パワハラ事案における社内調査・ヒアリングの方法とは?

Q1 社内調査の目的は?

A1

社内調査は、相談者から寄せられた被害申告内容について、事実があるかないか(事実の有無)、事実が存在する場合は事実の具体的内容はどのようなものだったか(具体的内容は何か)を認定し、その具体的事実について法律違反または社内規程(就業規則等)違反があるかどうかを判断するために行います。

そのため、社内調査担当者の最初の任務は、「抽象的ではなく具体的に」、「パワハラとして訴えられた事実があるかないか」の調査を行うことです。

具体的事実とは、例えば、「令和5年4月〇〇日午後〇時頃、本社〇会議室において、BさんがAさんに対し、お前は人間のクズだ、給料泥棒だ、ウジ虫のような奴だと何回も罵りながら、Aさんの頭を小突いた。」といった内容です。「令和5年4月頃、BさんがAさんにパワハラをした。」は具体的事実ではありません。ヒアリングにおいては、いわゆる5W1Hを意識して聴取すると良いでしょう。

Q2 社内調査は大まかにどのような順番で行いますか?

A2 

まず、客観的証拠の有無とその内容を確認します。客観的証拠とは、文書による証拠などのことで、パワハラ調査ではメール、SNSメッセージの履歴、音声の録音データなどが代表例です。客観的証拠だけでパワハラに該当する事実の有無・内容を認定できる場合もありますが、多くのパワハラ調査では、客観的証拠が乏しくそれだけでは認定できない場合が多いです。

その場合は当事者や第三者へのヒアリングによってパワハラ該当事実の有無・内容を調べることになります。

Q3 ヒアリングは誰に対してどのような順番で行いますか?

A3 

一般的には、以下の順番で行います。

Aさん→Bさん→Cさん、Dさん、そして客観的証拠と照合しながら適宜、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんへの補充ヒアリングを行います。

Q4 Aさん(パワハラを受けたと訴えた人)に事前に確認しておくべき事項は何ですか?

A4 

  1. 心身の状況について確認・配慮します。
  2. Aさんに、関連するメール等(客観的証拠)を消さないことを指示します。
  3. 目撃者などの第三者(上司、同僚、部下等)がいるかどうかを、いる場合は誰かを確認します。Aさん、Bさんと関係性が薄い第三者がいればなお良いです(利害関係が強い第三者の証言より、利害関係のない第三者の証言の方が信用性が高く、事実認定に有用だからです。)。
  4. Aさんから以下の了承を得ます。

【了承を得る事項】

Bさん、Cさん、Dさん等のヒアリング対象者に、Aさんの名前とAさんが訴えた被害内容の全部又は一部を知らせることの承諾を得ます。パワハラ調査では、誰が被害者で誰が加害者なのか、何をしたのか/されたのか、についてその有無と内容を正確に調べる必要があるからです。匿名では十分な事実調査ができず、パワハラに該当する事実を認定することが困難です。

Q5 ヒアリングに当たって調査担当者が事前に準備すべきことを教えてください。

A5

①就業規則等の確認

社内調査により事実が認定されたら、その事実が懲戒事由に該当するか否かを判断することになります。また、社内調査手続についての規程が置かれていることもあります。そのため、ヒアリングに当たっては、会社の就業規則やハラスメント規程を参照しておくことが必要です。

②パワハラの定義・6類型の確認

ある事実のパワハラ該当性を判断するためには、パワハラの定義を理解しておくことが必要です。労働施策総合推進法第30条の2第1項は、パワハラを「職場において行われる」「優越的な関係を背景とした」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動により「労働者の就業環境が害される」ものと定義しています。いわゆるパワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号))は、パワハラの6類型を紹介しています。詳しくは当事務所のHPをご覧ください。

③客観的証拠の収集と確認

社内サーバーに残されたメール、監視カメラの画像、加害行為があったとされる現場の写真などは、調査担当者の権限によっては調査担当者自身が収集できます。なお、パワハラ調査では、調査担当者に上記調査権限が一任されることが多いです。

ヒアリングにおいては、客観的証拠との整合性を意識しながら進めます。なお、ヒアリング中も、ヒアリング対象者が、調査担当者の知らない客観的証拠について言及したときは、その客観的証拠を入手できるようにヒアリングしてください。

