中途採用社員が前職のデータを持ち込んだ場合の会社の責任は?営業秘密侵害で会社が捜査を受けないための防衛策について弁護士が解説

【目次】
中途採用による「前社データの持込み」は犯罪行為になる!?
会社も共犯に?不正競争防止法違反で捜査を受ける最悪のシナリオ
「知らなかった」では済まされないこともある!?企業が問われる致命的な民事・刑事責任
警察が来る前にとるべき防衛手段
「営業秘密の3要件」に欠けるところはないか要検討
営業秘密侵害のトラブルは吉田総合法律事務所へご相談ください!

中途採用した社員が前職の顧客リストやソースコードなどのデータを勝手に持ち込んでいた——

これは不正競争防止法違反(営業秘密侵害罪)となる可能性があり、放置すれば受け入れた会社や経営者まで共犯として刑事責任を問われるリスクがあります。

本記事では、他社のデータの持込みが発覚した際に会社が取るべき初動対応と、刑事・民事責任を回避するための実務的な防衛策を解説します。

1 中途採用による「前社データの持込み」は犯罪行為になる!?

採用担当A

同業他社から、トップクラスの成績を誇る営業マンを引き抜くことができた!

採用担当B

競合の主力システム開発を担っていたリードエンジニアを採用した。これで自社の開発スピードが一気に上がる!

ベンチャー企業やスタートアップ企業において、業界経験が豊富で即戦力となる中途採用の人材は、事業を急成長させるための大きな財産(人材)となります。特に、リソースが限られている企業においては、「教育の手間が省け、すぐに成果を出せる存在」として、経営陣も大きな期待を寄せることでしょう。

しかし、その輝かしい財産(人材)が、会社の経営に深刻な影響を与えるリスクになる瞬間が存在します。

それは、中途採用で入社した社員が、「前の会社の顧客リスト(担当者名、過去の取引履歴、単価情報など)」や、「システムの設計図ソースコードアルゴリズム」といった機密情報を、USBメモリ、私用のクラウドストレージ、あるいは自分宛てのメール転送などの手段を用いて、勝手に自社のパソコンに持ち込んでいたことが発覚した時です。

中途社員A

社長、前社のデータを使えば、すぐにでもあの大型案件を受注できますよ

中途社員B

このソースコードを流用すれば、開発期間を半分に短縮できます

悪気もなく、むしろ自分の手柄として笑顔で語る中途社員を前にしたとき、経営者は決してその提案に乗ってはなりません。直ちに最悪の事態を想定する必要があります。

なぜなら、これは単なるモラルや職業倫理の問題ではなく、不正競争防止法違反(営業秘密侵害罪)という、重大な企業犯罪の入り口に他ならないからです。本人は「自分が作ったリストだから自分のものだ」などと勘違いしているケースもありますが、法的には前社の財産を窃取しているのと同じ行為です。

2 会社も共犯に?不正競争防止法違反で捜査を受ける最悪のシナリオ

日本において、企業の持つ価値ある情報は、不正競争防止法という法律によって守られています。不正競争防止法は、企業の「営業秘密」を不正に取得したり、それを不正に使用・開示したりする行為を厳しく罰しています。

もし、前の会社が、「退職した社員が当社の重要データを持ち出し、転職先で不正に利用している」として警察に被害届を提出したり、刑事告訴を行ったりした場合、事態は経営者の想像を絶するスピードで、最悪のシナリオへと突き進みます。

ある日突然、朝一番で会社のオフィスに数十名の捜査員が踏み込み、家宅捜索(強制捜査)が行われます。社内にあるパソコン、ファイルサーバー、従業員の社用スマートフォン、果ては社長自身の個人的な携帯端末に至るまで、証拠物としてすべて押収されてしまいます。当然、その日から通常の業務は完全にストップします。

事態はそれだけにとどまりません。報道機関に「営業秘密侵害の容疑で家宅捜索」と報道されてしまうと、取引先や金融機関からの信用は一瞬で地に落ち、融資の引き揚げや取引停止の連鎖が始まります。

