間は1年間とする。ただし、期間満了の1ヶ月前までにいずれの当事者からも更新拒絶の書面による申し出がない場合は、さらに1年間自動的に更新されるものとし、以後も同様とする」という自動更新条項(ロールオーバー条項)を設けることがよく行われています。

自動更新は、契約を再締結する手間を省くことができる反面、当事者の立場によって以下のリーガルリスクが存在します。

①受領側のリスク

NDAの目的であるビジネスの検討等がすでに完了し、情報のやり取りが一切行われていないにもかかわらず、更新拒絶の手続きを失念していたために、NDAが自動更新され続けてしまう、という事態に陥りやすくなります。

自社が受領側になる場合は、自動更新は避けるか、または契約管理を徹底する必要があります。

②開示側のリスク

自動更新条項に依拠していると、相手方から突然「今回の契約期間の満了をもって更新しない」と通知された際、前述の「存続条項」の設定が不十分であれば、これまでに開示した秘密情報に対する秘密保持義務まで早期に消滅してしまうリスクがあります。

そのため、自動更新条項があるからと安心せずに、契約終了後も適切な期間、秘密保持義務を課すことができるように、存続期間を設定しておく必要があります。

6 NDAの契約期間・存続期間を設定する際のポイント

自社でNDAを作成する場合、または相手方から提示されたNDAのドラフトをチェックする場合は、以下のチェックリストなどを確認していただくことをお勧めいたします。

チェックリスト

当事者としての立場の確認
自社が開示側であれば存続期間を長めに、受領側であれば短めに調整されているか
開示する情報の価値との整合性
開示する技術やノウハウの価値が失われる時期と、存続期間の年数が合致しているか。
存続期間の設定と対象条項の指定
NDAが終了した後も、秘密保持義務や目的外使用禁止義務、損害賠償条項等が存続することが定められているか。
プロジェクトの検討スケジュールとの連動
NDAの目的であるビジネス検討等の交渉が長引いた場合に、その途中でNDAの契約期間が終了してしまうおそれがないか。

7 契約期間・存続期間の設定を誤った場合のリスク

NDAの契約期間・存続期間を不適切な内容で締結してしまった場合、企業は以下のような重大な経営リスクを負うことになります。

①開示側のリスク

秘密保持義務の早期消滅による情報の漏えいや流用

存続期間が適切に設定されておらず秘密保持義務が早期に消滅してしまった場合、相手方が開示された情報を第三者に開示したり、その情報を使用して競合ビジネスを始めてしまったりしたとしても、それを法的に差し止める手段がないことになります。

不当な長期設定による条項の無効化

合理性のない長期(または永久)の秘密保持義務を課す定めをした結果、裁判においてその条項全体が相手方に対して不当な制約を課すものとして無効と判断されてしまうリスクがあります。この場合、当該存続規定はなかったことになりますので、秘密保持義務を課すことはできなくなり、開示した情報が漏えいされたり流用されたりすることになります。

②受領側のリスク

◆半永久的な管理コストと監査リスク

取引が終わった過去の他社情報を、社内で厳重に永久に保管し、保管状態を監査し続けなければならない義務を負う可能性があります。

◆将来の自社開発・新規事業の制限

相手方から受け取った情報の存続期間が長すぎるために、自社が数年後に独自に立ち上げた新規プロジェクトに対し、「開示した情報を無断で流用したものでありNDAに違反している」と言われてしまい、事業の差止めや多額の損害賠償を請求されるコンタミネーションリスクが生じることがあります。

8 秘密保持契約を弁護士に相談するメリット

秘密保持契約(NDA)は定型的な契約書であるとして、インターネット上の無料ひな形をそのまま流用して締結されることがあります。

しかし、ここまで解説してきたように、「契約期間」と「存続期間」についての誤解や年数の設定によって、企業の重要資産である情報が無防備になったり、将来の事業展開が著しく制限されてしまったりというリスクを抱えてしまうことがあります。

そこで、ビジネスに理解のある弁護士に、事前にNDAを相談することで、このようなリスクを回避することができます。

現代の情報社会において大きなリスクを負ってしまう前に、弁護士に相談することをお勧めいたします。

なお、NDAの一般的な事項については、こちらの記事もご覧ください。

9 契約書に関してお悩みの方は当事務所へご相談ください

秘密保持契約(NDA)は、あらゆるビジネスの起点となる重要な契約です。

吉田総合法律事務所では、中小企業・中堅企業から大手企業まで、数多くの企業法務・契約審査に携わってきた実績と知見を活かし、迅速かつビジネスに即した契約書の作成・レビューを行っております。

また、当事務所では、社内に法務専門部署がない企業様や、日常的な契約書チェックの業務負担を軽減したい担当者様のために、迅速かつ的確に審査を行う「契約書審査のアウトソーシングプラン」もご用意しております。

安易に一般的なひな形でNDAを締結してしまう前に、ぜひ一度、吉田総合法律事務所にご相談ください。

関連記事はこちら

   

顧問先様の声

吉田総合法律事務所が提供する企業法に関するメールマガジン

03-3525-8820 03-3525-8820 メールでのご相談予約はこちらをクリックしてください。