Q6 調査担当者の守秘義務について教えてください。

A6

パワハラ指針は、パワハラに関する相談者・行為者等の情報は、当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであるから、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるべき等と定めています。

そのため、調査担当者には守秘義務があります。

但し、その守秘義務の範囲(情報を共有できる範囲(経営陣、人事部、法務部、事案が発生した部署など)、守秘すべき情報の範囲はどこまでか(パワハラを訴えた人の名前、パワハラをした人だと名指しされた人の名前、調査で知った内容全般、誰からヒアリングをしたのか等))については、会社の規則を確認する必要があります。

  

Q7 ヒアリングは録音すべきでしょうか?

A7 

会社は、ヒアリング対象者に伝えた上で、原則、録音すべきです。

Q8 ヒアリング対象者による録音は認めるべきでしょうか?

A8

原則、拒否すべきです。ヒアリングにおいては、社内情報や個人情報が語られる可能性がある一方、ヒアリング対象者による録音を認めると、録音データの開示・漏洩の危険が高まるからです。

Q9 ヒアリング対象者(特にパワハラをした人だと名指しされたBさん)から弁護士などの第三者の立会いを求められた場合はどうすれば良いですか?

A9

会社の規則に立会いを認める根拠があるかを確認します。ない場合は、調査担当者の裁量により判断して構いません。

Q10 ヒアリング前にヒアリング対象者に告知すべきことは何ですか?

A10

①ヒアリング実施者の立場(部門、職務等)を明らかにします。

②ヒアリングの目的(事実の確認等)を明示します。

③ヒアリング対象者の立場(パワハラを受けたと訴えた人(Aさん)/パワハラをしたと名指しされた人(Bさん)、目撃者等の第三者(Cさん、Dさん)、広くアンケートを行っている集団の一員等)を説明します。

④不利益取扱いを行わないことを説明します。

会社は、労働者がパワハラに関する相談をしたことや会社の相談対応に協力して事実を述べたことを理由として不利益な取り扱いを行ってはなりません(労働施策総合推進法第30条の2第2項)。これは真実を語ってもらうためにも不可欠な告知です。

⑤口外禁止

公正な調査のために、ヒアリングを受けたことやヒアリングの内容については口外禁止とします。これは社内規程で明記すべきです。

⑥報復行為の禁止

Bさんに対するヒアリングにおいては、報復行為を禁止します。これも社内規程で明記すべきです。

Q11 ヒアリング対象者から調査担当者が持っている資料を見せるよう要求された場合はどのように対応すべきでしょうか?

A11

会社の規則がある場合はそれに従います。ない場合は拒否して差し支えありませんが、開示の可否の判断は、関係者のプライバシー保護の観点から慎重に行う必要があります。

Q12 ヒアリング対象者から他のヒアリング対象者の聴取内容を教えるよう要求された場合はどのように対応すべきでしょうか?

A12

会社の規則がある場合はそれに従います。ない場合は、前提となる調査担当者の守秘義務の内容を確認し、抵触する場合は拒否すべきです。

Q13 ヒアリング時間はどれくらいにすべきでしょうか?

A13 

ヒアリング対象者の負担を考え、1回のヒアリング時間は、1時間程度、長くても2時間とした方が良いでしょう。

Q14 事実認定において、パワハラを受けたと訴えた人(Aさん)、パワハラをしたと名指しされた人(Bさん)、第三者(Cさん、Dさん)の供述が食い違う場合はどのように判断すれば良いですか?

A14

争いのない部分と争いのある部分に分けます。争いのない部分については、争いのない事実として認定して差し支えありません。

争いのある部分は、争いのない事実、客観的証拠、目撃者等第三者(Cさん、Dさん)の証言に照らして、いずれの供述の信用性が高いかを判断します。また、各々の供述内容に一貫性があるか、矛盾点がないかという点も重要です。

真偽不明の場合には、当該事実を認定することはできません。すなわち、当該事実についてはパワハラに該当するとして何らかの処分をすることはできない、ということになります。