さらに恐ろしいのは、データを物理的に持ち込んだ張本人(中途社員)だけでなく、「そのデータが不正に持ち出されたものだと知りながら、会社の利益のために使わせた」として、受け入れた会社の社長や役員までもが共犯として逮捕・起訴されるリスクがあるということです。また、不正競争防止法には「両罰規定」が定められており、個人のみならず、その業務主体である法人(会社)に対しても、最大で5億円以下の罰金という極めて重い刑罰が科される可能性があります。

上記のシナリオは一つの例であり、必ず刑事事件となるわけではありません。家宅捜索などの強制捜査は行われずに、任意に証拠の提出を求めたり、事情聴取を行ったりして任意捜査だけで進んでいくこともあります。任意捜査だけで進んだ場合には、ニュース報道はされないこともあります。また、前社の情報やデータを持ち出せば直ちに犯罪となるわけではなく、持ち出した情報やデータが不正競争防止法の「営業秘密」に該当する場合に限られます(詳しくは下記5をご参照下さい。)。

しかし、2022年にカッパ・クリエイト社(かっぱ寿司の運営会社)が家宅捜索されたことが報道されたように、営業秘密を侵害してしまった場合に捜査機関による強制捜査が開始されてしまうリスクは否定できません。そのため、営業秘密を侵害してしまったかもしれないと分かったときは、最悪のシナリオを想定して対応することがポイントです。

3 「知らなかった」では済まされないこともある!?企業が問われる致命的な民事・刑事責任

社長

中途社員が勝手にデータを持ち込んで使っていただけで、会社(経営陣)は一切関与していないし、知らなかった

警察の厳しい取調べにおいて、あるいは民事裁判の法廷において、多くの経営者がこのように主張して会社や自身を守ろうとします。しかし、実務において、知らなかったことを証明して責任を逃れることには、高いハードルがあります。

法律上、情報が不正に取得されたものであることを「知っていた(悪意)」、あるいは「少し注意すれば容易に知ることができたのに、重大な不注意で見落としていた(重過失)」と判断されれば、受け入れ側の企業も法的責任を免れることはできません。

例えば、中途入社したばかりの営業マンが、自社には全く接点のないはずの大手企業から次々と大型契約を獲得してきたとします。経営陣が「どうやってその顧客を開拓したのか?」という当然の確認を怠り、ただ売上が上がったことだけを手放しで称賛していた場合、後から「不自然な成果であることに気づくべきだった(重過失があった)」と認定されるリスクが出てきます。

さらに、社内のチャットツール(SlackやChatworkなど)やメールの履歴に、「前の会社のリスト、すごく役に立つね。この調子でどんどんアプローチして」などといった、経営陣や上司からの指示や称賛のメッセージが残っていれば、それは会社ぐるみでの不正使用を裏付ける証拠となりえます。

また、刑事責任(拘禁刑や罰金刑)もさることながら、民事上の責任も企業にとって致命傷となります。前の会社から、不正競争防止法に基づく差止請求を受けた場合、そのデータを利用して開発していたシステムの販売停止や、獲得した顧客への営業活動の即時停止を命じられてしまうかもしれません。自社の主要な事業が差し止められれば、経営は立ち行かなくなってしまいます。これに加えて、前社が被った損害(本来得られるはずだった利益の喪失など)について、数千万円から数億円規模の損害賠償請求を受けることになれば、企業の存続にもかかわることとなってしまいます。

4 警察が来る前にとるべき防衛手段

もし、社内で中途社員による前社データの持ち込みが発覚した場合、あるいは前社から突然、営業秘密の不正使用に対する警告書が届いた場合、初動対応が会社の命運を決定づけることになります。

この場合において、経営陣だけで話し合って対応を判断することは、得策ではありません。直ちに弁護士に相談等をした上で、以下の対応をする必要があります。

① 対象社員の隔離とデジタル・フォレンジックによる証拠の保全

疑惑が浮上した瞬間、直ちにその社員を業務から外し、使用していたパソコン、スマートフォン、タブレットなどを社内ネットワークから物理的に切断して隔離します。

ここで絶対にやってはいけないのが、経営陣が慌てて「パソコン内の該当データを削除する」ことです。捜査機関が介入した際、データの削除は悪質な証拠隠滅行為とみなされてしまいます。

そのため、専門のデジタル・フォレンジック業者を手配し、端末のデータを改ざんされていない客観的な状態で保全し、いつ、誰が、どのデータにアクセスしたのかを正確に解析することが最初のステップです。

② 会社としての不関与を証明する客観的な証拠の確認

「会社はデータの持ち込みを指示しておらず、事業の根幹にも使用していない」という事実を、客観的な証拠に基づいて証明するための論理を構築します。

中途社員を採用した時に「前職の機密情報を絶対に持ち込まない、使用しない」という誓約書を作成していたかどうかの確認や、社内のアクセスログ、関係者へのヒアリングなどを通じて、会社としての管理体制に落ち度がなかったことを主張する準備を整えます。

③ 捜査機関・相手方との交渉

警察の捜査が本格化する前、あるいは相手方となる前社からの訴訟が提起される前に、弁護士を代理人として立て、捜査機関や相手方との交渉を開始します。

場合によっては、警察に対して「会社としては全く与り知らぬ個人的な犯行であり、会社も被害者である」などという意見書を提出するなど、先手を打って防御を図ることも検討する必要があります。

5 「営業秘密の3要件」に欠けるところはないか要検討

相手方(前社)が「自社の営業秘密が盗まれた」と主張し、警察に被害届を提出しようとしたとしても、直ちに警察が動くわけではありません。不正競争防止法において、持ち出された情報が法的な「営業秘密」として認められるためには、以下の3つの厳しい要件をすべて満たしている必要があり、警察もこの要件を満たしているかを検討することになります。

① 秘密管理性

その情報が、誰にでもアクセスできる状態ではなく、パスワード制限やアクセス権限の設定、「マル秘」の表示などによって、会社として客観的に秘密として管理されていたこと。

② 有用性

その情報が、事業活動にとって有用な技術上または営業上の情報であること。

③ 非公知性

その情報が、一般には知られていない(公になっていない)こと。

実は、企業、特に中小企業の多くは、この3つの要件のうち「秘密管理性」を満たしていないケースが一定数存在します。

「誰でも見られる共有フォルダに、パスワードもかけずにエクセルファイルが放置されていた」

「退職者でも簡単に社外からアクセスできる管理体制だった」

といった実態を弁護士が証拠とともに主張することができれば、そもそもそのデータは法律上の「営業秘密」に該当しないことになります。営業秘密でなければ、不正競争防止法違反という犯罪は成立せず、刑事責任や民事責任を免れることができます。もっとも、秘密管理性の要件が否定されて「営業秘密」に該当するか否かは明確ではなく、「営業秘密」に該当しないと言い切れないことも少なくありません。そのため、秘密管理性の要件を欠くという主張は最後の手段であると考え、「営業秘密」に該当する可能性のある情報を発見した場合には、直ちに使用を中止するなど、「営業秘密」に該当することを前提とした対応をとることが安全です。

6 営業秘密侵害のトラブルは吉田総合法律事務所へご相談ください!

中途社員による営業秘密の持込み事案は、発覚したその瞬間から、通常の企業法務の対応を超えた刑事事件という緊迫した事態を想定して対応する必要があります。ここでは、契約書チェックなどといった平時の対応ではなく、警察・検察という強大な国家権力との折衝能力と、ビジネス構造への深い理解という特殊な能力が求められます。

吉田総合法律事務所の弁護士は、複雑なビジネスモデルの理解と、有事における捜査機関への防衛の双方に対応しております。

採用担当A

最近中途採用した社員が、どうも怪しいデータを持ち込んで業務に使っている疑いがある

中途社員B

前の会社から『データを盗んだだろう』と警告書が届き、いつ警察が来るかと心配である

もし、企業がこのような問題を抱えてしまった場合は、決して放置せず、取り返しのつかない事態になる前に、吉田総合法律事務所へご相談ください。

   

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