しかし、Aさんが訴えた(当初申告した)事実が真偽不明でパワハラに該当しない場合でも、Bさんの違法・不当な言動を一部認定できる場合があり得ます。

すなわち、Aさんの訴えた事実が存在したと認められなかった、またはAさんの訴えた事実は存在したがパワハラに該当するとまでは言えない場合であっても、その他の人(例えば、Bさんの別の部下でAさんの同僚であるEさん)に対する行為がパワハラに該当すると判断できたり、Bさんに全く別の法律違反行為や就業規則違反等(違法・不当行為)を認定できる場合もあり得ます。

会社としては、このような場合に備え、社内規程において、調査担当者に、Aさんが訴えた事実とは別の違法・不当行為を認定し、それを社内の処分権者(人事権を持つ者など)に開示できる権限を与えておくことが望ましいです。

会社にこのような規程がない場合は、Bさんへのヒアリングの冒頭において、Aさんが訴えた事実以外の事実であっても、調査を通じて発覚した違法・不当な事実があれば、それらの事実を処分権者などに開示し、それらの事実に基づき処分されることがあり得ることを、明確に伝えておいた方が良いでしょう。

Q15 パワハラを受けたと訴えた人(Aさん)へ調査結果をフィードバックする際に留意すべきことは何ですか?

A15

①状況報告

調査が長期化した場合は、1~2ヵ月に1回を目途に、状況報告を行うと良いでしょう。ただし、後日のトラブルを避けるために、調査結果を予測できるような報告は避けるべきです。

②最終の調査結果報告

結論のみを口頭で伝えることでも差し支えありません。会社は、調査過程で得られた個人情報やプライバシー情報を正当な事由なく開示してはならないからです。ただし 、申告内容を否定する結論の場合は、納得を得るため、理由の骨子を伝えた方がよい場合が多いと考えます。

Q16 調査の結果、パワハラに該当する事実を認定できた場合は、どうすればよいですか?

A16

①被害者に対する配慮のための措置

事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を行います。

②加害者に対する措置

行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じます。

ほとんどの会社では、懲戒処分の対象事由にパワハラが定められていると思います。そのため、調査の結果パワハラ該当事実を認定できた場合には、会社は、懲戒処分か懲戒処分ではない厳重注意などを検討することになります。

もっとも、パワハラ調査担当者はパワハラ調査の内容と結果を社長または人事権(懲戒権)のある部署に報告することで、責務を終了します。

その後は会社が懲戒処分のための懲戒委員会などの社内手続きに移行するか、懲戒ではなく上司による注意(口頭注意、厳重注意など)にするかを検討すると思います。

懲戒処分については当事務所のHPを参照してください。

あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講じます。

③改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じます。

上記①~③については、厚労省パンフレットP27~28をご覧ください。

Q17 パワハラの相談があったにも関わらず、放置した場合に会社が受ける不利益は何ですか?

A17 

①民事上の責任

会社は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとされています(労働契約法5条、職場環境配慮義務)。

パワハラの相談がなされたにも関わらず、十分・適切な社内調査が行われない場合、この職場環境配慮義務に違反したとして、損害賠償請求される可能性があります(民法415条、民法709条)。

また、会社は、パワハラ行為者の使用者として、使用者責任に基づく損害賠償請求をされる可能性がありますし(民法715条)、パワハラ行為が会社ぐるみで行われた場合は、会社自身の不法行為責任(民法709条)を追及される可能性もあります。

②労災申請

パワハラによる精神疾患で療養や休職を余儀なくされた場合、労働者から労災申請がなされる可能性があります。なお、労災給付で填補されない損害については、上記①の民事上の責任追及がなされます。

③行政上の責任

会社がパワハラに関する雇用管理上の措置義務(労働施策総合推進法30条の2)に違反した場合、行政機関から助言、指導または勧告を受けるおそれがあり(同法33条1項)、勧告に従わない場合はその旨を公表されることがあります(同法33条2項)。また、会社が求められた報告(同法36条1項)について報告せず、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料に処せられます(同法41条)。

また、パワハラに関する雇用管理上の措置義務について労働者と紛争が生じ、労働者が援助を求めた場合、会社は、労働局から助言、指導または勧告(同法30条の5第1項)を受ける可能性があります。また、調停の申請があった場合は(同法30条の6第1項)、紛争調整委員会による調停に応じなければなりません。

④経営上の責任

社内のモラル低下による生産性・業績の悪化、人材の流出、企業イメージの悪化・採用への悪影響などが考えられます。

   

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